第十八話 家、完成!

「先ずは……取りあえず、外側から完成させていこうか」


 そう言って、俺は積み上げられた丸太に目をやると、詠唱を紡ぐ。


「【我が意に応えよ――《魔糸傀儡マリオネット》】」


 直後、俺と丸太が不可視の魔力糸で繋がった。

 これは様々な物――そして抵抗能力の弱い生物を、まさしく傀儡マリオネットの様に操る魔法で、これを使えば建築も――


「より簡単に――より正確に出来る」


 そう言って、俺は指揮者コンダクターの様に両腕を振るった。

 すると、2本の丸太が宙に浮かび上がったかと思えば、2本平衡になるようにして地面に並べられた。

 その後、魔力の塊を飛ばして丸太の一部に窪みを付けると、そこへカチッとはめ込むようにして、追加で2本の丸太を置く。

 こうする事で出来たのは、丸太で出来た四角形。

 後はこれを上へ上へと追加で乗せて行けば、見事なログハウスが出来るって寸法。


「ま、そんなに単純な物でも無いけどな」


 このまま普通に真四角に積み上げていくだけでも家にはなるのだが……それでは見た目が悪すぎる。

 なんちゃらクラフトでお馴染みの、ダサさの象徴とも呼べる豆腐ハウスだ。

 そんなダサい家は流石に嫌だよと思いながら、俺は設計図を大事そうに持つフェリスの方に視線を向けると、口を開いた。


「それで、どんな感じかな?」


「そうですね……丸太を5本削って、窓にしましょう。設計図ではこの位置になっていますが、これだと肝心のリビングにあまり光が届かないので、少しずらせばいいと思います。お兄様」


 俺の言葉に、フェリスはそう言って広げた設計図を指差す。

 あー……確かに言われてみれば、日光入らなさそうだ。

 実用性や、そもそも家としてちゃんと機能するかとかを考えていたせいで、そういう所にまで頭が回っていなかったな。

 反省反省。


「ありがとう、フェリス」


「んっ!」


 そう言って、俺はフェリスの頭を優しく撫でて礼を言う。

 すると、フェリスは嬉しそうに目を細め、はにかみ笑った。


「さてと。やるか――【魔力よ、破壊せよ――《魔力破壊マジック・ブレイク》】【我が意に応えよ――魔糸傀儡マリオネット】」


 そうして俺は、そこから一気に家を建て始める。

 窓穴は場所を考えつつ、 何か所か設置。

 屋根は定番の切妻屋根。

 後から壁の一部を斬り、つぎ足すようにして部屋を横に接続する事で、部屋を広くしつつ、豆腐ハウスらしさをより軽減。

 家の正面にドアを設置し、裏にはそれっぽくバルコニーを。

 最後に家を囲う感じで、フェリスデザインの木柵を設置すれば……


「ま、一先ず外装は完成だな」


 見事に良さげなログハウスが出来上がった。

 だが、まだこれはハリボテ。

 内部はスッカスカだし、ちゃんとした補強をしていないから、耐久性にも難ありだ。


「耐久性は後から一気に何とかするとして……フェリス。内装に取りかかろう」


「はい。お兄様!」


 そうして、俺たちは次の内装の建築を始める。


「ふー正確に……っと。【風よ、斬れ――《風剣斬エア・ソード》】」


 まず、俺は丸太をスライスカットし、板材にした。

 そして、後はそれを上手い事調整しつつ、《魔糸傀儡マリオネット》を用いて移動し、床に敷き詰めて行けば――


「これで、床の完成っと」


 魔法でゴリ押した感はあるが……流石にそれは仕方ない。

 建築を学ぶ時間は、流石に無かった……!

 まあ、これでも全然問題は無いし、だったらここら辺は大目に見てもいいと思う。


「さてと。で……だ。内装の設計、完全に俺1人が最低限住めるだけの家具しか書いてないんだよ。足りなかったら、その時に後から付け足せばいいかみたいな感じでさ。それで、ベッドは増やすとして……他に何か、必要そうな物はあるか? スペースは地味にあるからさ」


 そう。何と内装の設計図には、ベッドとテーブル、椅子が1つずつという本当に最低限の物しか書かれていないのだ。

 だから、ここはその辺に少なくとも俺よりは詳しそうなフェリスに、聞いてみるとしよう。

 そう思う俺の問いに、フェリスは真面目な顔で暫し悩んだ後、口を開く。


「そうですね……必要な物となりますと、やはりタンスやクローゼットなどが欲しくなりますね。お兄様」


「なるほど……分かった」


 フェリスの答えに、俺は女の子らしいなぁと思いながら承諾した。

 そして、早速制作に入る。


「ベッドは、マットレスと掛け布団に限っては、流石に持ってきた。流石にこれを作るのは、面倒極まりないからな」


 そう言いながら、俺はフェリス指示の下、ベッドの骨組みを作成していく。

 こうして出来たベッドに、マットレスを敷いて、掛布団を置けば、ベッド1つ目が完成。

 その後、予備で持ってきたマットレスと掛け布団で、フェリスの分のベッドを作成すれば……よし。完璧だ。


「さてと。ベッド2つとなると、どこに置くか……」


 流石にフェリスも年頃の女だし、近いと流石に嫌がるだろうなぁと思いながら、家中をキョロキョロと見回していると……


「あちらに隣り合うように置くのが良いと思います。その方がスペースの節約になりますし……も、勿論お兄様が宜しければですけど」


 フェリスが、中々の正論をブチまかしてきた。

 なんかこれでは、謎に気を遣い過ぎていた自分が恥ずかしくなってくるよ……

 いやでも、フェリスも一瞬恥ずかしそうにしていたような気がしたが……やっぱ気のせいかな。

 そう思いながら、俺は《魔糸傀儡マリオネット》でベッドの場所を家の奥の方に隣り合うようにして置いた。

 まあ、流石に1メートル程の隙間は開けているが。


「よし。残りもやるか」


 そうして、俺は残りの家具も制作及び配置をしていく。

 テーブルは部屋の中央。椅子も2つ置いた。

 忘れてたとばかりにテラスにも椅子を置きつつ、フェリスのベッド近くにクローゼットとタンスを置く。


「まあ、一先ずはこんなもんか」


「そうですね。必要な物があれば、その都度作ったり買ったりしましょう。私に手伝える事があれば、なんでもしますよ。お兄様!」


「ああ、そう言ってくれると嬉しいよ。……それじゃ、仕上げだな」


 フェリスの言葉に笑みを零しつつ、俺は手を掲げると、今回の建築に置いて、最も重要な魔法を唱えた。


「【保護せよ。護れ、護り続けよ――《付与・状態保護エンチャント・プロテクション》】」


 直後、家を包み込む不可視の魔力。

 物体の劣化を防ぎ、今の状態を保たせる付与魔法――《付与・状態保護エンチャント・プロテクション》。

 これを継続的に使っていれば、この家が壊れる事は無い。


「よし。これで遂に、完成だな」


「凄いです。お兄様!」


「フェリスが手伝ってくれたお陰だよ」


「えへへ……」


 こうして、ものの3時間ほどで良さげなログハウスが建つのであった。

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