第4話 魔族の女

 オレはいつも通りというべきか、相変わらず彷徨い続けている。


 でも住みつけそうな場所がなかなか見つからず、とうとう魔王軍との戦場近くに来てしまった。


 危険なのでこの辺りの村の住人はみんな他所へ退避しており、誰もいない。


 仕方がないので、そのへんで小動物を狩ったり木の実を取ったりしながら毎日をやり過ごしている。



 そして住まいは……坑道の跡と思われる穴の入口付近で雨風を凌いでいる。


 しばらく奥に行くと落盤していたので、使える空間はそれほど大きくはない。


 でも、大人数で住むわけでもないので不便はない。


 ここで数日前から独りのんびりダラダラ過ごしている……と言いたいところだが。


「タツノスケ、向こうの森で食べられそうなキノコ類を取ってきたぞ」


 入口の手前から女の声が聞こえてきた。


 そしてそこに立っているのは、青い肌で小さな角が生えた魔族の女だ。


「悪いな、助かったよヴァレンティナ。ところで右腕の傷口は大丈夫なのか?」


「ああ、少しずつだが良くなっている。タツノスケが早めに手当してくれたおかげだ」


 この会話だけを聞くと、オレが魔族の連中と仲良くしていると思われるかもしれない。


 でもそういうわけではなく、全ては偶然の成り行きによるものだ。


 オレがこの辺りにたどり着いて間もなくのことだった。


 食料を探しにウロウロしていたところに、負傷したヴァレンティナがフラフラよろめきながら近づいてきたのだ。


 傷口、というか右腕は肘の上あたりで切断されており、そのままでは命の危険があった。


 最初は身構えていたオレだが、こちらへの敵意は感じられず、そのまま見捨てるのも後味が悪いので、緊急用に持ち歩いていたわずかばかりの傷薬と包帯で介抱した。


 そして食べ物を分けたりしているうちに回復して、今は自分自身に治癒魔法をかけているようだ。


 ちなみにこの世界の治癒魔法は欠損した四肢を復活させることはできない。


「で、ヴァレンティナはいつまでここにいるつもりなんだ?」


「ああ……それなんだが、今の状態では戦場の前線に復帰したところで足手まといになるだけだ。もう少し回復を待とうと思う」


「そうか。まあ、オレは別にいいんだけどね」


 ぶっきらぼうに問題は無いことを伝えた後に、オレはヴァレンティナから視線を逸して横向きに寝転んだ。


 何故かというと……ヴァレンティナの格好がやたらと露出度が高くてじっと見ていられなかったのだ。


 ヴァレンティナ本人の嗜好なのか、魔族全体が露出度の高い戦闘服を身に着けているのかは知らないが。


 オレも高校3年生なんだ、平常心でいられない。



 それにしても、やはりこの国の王様の言うことはアテにならない。


 というのも、召喚されたときに魔族は凶暴凶悪な連中だと王様から聞いていた。


 だが、ヴァレンティナはどちらかというと穏やかな雰囲気だし、誰彼構わず戦闘を仕掛けたりはしてこない。


 負傷中だからということも考えられるが、いくらでもオレの寝首をかくチャンスはあったし、本当に凶悪ならとっくに攻撃されているだろう。



 そんなことを考えてウトウトしかけたところに、いきなりドーン! と大きな爆発音と衝撃が坑道に振動を与えた。


 何事かと入口からそっと顔を出して周りを確認したオレとヴァレンティナだったが。



「見つけたぞ、魔族の女! このおれから逃げ切れると思ったのか?」


 どこからか男の声が聞こえてきて、間もなく空中から男女2人がスッと地面に降り立った。


「……あそこに、別の誰かもいるの」


 女の方がオレを指さしながら男に伝えた。


 その男の顔だが……どこかで見たような気が。


「おい、お前はタツノスケじゃないか! 久しぶりだな」


「そういうお前はリュウジ!」


 リュウジはオレと同じ日に王国から異世界召喚された奴らの一人だ。


 といってもみんな全然別の場所から召喚されたので面識はない。


 でもリュウジとは同じ年齢で話が合ったので、わりとよく喋ったヤツなのだ。


 ただ、ヤツのスキルとかはわからない。

 オレはすぐに王様から追放されたから。


 それはともかく、知り合いだから攻撃なんてしてこないだろう。

 一応旗は背負っているが、無防備で坑道から出たオレにはそういう油断があったと思う。


「久しぶりにゆっくりと話したいところだけど……タツノスケ、お前の手配書はここにも回っている。そういうわけで早速死んでもらうぞ!」


 リュウジは瞬間移動でもしたかの如く急速に接近してきて、無数の連打をオレに叩き込んだ。


 これがヤツのスキルなのか?


 為す術もなくオレは全身をボコボコにされ、その場から勢いよく転がっていく。


 その状況を見たヴァレンティナは大声でリュウジを非難した。


「お前たち、同じ人間族で知り合いなのだろう? なぜいきなりそんな酷いことができるのか?」


「は!? こんな裏切り者と一緒にされたら迷惑だ。おれが功績を上げても王国から疑われて出世できなければ、なんの意味もない」


「くっ……」


「……リュウジ、そんなことより。これでトドメを刺すの」


 リュウジと一緒の女はオレが転げ落ちた先へ魔法を撃ち、オレの全身は一瞬で凍りついた。


 ガシャーン!


 リュウジは走って接近してきて、何の躊躇もなくオレの身体を踏みつぶした。


 オレはバラバラに砕け散ったのだ。



「これでもうタツノスケは始末した。それよりも魔族の女を……どこに行った?」


「……まんまと逃げられてしまったの」


「クソッ! まあいい、そのうち見つかるだろう。とりあえず回復魔法で一旦体力を回復してくれ」

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