第10話 生贄
「お帰り、カーラ」
「……ゴーレムがタツノスケを押し潰すところは見えたの」
「そう。僕も手元で、ゴーレムに課したコマンドの実行状況が完了ステータスに移行したことを確認済みだから、ヤツは死んでいるよ」
「でも、前に戦った時は『せいぞんふらぐ』とかいう技で生き返ったの」
「もちろんわかってるよ。僕もそれはどういうものかよく知らないけど、たぶん運命とか因果律を覆すようなスキルなんだと思う」
「ミノル、お前のスキルであれば生き返ったりしないというのは間違いないの?」
「ああ。僕のスキル『ゴーレム使い』は土や岩からゴーレムを生成して、それにコマンドを入力することで遠隔自動操縦型として運用できるからね。運命とかどうこうできる余地はないよ」
「つまり、土人形が自動でやったことだから運命なんて関係ないってこと?」
「その通りさ。だからさ、安心して僕と一緒に食事でも……」
「……まだ魔族の女は仕留めていないの。だから次に備えて今日はもうお休みするの」
「ああ、そう」
◇
オレは気がつくと、どこかの家の中でベッドに横たわっていた。
確か、ゴーレムにいきなり叩き潰されたはず。
ここはあの世か……いや、身体をつねると痛いから肉体がある、つまりこの世にいるということだ。
ということは何らかの生存フラグが発動したのだろうか。
でも今回はどういった内容で発動したのかさっぱりわからないなあ。
「あっ、気が付いたのね。あなた村の外れに倒れていたのよ。しかも服装がボロボロだったから、とても驚いちゃった」
オレより少し年上、20代前半くらいの女性が部屋に入ってくるなりオレの状況がどうだったか説明してくれた。
「あの、助けてもらったみたいで、ありがとうございます。イテテ……」
「まだ動かないで。身体も傷だらけだったのよ」
今回は受けたダメージが大き過ぎたのか、生存はしていても身体の回復までは追いつかなかったようだ。
「オレはタツノスケといいます。身体が動くようになったら、すぐに出て行くんで」
「そんなに慌てなくていいから、キチンと治るまでここにいなさい。わたしはキアラ。一人暮らしだから気を使わなくていいわよ」
人が良いのか知らないが、若い男を無防備に家に上げるのはどうかと思う。
まあ、オレは世話になった人におかしなマネをするつもりはないからいいけどさ。
そういうわけでしばらくキアラの家に厄介になることになったわけだが。
徐々に身体を治しつつ、家の中の掃除とかできることを手伝ったりして日々を過ごした。
世話になりっぱなしは避けないと……オレには礼として返せるような物は何も無いのだ。
それはともかくとして、かなり回復してきたから、そろそろ出て行く準備を始めようかな。
オレはリビング替わりに使われている部屋に入ってきたキアラに話すことにした。
「キアラ、今まで本当にありがとう。オレ、もう行くよ」
「行くってどこへ? 行くあてなんて無いんでしょ。ずっとここに居ればいいじゃない」
「でも、これ以上は世話になるわけには」
「わたしがいいって言っているんだからいいじゃない! それともなに、わたしのことがそんなに嫌いなの?」
「いや、そういうわけじゃ……」
「じゃあ決まり。勝手に出て行っちゃダメだからね!」
キアラはそう言うと部屋を出て行ってバタンと強くドアを閉めた。
何もそんなにムキになって怒らなくても。
しかし今更ながらだが、この村は奇妙だ。
オレがゴーレムにやられた地点からすぐ近く、つまり国境近くということなので、人が少ないのはわからんではないのだが。
どの村人も、どこか怯えながら暮らしているという感じで、顔に生気が感じられない。
しかしその理由はすぐにわかった。
「魔獣が出たぞー!」
「キャーッ!」
「ちくしょう、しばらく現れなかったのに!」
こんなところに?
ちょっと疑いながらも家の中から空を見上げると。
巨大な魔獣が村へ飛んできているのが見えた!
全長20メートルはあろうかというドラゴンっぽい魔獣が咆哮を上げながら近づいてくる。
「皆さん落ち着いて、まずは村外れに避難を! あとは我々に任せてもらおう」
なんなんだ?
祈祷師みたいな格好した男2人が大声で呼びかける。
「タツノスケ、祈祷師様たちがなんとかしてくれるから逃げるわよ!」
キアラに急かされて村外れに行こうとするところでチラッと見ると、祈祷師たちがゴニョゴニョ唱えながら祈りを捧げる姿だった。
魔獣はしばらく空中に留まっていたが、祈祷の効果があったのか来た方向へと身を翻して去っていった。
「祈祷師様、今回もなんとお礼を申し上げてよいやら」
村長っぽい老人がお礼を言っているが、祈祷師たちは横柄な態度だ。
「んん〜、我らは命がけで魔獣と対峙したのだぞ〜。感謝しておるなら、態度で示してもらわんとな〜」
「あっ……もちろんです。あとで用意致しますので」
「さすがは村長、物わかりが良い。いつも通りを期待しているからな」
「ん〜、またそろそろ生贄を捧げんとなぁ。我らの力だけでずっと抑え続けるのは限界があるからの〜」
「そうですか……」
生贄って……。
ここが中世風ファンタジー世界だといっても、さすがに時代錯誤な話だ。
まあさすがに動物の話だろうと思ったのだけれど……。
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