第二十二話 精霊魔法は大雑把

「取りあえず、もう大雑把でいいから、ふわ~、ぶわっ!、ぶお!って感じで使って見て!」


「大雑把過ぎるだろ……」


 だが、それが精霊魔法なんだよなぁと内心思いながら、俺は「もうどうにでもなぁれ~」って感じの心境で、右腕を前方に突き出した。


「おらっ!」


 そして、超適当にその腕を振り下ろしてみる。


 ザザザザザザン――


 刹那、前方から風が薙ぐ音と斬撃音が、重なって聞こえて来た。


「ん……?」


 それに思わずそんな声を漏らしながら、俺は恐る恐る顔を上げてみた。

 するとそこには、一直線へ綺麗に走る斬撃の後があったのだ。

 その直線上にあった木は、斬られたというよりかは、まるで引き潰されたかのように粉々になっている。


「お~~~派手にやったねぇ、召喚者君!」


 そんな森林破壊の惨状を前に、シルフィは変わらず無邪気に笑うのであった。


「ったく……こりゃ制御出来なきゃ、まともに使えないな」


 今のままだと、周辺の大地が更地になり兼ねない。

 そう思いながら、俺は一先ずこの惨状を何とかしようと、詠唱を紡いだ。


「【時と空間は表裏一体。回帰せよ、時の奇跡――《時間回帰リーワインディング》】」


 刹那、一直線に荒れ果てた森が、まるでビデオの巻き戻しかのような速度で直って行き、あっという間に元のあるべき姿を取り戻した。

 状態復元リストアとは違い、生きているもの――植物にも使う事の出来る《時間回帰リーワインディング》。

 俺の魔法の中でも最上級の奇跡であるが、その分消耗も他の魔法の比では無い。


「えー召喚者君、時戻せるの~? とんでも無いね~」


「まあ、流石に植物ぐらいが限界だけどね。魂がある人間とか魔物の時間は、流石に戻せない」


 無邪気に感心するシルフィの言葉に、俺はそう補足説明を加える。


「お兄様は、本当に凄いんですよ! シルフィさん。分かりますよね?」


「うんうん。凄いわっかるよ~。だって私、大精霊だから~!」


 そして、仲良く(?)会話をするフェリスとシルフィ。

 なんか圧を感じなくも無いのだが……今回は2人共笑ってるし、なら大丈夫だろ。


「……取りあえず、今度は控えめに……ふわっと。ふわっと……な感じで」


 そう思いながら、俺はまたもや超大雑把な気分感じで魔法を発動させる。

 すると、自らの周囲に風が渦巻いた。

 そして、文字通りふわっと自らの身体が浮き上がる。


「おおっ なんか凄いな」


 何と言うか……いつもより凄く自然な感じで浮かんでいる。

 普段飛ぶ時に使っている《飛翔フライ》特有の、何とも言えない不自然さが無い。


「ただ、細かい操作には結局慣れが必要そうだなぁ……」


「精霊魔法は、そういうものなの~!」


 ふわふわとその場で若干浮く俺に、シルフィは当然だとばかりにそんな言葉を口にした。


「んー……あーでも、やれるなやれる。ほれっと」


 そう言って、俺は感覚のままに精霊魔法を行使してみた。

 すると、一気に50メートルほど上まで吹っ飛ぶ。


「あーはいはいはい……あれだな。感覚でやる日常動作の延長的な動きだけなら、一応何とかなるパターンだ、これは」


 歩く際に、理論的に考える奴は居ない。

 それと似たような感じだ。

 ただ、放出系の魔法は流石に日常動作じゃ無いから……まだ厳しいかな。


「おーいいねいいね。さっすが召喚者君。呑み込みがはや~い」


 すると、俺と同様に上へと上がって来たシルフィが、自由気ままな感じで、そんな言葉を零した。

 そしてその横には、シルフィによって上に連れてこられたのであろう、フェリスの姿もあった。


「むー……」


 そんなフェリスは、どこか不満げな表情だ。

 シルフィによって上に運ばれたのが、気に喰わない……的な感じか?

 対人能力が乏しいせいで、ちょっとあやふやだが……な。


「じゃ、これを機に周囲の様子……街方面の方を重点的に、見てみるか」


 周辺状況の確認は、今後暮らしていく以上必須。

 特に、人間からの下手な干渉を防ぐ意味でも、やらんといけないからね。


「奥の方は、鬱蒼とした森と山が広がっているな。お、川も見える……」


 まずは、ここよりも深部の方を、チラリと見る。

 こうして見ると、マギア大森林ってマジで広いよな。

 気配も中々だし、マジで魔境って言葉がピッタリ合うと思う。


「で、人里の方面は……うん。やっぱりこっちの方が、ヤバめな気配は少な目かな? 地形も、完全に平坦だし」


 それでも十分魔境と言えるが、それなりの実力を持っていれば、来れなくはない程度の魔境だ。

 まあ、命かけてまで奥の方に行こうとするアホはそう居ないし、居たとしても《迷走世界ワンダリング・フィールド》に阻まれるだけだから。

 ただ、それでも油断はならんのよなぁ……


「人間、強い人はマジで理不尽クラスに強いからな……」


 そう言って、俺は目を凝らしながらその先を見やる。

 俺自身、理不尽クラスに強いのにプラスして風の大精霊と契約しているのだが、そんな俺でも負ける可能性があると言えるような人間が、この世には認知しているだけでも幾人か居るのだ。


「んー……あー冒険者がちらほら見えるなぁ……」


 魔力で目を強化して、より向こうの方を見てみれば、そこには魔物を狩っている冒険者の姿があった。

 で、それを段々と深部の方に移していくと、それに伴って人の数は減り、実力は上がってい……む?


「ん? 子供?」


 視界に入って来たのは、明らかに実力に見合っていない場所で、武器すら持たずに駆ける子供の姿だった。

 あ、魔物に見つかってぶっ飛ばされた!

 普通に死にそう!


「やっばいぞ、あれはっ!」


 気付けば、俺は動いていた。

 慣れた手つきで転移魔法を発動させ、1人そこへ向かった俺は――


「【潰れろ】」


 空間ごと、その魔物を押しつぶすのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る