第二十話 風の大精霊

「ふぅ。何とか直せたよ……」


 復元魔法――《状態復元リストア》を本気で行使し、なんとか家を復元させる事に成功した俺は、そう言って深く息を吐く。


「お疲れ様です、お兄様。お手伝い出来なくて、すみません」


 そして、そんな俺を優しく労わってくれるフェリス。

 優しいなぁ……


「……で、改めて本題に入るとしよう」


 ごほんと咳払いをした俺は、そう言って30分程完全放置となっていた精霊に目をやる。


「ごめんなさいぃ……」


 すると、少女の姿をした精霊は、そう言って項垂れたように土下座をする。

 まあ、マジで反省してるっぽいし、そもそも召喚しているのがこっちだから、あんまりこれだと、逆にこっちが悪く思えて来るな……


「いや、もういいよ。そもそも、召喚したのはこっちだし……ところで、君の名前は?」


「あ、うん。ありがとう。分かった~!」


 俺の言葉に、精霊は飛び上がると、くるりとその場で一回転する。

 おおう、切り替え速いな。

 まあ、精霊だしな。人間とは色々違うのだろう。

 そう思っていると、精霊が言葉を紡いだ。


「私はね~風の大精霊シルフィード。風の精霊の中で、最上級に偉いんだよ。凄いでしょ~?」


「……マジかい」


 小さな胸をふんと張り上げながら、自慢げにそんな事を言う精霊――シルフィードに、俺は思わず目を見開く。

 自我がある時点で、中位精霊以上だったのは察していたのだが、まさか最上位の精霊である大精霊だったとはな。

 俄かには信じがたいが、自然という概念から産まれた精霊が、上位の存在を騙るのは不可能だから無いと思うし、何より召喚時のあの圧倒的な存在感が、こいつは大精霊だと言っている。

 すると、こちらの驚愕を好意的に受け取ったのか、シルフィードが嬉しそうに口を開く。


「凄いでしょー! ……でも、この私を召喚できる召喚者君も、すっごく凄いよー?」


 そう言って、俺を下から覗き込むシルフィード。

 まあ、自分で言うのも何だが、確かに大精霊を召喚するなんて、前代未聞もいい所だ。

 それにしても、言い方的に気紛れで召喚に応じてくれた……とかでも無さそうで、純粋に俺の実力で召喚できたっぽい。


「ふむふむ。召喚者君の魔力、凄いね~。これなら、私が900年ぶりに召喚されるのも納得納得――」


「お兄様に、べたべた触り過ぎです。大精霊だとしても、限度ってものがありますよ?」


 俺の身体をべたべたと触りながら、そんな事を言うシルフィードを、フェリスが手で制して止めた。

 そして、シルフィードに若干敵意の込もった視線を向ける。

 別にそんな怒らなくても……と思っていると、シルフィードが子供の様にニカッと笑った。


「なるほど。分かった分かった~」


 そして、パッと俺から手を離す。


「で……ほら。私の紹介は終わりっ! ほら、次は召喚者君と、嫉妬ちゃんの番だよ」


「お、おう……分かった」


 随分と自由気ままな奴だなぁと思いつつ、フェリスの事を嫉妬ちゃんと言うのは酷くないかと思いつつ、俺はシルフィードに言われた通り、自己紹介をすることにした。


「俺の名前はサイラス。普通の人間です」


「私はフェリスです」


 今まであった肩書を全部失ったせいで、何を言えばいいのか分からなった俺は、そんなよく分からない自己紹介をした。

 そしてフェリスは、若干憤りを見せながら、俺よりも簡素な自己紹介をする。

 まー流石に嫉妬ちゃんは酷いよな。


「なるほどなるほど……てことで、召喚者君。嫉妬ちゃ……フェリスちゃん。よろしくね~」


「ああ、よろしく」


「……よろしく、お願いします」


 名前聞いたのに、名前で呼ばないのかい。

 あと、睨まれたらフェリスはちゃんと名前で呼んでくれるのかい。

 これは何ともまあ、自由気ままな精霊だ。

 まさしく、風の精霊って感じだな。


「それで、シルフィードは――」


「長いから、私の事はシルフィって呼んで。これ、前の召喚者君がつけてくれたんだよね~」


「お、おう……分かった。シルフィ」


 最低限の事は話したし、ここから色々と話していこうと口を開いてみれば、それに被せるようにして、そんな事を求められた。

 まあ、確かにシルフィードってのはちと仰々しいし、言いづらいな。

 フェリスはそんなシルフィード……シルフィを見て、「めんどくさっ」って呟いているけど。


「……それで、シルフィは俺に何か求める事はあるのか? 俺は強くなりたいからってのと、フェリスの護衛を頼みたくて召喚したんだ」


「私の……?」


「ああ。フェリスは守りたいからな」


 フェリスの呟きに、俺はそう言って頷くと、フェリスの頭を優しく撫でる。

 だが、何故か今回ばかりは反応があまり芳しくない。

 む……何かしてしまったか?

 そう思い、何とも気まずい気分になっていると、シルフィが口を開いた。


「なるほどねー。召喚者君、普通に強いと思うんだけど……まあ、いいね。向上心のある子は好き好き。でも、私と契約するからには、沢山楽しませてよねっ」


 そう言って、子供の様に笑うシルフィ。

 元気な奴だなぁ……


「まあ、分かったよ。飽きられないように、頑張るとするよ」


「うんうん。その意気だよ~。てことで、そんな私からアドバイス――フェリスちゃんは、召喚者君が思う以上には強いよ?」


「まあ、強いのは分かってるよ」


 シルフィの言葉に、俺は当然だとばかりにそう言う。


「ふーん……ま、私は知ーらないってことで、よろしくね。召喚者君!」


「ああ、よろしく」


 こうして俺は、風の大精霊――シルフィードことシルフィと、契約を結ぶのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る