第十六話 マギア大森林を一気に進む

「フェリス。基本的に戦闘は俺がやる。フェリスは万が一を考慮して、周辺確認に集中してて欲しい」


「分かりました。お兄様!」


 マギア大森林へ入り、《身体強化ブースト》で強化された身体で疾駆しながら、俺はフェリスにそう言った。

 フェリスがそれなりに戦えるというのは薄々感じてはいるが、それでもなるべく危険な目には合わせたくないからな。


「……それに、可愛い妹を守るのは、兄だと相場で決まってるし」


 そう言って、俺は視線を向けた先に現れたのは、4匹の大きい狼型の魔物。

 フォレストウルフ。凶暴で、一度狙った獲物はしつこく追いかけて来る厄介な奴だな。


「グルルルゥ!!!」


「バウゥ!!!」


 そいつらは俺たちを視認するなり、威嚇しながら突貫してくる。

 中々速い――だがな。


「負けねぇよ!」


 そう言って俺は剣を振るい、フォレストウルフどもの首を刎ねた。

 ちっ 普通の魔物ですら、斬る時に嫌悪感が生まれるか。

 もしこれが人型の魔物か――あるいは人間だったら、最悪吐くかもしれない。

 昔、興味本位でどこぞの国のそういう系の動画を見て、気分を悪くした時の事を思い出すな……

 ただ、躊躇は……躊躇は……しない。

 すりゃ死ぬのは俺だし、何よりフェリスがそのせいで死ぬかもしれない。

 そっちの方が、よっぽど恐ろしいよ。


「……お兄様。大丈夫ですか?」


「いや、大丈夫だ。気にすんな」


 俺の内心を読んだのかは知らないが、フェリスに心配されてしまった。

 妹に心配されるとは……情けないな。

 そう思った俺は、走りながらそう言って笑った。

 だが、そんな俺の内心なぞ知ったこっちゃとばかりに、その後も戦いは続いていく。


「グガアアアア!!!!」


 奥に行けば行くほど、強い魔物が出るようになっていく。

 その理由は、大気中に含まれる魔力の粒子――魔素が深部ほど濃いからであると考えられている。

 魔素は魔物の発生に大きく関わってくる要素だからな。


「【穿て――《魔力槍マジック・ランス》】」


 俺は魔力で形成された槍を5本放ち、両側から襲い掛かって来た牛頭人型の魔物――ミノタウロスを仕留める。

 魔物の心臓とも呼べる場所――魔石を穿って。


「……ああ。そういや今さっき殺ったミノタウロスあいつら、食えるらしいんだよな」


「そうですね。上位の魔牛という形で、そのローストビーフをパーティで何度か食べた事があります。普通に美味しかったですよ?」


「……ああ、俺食べた事無いわ」


 平凡故に、パーティに参加させられる事の無かった俺は、フェリスの言葉にそんな嘆きの声を漏らす。


「それは……すみません。やはりあの時、力づくでもお兄様を参加させていれば――」


「大丈夫大丈夫。気にしてないって。また今度、設備とかが整ったら狩って、調理しよう。フェリスも手伝ってくれるかな?」


「勿論です。お兄様!」


 気を落とし、危なそうな事を口にしようとしたフェリスを宥めながら、俺はそう言って話題を変える。

 すると、フェリスは嬉しそうに声を上げて、ニコリと笑った。

 和むなぁ……

 そしてその後も、俺たちは進み続ける。

 こうして進み続ける事、約3時間。

 気付けば俺たちは、人の気配が全く感じられない所にまで足を踏み入れていた。


「ここまで来ると、結構ヤバそうな魔物の気配がしてくるね」


 そう言って、俺は走りながら周囲を見回す。


「そうですね。からぶつかれば、私ではまず勝てないかと」


「そうか……気配、ちゃんと消しておけよ」


「はい……っと。来ます!」


「ああ」


 刹那、森の木々をなぎ倒しながら、1体の大亀が姿を現した。

 体長8メートル程。岩のような甲羅を持ち、尻尾の先端には岩球が見える。

 名は、ロックタートル。耐久力は魔物の中でもトップクラスで、並の攻撃では傷1つつかない中々の化け物だ。


「ホオオオォ――!!!」


 俺たちを視認したロックタートルが、餌を見つけたとばかりに咆哮を上げた。

 直後、パカリと開かれたロックタートルの口から、まるで機関銃のように石の礫が放たれる。


「【守れ――《拒絶領域レジェクト・フィールド》】」


 それに対し、俺は一瞬で八角形ハニカムが合わさって作られた半球状の結界を展開する事で、その圧倒的な弾幕を防いで見せる。

 ダダダダダ――と凄まじい音を立てながら、石の礫が《拒絶領域レジェクト・フィールド》に叩きつけられる中、俺は続けて詠唱を唱えた。


「一撃で終わらせよう――【全てを巻き込み、空間を壊せ――《空間破壊オーバーブレイク》】」


 直後、空間が壊れ、ロックタートルの半身が消滅した。

 ロックタートルの装甲には、然程魔力は込もっていない――故に、超高難易度の《空間破壊オーバーブレイク》を発動しようとしても、ほとんど妨害を受ける事は無いのだ。

 これが魔力の塊的な存在であるドラゴンとかだと、発動のタイミングで即妨害されるだろうけどね。


「ふぅ。終わったか」


 そう言って、俺は事切れたロックタートルを一瞥すると、フェリスと共に再び先へと向かって走り出した。

 そうして進み続け、日が丁度真上から差し込む時間帯になった所で俺は立ち止まると、口を開く。


「近くに川があり、かつここら辺にしては魔素が若干少なめだがら、強力な魔物もほんの僅かながらだが、発生しづらい。……よし。ここにするか」


 周囲を感知し、距離的にも丁度良いと思った俺は、一先ずここを拠点にしようと決めるのであった。

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