第5話 トドメの必殺技
「ハァハァ……タツノスケ、お前を見捨てて逃げてしまった。弱い私を許してほしい。だが、それでも私は戻りたいのだ」
「見つけたぞ!」
「くっ、思ったよりも早く追いつかれたか」
「もう諦めて、おとなしく死んだほうがいいと思うの」
「誰が!」
「なかなか根性あるじゃねえか。いいぜ、一発撃ってきなよ。それでおれを倒したら見逃してやらあ」
「リュウジ、また悪いクセ。甜めプし始めたの」
「何をゴチャゴチャと。では遠慮なくいかせてもらう!」
ドーン!
「やったか……いや、どうして立ってる!?」
「リュウジには常に防御力強化をかけてあるの」
「エヘヘ……それでも結構危なかったぜ。でも、これでこっちも思う存分やれる」
ボコボコボコッ!
「ぐはぁ……あの特殊な、攻撃か……」
「この女、もう虫の息なの」
「ククク。おれのスキル『連打』は普段は一回打ったら長いインターバルが必要だが、おれ自身のダメージ蓄積が一定を越えると打ち放題になるのさ」
「そろそろトドメなの」
「そうはいくか! このままムザムザとやられては、死んだタツノスケに顔向けができん」
「プッ……クックック」
「何がおかしい!」
「あんな弱ぇヤツのことなんてまだ気にしてたとは。笑いが押さえらんねえよ」
「きさまっ! タツノスケを侮辱することは許さんぞ!」
「侮辱も何も、弱ぇから死んじまったんだろ。旗持って味方を鼓舞するだけのスキルとか、どんだけハズレ引きまくりなんだよ、フハハハ!」
「おい、人のことを弱ぇ弱ぇってうるせーんだよ」
「なっ!? なぜお前が生きている。幽霊か」
ふうっ、なんとかヴァレンティナが殺される前に間に合ったか。
それにしてもリュウジと相棒の女の驚き顔がめちゃくちゃウケる。
「違う違う。話が進んでるのに、お前らが死んだ人間の話題をいつまでも続けるから生存フラグが立っちまったんだよ」
そういう意味ではヴァレンティナに感謝しないといけないな。
「……どういう理屈だかわかんねえが、楽しませてくれるじゃねえかタツノスケ。じゃあよ、こういうのはどうなんだ?」
リュウジは大型ナイフを懐から出すと、鋭い踏み込みと突きでオレを何度も切りつけた。
確か最初に会った時はゲームオタクで運動は苦手とか言ってたのに、どんだけ訓練と実戦経験を積んだんだよ。
そしてオレは全身から血を流して今にも倒れそうだ。
「タツノスケ、やっぱりお前はどうってことなさそうだ。今度こそ葬ってやる。さあ、トドメは最大の必殺技でカッコよく決めてやるよ!」
リュウジはスキル発動の準備に入った。
だけどよぉ、もったいぶってからトドメをカッコよく必殺技で決めたいってさあ。
よくある負けフラグだと思うんだよねえ!
「ヒャハハハ、死ねタツノスケ!」
凄まじい速度で無数の連打が襲ってきたが。
オレの身体は自動で反応し、それらを全てリズム良くガッ、ガッとガードしていく。
ガキィッ!
「そんな馬鹿な! おれの攻撃を全てガードし切るなんて!」
「……お前はもう終わっている」
そしてオレの身体は片足立ちのまま自動的にリュウジの間合いに入ると、無数の見えない連打をカウンターで叩き込んだ。
「グアアアァーッ!」
連打が終わった時には、リュウジは悲鳴とともに地面に這いつくばっていた。
息は……もうしていないようだ。
「リュウジ! 貴様ら、よくもリュウジを! 絶対に、許さないのー!」
相棒の女が怒りのあまり魔力を凄まじく集中して攻撃態勢に入ろうとしている。
これはまともに喰らうとヤバいやつだ!
「お前のほうが、消し飛べー!」
オレの後ろから、フラフラながら立ち上がったヴァレンティナが左手から渾身の魔力を放出して女を吹き飛ばした。
「助かったよ。これで2人ともやっつけたな」
「いや、あの女はあれぐらいでは死んでいないだろう。それよりも、どうやって生きていたんだ?」
「ああ……オレにはスキルっていう特殊な力があるんだよ」
「あのリュウジという奴と同じというわけだな」
「まあそんなところさ」
「ところでタツノスケ。もし人間側の国に居場所がないのであれば、私と一緒に来ないか。魔王様に紹介してやるぞ」
ええ〜、どうしようかな。
確かに、もう王国内ではオレが居られる安住の地は見つけられそうにない。
異世界人のオレにとっては人間も魔族も別に思い入れはないし、行くだけ行ってみようかな。
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