第十七話 一気に倒れてきます!

 場所を決めた俺は、早速拠点を立てる為の行動に移る。


「さて、まずは結界だな。【迷い、惑い、決して辿り着かない。無窮の領域をここに――《迷走世界ワンダリング・フィールド》】」


 そう言って、俺は魔法を発動させた。

 直後、自身を起点とした半径100メートルの円をぐるりと囲うように、霧状の結界が出現する。

 魔力で出来たその霧は視認できず、一見すれば何も無いように見えるだろう。

 だが、それによって結界内に入ろうとしても、まるで煙に巻かれてしまったかのように迷走してしまい、結界の中にまで辿り着けないのだ。

 物理的な結界では、もし人間がここに来た時に、何かがあると知らせてしまうようなものだからね。

 だからこっちにしたという訳だ。

 効果も、干渉さえされなければ半永続的――気が向いた時にでもメンテナンスしとけば、消える事はまずないだろう。


「まあ、時間かけりゃ突破できる人間も居そうだが……そこまで考えたらキリが無いから、考えないようにしよう」


 細かい事を考えるのは……うん。疲れた。

 スローライフの為に、今まで考えまくったんだし、これからは少しぐらい、頭空っぽにしてもいいかなって思う。

 それこそが、スローライフの魅力の1つだろ?


「では、これから拠点を建てるのですか?」


「ああ。とは言っても、あの屋敷みたいな無駄にデカいのじゃ無くて、もっと実用的なやつだ」


 モデルは、森の奥深くにありそうなログハウス。

 普通に造るとなるとマジで大変そうだが、そこら辺に関しては魔法の力でどうにかするとしよう。


「それじゃ、開始だな。フェリスは、この設計図を見て、指示してくれると助かる。あと、何か不自然な箇所があったり、追加で欲しい箇所があったら、遠慮なく言ってくれ」


 そう言って、俺は《空間収納インベントリ》から簡易的な家の設計図を取り出すと、フェリスに手渡した。


「分かりました、お兄様!」


 フェリスはその丸められた設計図を広げると、そう言って元気よく頷いた。

 こうして俺たちは共同で、まず初めに住む場所を建てる事になるのであった。


「よし。まずは……【風の刃よ、薙ぎ払え――《風覇絶刃ゲイル・ブレード》】【乾け――《乾燥ドライ》】」


 まずはお得意の風属性魔法。

 直後、俺の下から放たれた特大カッターが如き風の刃が、周囲の木々を根元から一気に切断していく。

 こういうのは普通斧でやるものなのだろうが……こっちの方が綺麗に斬れて、尚且つ速い。

 なら、魔法こっちを選ぶのは最早必然だ。

 更に、ほぼ同時に乾燥させるのも高ポイント。

 なんと完璧な方法なのだろ――


「お兄様! 一気に倒れてきます!」


 周囲の木々を一気に切断し、満足気に頷いていたら、フェリスからそんな声が飛んできた。


 ドサ――


「ん? ……あ、やべっ! 【亜空を開け――《空間収納インベントリ》】!」


 フェリスの言葉で我に返り、ふと周囲を見てみれば、そこには時間差で一気に俺たちの頭上へ倒れようとする木々。

 俺は慌てながらも《空間収納インベントリ》を発動して、倒れようとする木々を全て亜空間の中に収納した。


「危なかったー……ごめん! フェリス!」


 難が去った事にほっと一息吐いた俺は、そう言ってフェリスに謝る。


「いえ。お兄様の役に立てて、嬉しいです。これからも、頼ってくださいね」


 すると、笑顔でそのような事を言われた。

 ああ……妹が優しい。

 ただ、そんなフェリスの優しさに甘えることなく、頑張らないと。

 俺って、今みたいに詰めが甘い事があるからな……だから前世では……

 うっ 頭がっ!


「……ありがとう、フェリス。さて、次は……【亜空を開け――《空間収納インベントリ》】【風の刃よ、斬り刻め――《風裂乱刃ゲイル・シュレッド》】」


 俺はフェリスに礼を言うと、虚空に手を翳した。

 そして、地面に1本の木を取り出すと、その木の枝などを斬り落とし、1本の太く長い丸太にする。


「おー思ったよりも、いい木材になりそうだな……じゃ、続けて!」


 一先ず1本試し、想像よりもずっと良い仕上がりとなった俺は、満足げに頷くと、残る木々も同様に丸太へと加工した。


「次は……地面かな?」


 積み上げられた丸太を一旦|空間収納《インベントリ》の中に仕舞った俺は、そう言って切り株だらけの空間を見やる。

 流石にこれじゃあ家は建てられない。


「だから――こうする。【亜空よ開け――《空間収納インベントリ》】」


 それを何とかする為に、俺はまず初めに切り株全てを《空間収納インベントリ》の中に収納した。


「このままだと崩れちゃいますよ、お兄様」


「ああ、分かってる」


 これでこの場は綺麗さっぱりとしたが、それにより地面の根があった場所全てが空洞となり、このままでは崩れてしまう。

 ここで役に立つのが、ずっと練習していた――あの魔法だ。


「【大地よ。我が意に応え、圧縮せよ――《地面操作アース・コントロール》】」


 屈み込み、地面に手を当てた俺は、適性が無いのにも関わらず、ずっと練習し続けていた土属性魔法――《地面操作アース・コントロール》を発動させる。

 直後、地面がまるで地震のように揺れ動いたかと思えば、全体的に少し下がった。


「凄いですね、お兄様! 地面にあった空洞が、完全に無くなっています!」


 そう言って、シャリアはトントンと硬くなった地面をダガーで叩く。

 音の反響で、空間があるかを探ってる感じだろうか……?


「そうだな。それじゃ、下準備は終わったし、いよいよ家を建てていくか」


「そうですね。お兄様!」


 こうして若干のヒヤリハットが起きつつも、下準備を終えた俺たちは、本格的に家を建て始めるのであった。

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