第二十四話 人間に捕まったワケ

「もう、大丈夫だよ」


 再び奴隷へ落とそうと企む集団を即座に処理した俺は、そう言って木の陰で怯える猫獣人の少女を見やる。

 今まで以上に怯えているな……奴らを見て、トラウマを掘り起こされたって所だろうか?

 全く……本当に、胸糞悪いよ。


「ううぅ……」


「大丈夫。大丈夫だからさ。ほら、もう居ないよ」


 怯える少女に、俺はくいくいと親指で前方を指差しながら、優しくそう声を掛ける。

 すると、少女はゆっくりと頭を上げ、前を見てくれた。

 そして、そっと唇を震わせる。


「……もう、大丈夫なの?」


「ああ、大丈夫だ。だから、もう怯える必要は無いぞ?」


「うん……ありがとう、お兄ちゃん」


 身の安全を感じたのか、少女はまだ若干の警戒心は残しつつも、どこか安心したようにそう言うのであった。

 ふぅ。何とかこれでよし……って感じかな。


「さてと……ああ、そういやまだ名前を聞いてなかったね。君の名前は?」


「えっと……ミミ、です」


「そうか……分かった。俺の名前は、サイラス。そして後ろに居るのは、妹のフェリスと……シルフィだ」


 少女――ミミの言葉に、俺はそう言って自分を含めた皆の自己紹介をした。

 シルフィだけ謎に誤魔化したのは……まあ、流石に大精霊なんて言っても信じられないだろうし……あと、普通に説明が面倒そうだったからだ。

 召喚直後と違って、それなりに力は抑えてくれているようで、ぱっと見で大精霊だと気づく人はそんなにいないだろうから、隠してても問題は無いだろう。


「さてと。それじゃ……確か森の奥だったか? なら、俺は空飛んで運ぶから、案内をお願い」


「うん。分かった、おにいちゃん!」


 俺の言葉に、ミミはそう言って確かに頷くのであった。

 その後、俺はフェリスとシルフィの方に向き直ると、口を開く。


「てことで、俺はあの子を家まで送ることにした。フェリスは……先に帰ってるか? なら、シルフィに送らせるが――」


「いえ、私はお兄様と一緒に居ます」


 自分の都合に合わせるのは申し訳ないと思い、フェリスにそう提案してみるが――それは、言葉を被せるようにして拒否されてしまった。

 まあ、何となくフェリスならそう言うだろうなぁ……とは、思っていたけどね。


「ふふふ~。鈍感で女心の分からな――あぶぶぶっ!」


「消しますよ?」


 その後、どこか含みのある笑みを浮かべながらシルフィが言葉を発し――そして、途中でフェリスに口を思いっきり手で封じられるという珍事件が発生した。

 まあ……うん。俺は介入しない方が良さそうだ。

 そう思い、俺はすっとそこから目線を逸らすと、つい先ほど覚えたばかりの精霊魔法を行使する事にした。


「上へ飛ばしてくれ」


 精霊魔法は、感覚こそ正義。

 空を飛ぶことを当然だと思わなくてはならない。

 幼いころから魔法で良く空を飛んでいたお陰か、もう一部のコツは掴んでいるんだよね。


「ひゃ!」


 横では、急に上空100メートルまで飛ばされた事に驚きを隠せないでいるミミの姿があった。

 だがやがて、今自分が置かれている状況を理解したのか、飛び上がる様に怯えると、俺の腰に抱き着くのであった。


「ほらほら。フェリスちゃんの大好きなお兄様が、盗られちゃってますよ~?」


「語弊を招く言い方をしないでください。すり潰しますよ?」


「おー……今回は警告だけなんだね?」


「……ん?」


 後ろでは、シルフィがフェリスにダル絡みしていた。

 あんまり度が過ぎるようなら、鉄拳制裁も辞さないが……まあ、あの様子ならフェリスが自分でやるだろう。

 そう思いながら、俺はミミに方向を問うた。


「ミミ。場所はどっちだい?」


「えっと……あ、あっち!」


 俺の問いに、ミミは俺の腰に抱き着きながら、キョロキョロと周囲を見回す。

 そして、丁度俺たちの家がある方向を指差した。

 なるほど。この方向となると、本当に深部の方に行きそうな。

 そう思いながら、俺はこくりと頷くと、その方向へと向かって一気に進みだした。


「……ミミは、どうして人間に捕まってたんだ?」


 150キロほど進んだ所で、気づけば俺はミミにそう問いかけていた。

 これ以上の距離、環境――人間がミミを奴隷にする為に攫いに来れる距離ではないし、行く事が可能だとしても、基本的に割に合わない。

 かと言って、ミミが人間の活動域まで歩ける距離でも無い。

 何か陰謀を感じる――そう思っていると、途端に頬を赤くしたミミが、心底言いずらそうに言葉を零す。


「……あの、私、岩の上でお昼寝してて……そしたら、岩が魔物で、凄い速さで走ったり飛んだりで、下りられなくて……気づいたら、あんなところに……で、そして……捕まっちゃった」


「……そ、そうか。それはまあ、なんとも……不運だったな」


 そんなこと実際にあるのかよ……と思いながら、俺はミミの背中を優しく擦る。

 まあ、変に裏が無くて、良かった……な。うん。


「へーなんというマヌケな――げぶううっ!」


「空気読んでください。風の大精霊ですよね?」


「うー……フェリスちゃん、上手いね!」


 で、後ろではナチュラルに空気読んでない発言をしたシルフィを、フェリスが締め上げていた。

 うん……これに関しては、ナイスとだけ言っておこう。

 とまあ、なんやかんやありつつ、300キロほど進んだところで、ミミがある一点を指差した。


「お兄ちゃん、あそこ! あの山の裏にある!」


「あそこか……」


 見えるのは、400メートルほどの、この森のではそこまで珍しくも無い見た目の山。

 んー……あの辺、良く見ると隠蔽系の結界魔法があるな。

 後は、魔物避けかな?

 どちらも、それなりに高度なもの――あれなら、そこに住めるのも納得だ。


「じゃ、降りようか」


 そう言って、俺はそこへと向かってゆっくりと降下していくのであった。


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ちょっと遠くへ狂気の鈍行による旅行に行っており、更新が滞ってました。

ぼちぼち、書いていきます。

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