第11話 冥土の土産

「キアラよ。すまないが、お前に人身御供となってもらうことになった」


 魔獣を怪しげな祈祷師たちが追い払った翌日。


 村長がやってきて唐突に無茶なことを言ってきた。


 確かに祈祷師たちは生贄が必要とか言ってたけど、人間でそれをやる必要なんてあるのか?


 キアラは最初、とうとう来たかという顔をしていたが、徐々に困惑の色が強くなってきた。


「それは……どうしてわたしなんですか?」


「人身御供となる女は独り身でなければならんと祈祷師様たちも仰っておられる。お前には夫はおらぬし、将来を約束した彼氏もおらぬはずだ」


「もちろん独り身のことは知ってます。それでしたら、わたしには既に将来を誓った男がいますから」


「な、なんと。誰じゃそれは?」


「ここにいるタツノスケです」


 えっ?

 そんな話、オレは聞いてないぞ。


「確か、村外れのところに行き倒れていた男だな。いつの間にそのような仲に」


「介抱してあげてるうちにそういう仲になったの。ねえタツノスケ?」


 そう言うとキアラはオレの首筋に腕を回して身体を密着させ、ついでにウインクしてきた。


 わけがわからないがここは話を合わせておいたほうが良さそうだ。


「そう、そうなんですよー、村長さん」


 若干、棒読みな言い方になってしまったが打ち合わせも無しなので仕方がない。


「そうか……今は他に候補がおらぬし困ったのう」


 村長は参ったなあという仕草をしながら立ち去った。


「……このためにオレを引き留めていたんだな」


「ごめんね〜。でも、助けてあげたんだから、これくらいはお礼替わりにしてもらってもいいでしょ?」


「それじゃあずっと、ここで一緒に暮らせと?」


「わたし、こんな村は出て行くつもりなんだけど。でも祈祷師様に払うおカネは毎回村人から徴収されるから、すぐには無理なのよね」


「それで?」


「だから、おカネが貯まるまではお願い。それか他に男ができるか……。だけどわたしはタツノスケのこと満更でもないのよ?」


「オレは独りダラダラできる安住の地が欲しいんだ」


「何よそれ。自分で言うのもなんだけど、そんなに魅力ないかしら? 美人のお姉さんと一緒に暮らせるのに何が不満なんだか」


 まあ確かに彼女は美人だと思うが。

 オレが望んでいるのはそういうのじゃないんだよなあ。


 老若男女関係なく誰であれ、ずっと一緒に暮らすなんて煩わしくて仕方がないんだよオレは。


 だが恩を仇で返すわけにもいかない。


 しばらく一緒に暮らすことに同意せざるを得ないのだ。



 翌日、オレは村長に呼び出された。


 場所は何故か、今は使われていない古井戸があるところで、普段は誰も近づかない。


「すまんな。昨日キアラが言っていたことを改めて確かめたいと思ってのう」


「そうですか。彼女の言う通り、オレが彼氏で間違いないですよ」


「それだけではのうて……その、普段の生活ぶりとか、身体の関係とかを詳しくだな」


「え〜、村長さんといえどもそこまで言わないといけませんかね?」


「村の存亡がかかっておるからのう。キチンと確認せんとな。話しにくいだろうから古井戸のところで話そうではないか」


 村長はオレの身体を後ろから押しながら古井戸の傍に連れて行くのだが。


「ウッ!?」


「クックック。お前に恨みはないが、ここで消えてもらおうかの」


「クソ、何するんだ?」


 村長にいきなり背中をナイフか何かで刺されたオレは、古井戸に落とされそうになったが抵抗していた。


 しかし、途中から老人とは思えぬ力が加わって、とうとう落とされてしまった。


「うわぁーー!」


「ふう。お力添えありがとうございます」


「フフフ。これで邪魔者はいなくなったな」



「キアラ、お前の彼氏はどこへ行ったのだ?」


「タツノスケ……行かないでって言ったのに」


「それでは村のみんな、キアラに人身御供となってもらうことに依存はないな?」


「仕方がねえべ……誰かにやってもらわねえと、村があの魔獣に滅ぼされてしまう」


「ではあの山の麓へキアラの身柄を運ぼうかのう。手伝え皆の衆!」


「ううっ……」



「さあこの洞窟の中へ入れ! 皆の衆はもう帰って良いぞ」


「痛い! ……どうしてここに祈祷師様たちが?」


「フフフッ。ようやく生贄がきおったか〜」


「久しぶりに楽しませてもらおうか」


「どういうこと? 村長もグルなの?」


「その通り。気づくのが遅かったのう」


「お前は魔獣ではなく我らに供物されたのだ〜」


「なっ……なによそれ?」


「お前は俺たちの慰み者となって散々身体を弄ばれて、飽きたら嬲り者にされて死ぬ運命なのさ」


「そんな……あんたたち何者なの?」


「クックック。少し早いが冥土の土産に教えてやろう〜。我らは、異世界から王様に召喚された能力者なのだ〜」


「まあ、戦場で大して役に立たねえ能力だって王様に追放されたがな。でもお陰で、あちこちで何も知らねえ村人相手にやりたい放題よ」


「我がスキル『ホログラム』で幻の魔獣を出現させて〜」


「俺が羽ばたきや咆哮に合わせてスキル『念動力』で建物を壊したり人を吹っ飛ばして騙してたってわけだ」


「酷い……そうやっておカネを巻き上げてきたんだ」


「そしてわしは、このお二人への窓口として村長の権力を維持できる。カネの一部をキックバックしてもらえるしな」


「やだ……誰か助けて」


「誰も来ぬわ〜。そうそう、タツノスケとやらも我らが始末した。我らは基本的に生娘しか興奮せぬ性癖だが、たまには彼氏を殺してから寝取るというのもなかなかソソる展開よのう〜」



「話は聞かせてもらったぜ」


「お、お前はタツノスケ! 殺したはずなのになぜ生きてる?」


 久しぶりに悪党どもが驚愕した顔を楽しめた。


 それにしても、本当に『冥土の土産』なんて言うヤツがいるんだな。


 オレの死体を確認しなかったことに加えて、奴ら自身で逆転フラグと死亡フラグを立てちゃったんだから、オレの生存フラグが発動するのは当然だった。


「お前らの死亡フラグは既に頂いた」


「何言ってんだてめえ、頭沸いてんのか。一般人相手なら俺の念動力で十分殺せるんだよぉ!」


 身体に力が加わってくるのを感じたが、お前らは既に死亡フラグが立ってるんだよ。


 オレの身体は自動的に激しく回転して遠心力で念動力を撥ねつける。


 そのまま高速で祈祷師の奴らに近づいて傍らを通り抜けた。


「何だ今のは。何も起こらねえじゃ……」


「お前らはもう終わっている」


「グワァーッ!」


「オゲエエッ!」


 2人の胴体は真っ二つとなったのだ。


 そして村長の前に立つと、その額に闘気を指で送り込んで精神をコントロールする。


 それから村人たちの前に引きずり出してやると、ヤツはこれまでの悪事をすべて白状した。


「てめえ、よくも今まで騙してやがったな!」


「ギャアアア、許してくれ〜!」


 まあ、あとは煮るなり焼くなり、役所にでも突き出すなり村人たちに任せよう。


「それじゃあなキアラ、本当にお世話になった。ありがとうな」


「行っちゃうのね……。わたしもいずれは村を出ていくけど、タツノスケといつか出会えるのを待っているから」


 まあ、再会したら話くらいはするよ。


 とにかくオレは独りダラダラできる安住の地を求めて旅立ったのだ。

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