第6話 魔族の国へ

 オレと魔族の女ヴァレンティナは古い坑道の中を彷徨っている。


 地上から魔族の国を目指すのは、王国軍の連中に見つかってしまうので断念したのだ。


 かといって坑道も全然安全ではないし、そもそも魔族の国側へ通じているかもわからない。


 それでもイチかバチか賭けるしかないので、落盤箇所の隙間をなんとかすり抜けて奥へと入っていく。



「ヴォォォー!」


 魔獣が出現した!


 この坑道は魔獣や魔物の棲家となってしまっているのだ。


 でもそれは朗報でもある。


 つまりは魔族の国側に通じている入口があるという証拠でもあるのだ。


「……失せろ!」


 ヴァレンティナがひと睨みすると怯えた様子で退散していった。


 そう、奴らは基本的に魔族の支配下にあるので、彼女が居れば襲いかかってくることはない。


「助かるよ、いちいち相手してたらキリがないもんな」


「気にするな。私がお前を我が国へ誘ったのだから」


「それにしてもどこまで行けば表に出られるのか」


「別にいいではないか、慌てずとも……ちょっと待て」


 遠くから唸り声のようなものが聞こえる。


 そしてどんどん近づいてきて、それは目の前に現れた。


「グガァァー!」


 魔獣というよりは、体も口もデカくて怪獣っぽい魔物だ。


 でもまあ、ヴァレンティナが追い払ってくれるだろう。


「タツノスケ、これはマズい。まれに魔族の支配下に入らずに好き勝手やっている魔物がいるが、コイツがまさにそうだ」


「ええーっ、そんなのがいるなんて先に……うわぁー!」


 オレは魔物に丸呑みにされた。


「タツノスケを出せ、返せー! さもなくば今すぐ腹を裂いてやるぞ!」


「グワァ! ウガァーッ!」


「くっ、なかなか手ごわい。早くしないとタツノスケが!」


「ガアァーッ! ウガッ!? グオーン!」


「何だ? 魔物の腹が急に膨れてきて……」


「ふうっ、勝手に腹が裂けてきて出られたぜ」


「タツノスケーッ!」


 魔物に丸呑みにされた場合に立つフラグは、どうやら生存する確率の方が高いようだ。


 まあ、身体に損傷はないし、結果オーライということで。


 こんな感じであと2回死にかけては生存フラグが立つというのを繰り返した。



「やったぞ! ようやく出口だ」


「そうだな……ようこそタツノスケ、我が国へ」


 坑道からやっとのことで地上に出られたオレたちは、ひと休みしてから街の方へと向かった。


 それはいいけど魔族の国にマトモな街なんてあるのか?


 そこに行き着くまでも、ひたすら荒野を歩くんじゃ……。


 しかしそれはオレの思い込みと偏見であったことを思い知らされた。


 坑道を出てからしばらくは確かに荒野しかなかったが、途中からは整備された道路の上を歩いていく。


 そして見えてきた街は、今までいた王国のどの街よりも洗練されていて都会な場所だ。


 そこを行き交うのはもちろん魔族たちなのだが……こいつら『魔』族というよりは『裸』族だ。


 ほとんどの奴が露出度が高い服装をしており、中にはジャケットを素肌の上に着る奴もいるという具合だ。


 ヴァレンティナだけが特別に露出度が高いわけではなかったのだ。


 で、人間はほとんど見かけないので、当然ながら周りからジロジロと見られている。


 敵対して戦争している相手側なのだから致し方ないが。


「よぉ、ヴァレンティナじゃねえか。どうしたんだその右腕は。まさか人間どもとの戦闘で遅れをとってやられたのか?」


 彼女の知り合いらしき魔族の男が話しかけてきた。


 そしてオレをジロっと一瞥すると質問を追加する。


「コイツはなんなんだ? 捕まえてきた捕虜の人間か?」


「右腕は、残念ながら『人間に遅れをとった』結果だ。強力過ぎるスキルを持った奴がいてな、その場は逃げるので精一杯だった」


 今の言い方だと彼女の右腕を切断したのはリュウジではないってことか。


 やっぱ強いスキルを与えられた異世界人は何人もいるらしい。


「なるほどな。で、この捕虜の奴はどうすんだよ。ペットの魔獣の餌にでもすんのか?」


「人の話を最後まで聞け! この人間は名をタツノスケといって、私の窮地を救ってくれた恩人だ。無礼なことを言うのは許さんぞ!」


「こんなヒョロこい人間に、か? にわかには信じられねーな。おい、どんな能力を使うのか見せてみろよ」


「オレの能力はむやみに攻撃するための能力ではない」


「そんなこと言ってよー、本当は何も能力なんてねーんだろう。ヴァレンティナを上手く丸め込んだようだが、おれは騙されねーぞ」


「いい加減にしろ! 私は丸め込まれたりなどしていない」


「お前は黙ってろ。ここはひとつ、おれさまが確かめてやろうって言ってんのよ。まあ、それでコイツが死んじまうかもしれねーけどなあ!」


 いかにも雑魚なやられフラグっぽいセリフなのでこれは頂いておく。


 そして男は間髪入れずに太い右腕から攻撃を繰り出してきた。


 だけど男のやられフラグは立ったので、オレの身体は自動的に回避動作を行い、ブーンッ! と右腕はアッサリと空を切る。


 そして男の右側をすり抜けざまに、その後ろの首筋へとバシッと手刀を入れたのだった。


「バカな……こんなヒョロい人間に、おれがやられる、なんて」


 男は気絶してバタッと倒れ込んだ。

 その様子を見ていた周りの魔族たちは誰もオレに因縁をつけてこなくなった。


「すまない、ヴァレンティナの知り合いを気絶させてしまった」


「気にするな、コイツは昔から短慮な行動が多いのだ。それよりも、ここから魔王様の居城は近いゆえ、このまま向かってもいいか?」


「ああ、まあ、別にいいよ」


 断ったところで、この国の中に行くあてなどないのだし、実質的には選択肢など存在しない。


 オレはヴァレンティナに連れられて居城を目指すのだった。

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