第十五話 いざ、マギア大森林へ!

 次の日の朝。

 宿でしっかりと睡眠を取った俺は、客室を後にした。


「おはようございます、お兄様!」


「ああ、おはよう。フェリス」


 すると、部屋を出たところで、丁度フェリスと遭遇する。

 笑顔で挨拶をしてくるフェリスに、俺も爽やかな笑みを浮かべて挨拶を返すと、一緒に下の食堂へと向かった。

 そして、そこで朝食を頼みつつ、今日の大まかな予定について話し合う。


「取りあえず、早い方がやっぱいいから、朝食を食べたらもう出発しようと思う」


「そうですね、お兄様」


 朝食としてお馴染みのパンを食しながら言う俺の言葉に、フェリスはリスみたいな感じでパンを食しながら、こくりと小さく頷いた。


「で、その後はマギア大森林の人が中々来なさそうな所まで一気に駆け抜ける。で、結界張って人や魔物が入って来れないようにした後、家まで造れたら上出来かなと思う。その他細かい事は……まあ、その時に考えよう」


「はい! ……ふふっ 面倒なしがらみを気にしない生活、楽しみです!」


 俺の言葉に、フェリスはそう言って楽しそうに笑う。

 その歳でしがらみが面倒とか、俺が言うのも何だが大人だなぁ……

 それとも、実家が泥船であることに気付いていたのかな?

 もしくは、婚約者がマジの糞なのか。

 何かの伝手で、どろっどろの政争を見てしまったのか。

 まあ、聞くのは流石に野暮だな。

 そう思い、俺は考えるのを止めると、パンを流すかのように水を飲んだ。

 流石に朝は酒じゃ無い。

 朝っぱらから酒を飲むのは、流石に御免だ。


「……ふぅ。それじゃ、行くか」


「はい。お兄様!」


 やがて、朝食を食べ終えた俺たちは、宿を後にすると、北門へと向かって大通りを歩き始めた。

 今の時刻は朝の8時――もう、大分人通りが激しくなっているな。

 そう思いながら歩いていると、こんな噂が耳に入って来た。


「……おい。シナラギ商会の会長の孫2人が、昨晩衛兵に捕まったらしいぜ?」


「なんか、自首したらしいな。まあ、祖父の権力を笠に、色々好き放題してたっぽいし……いい気味だな」


「にしても、なんで急に自首を? そんな事するか?」


「んー祖父に見切られたんじゃね? 既に勘当されたらしいし」


 シナラギ商会会長の孫2人……昨日フェリスをナンパし、挙句ゴロツキを従えて逆恨みしてきた奴だ。

 どうやらあの後、ちゃんと衛兵に出頭してくれたらしい。

 しかも、とうとう祖父に見切りを付けられてしまうとは。

 まあ、いい気味だな。

 あと、昨日はナイスだ。フェリス。


「良かったな。捕まったようで」


「そうですね。まあ、私としてはお兄様を襲おうとした奴らには死んで欲しかったので、自首されない方が嬉しかったですが……」


「お、おう」


 流石に……冗談だよな?

 そんな物騒な事言わないでくれよ?

 俺は平然とそう言ってのけるフェリスを、内心怖えな~と思いながらも、何とかそれは口に出さないようにする。

 まあ、これはフェリスなりのジョークだ。

 うん。きっとそうだ。

 そうやって自己暗示をしつつ、気づけばもう北門に辿り着いていた。

 そして、そこを特に止められることも無く通過し、街の外へと出る。


「さてと。マギア大森林までは、ざっと3キロメートルと言った所か……地味にあるな」


「でしたら、転移魔法を使うのですか?」


 そんなフェリスの疑問に、俺は首を振って答えた。


「いや、念のため魔力を節約したいから使わない。それに、こういう長閑な平原に囲まれた道を進むってのも、いいものだよ」


「それもそうですね、お兄様っ!」


 こうして、俺たちは徒歩でマギア大森林へと向かって歩き出した。


「お兄様と一緒に、普通に歩ける日が来てくれて、幸せです」


「そう言ってくれると、嬉しいよ。……森行ったら、何したい?」


「そうですねぇ……1日中のんびりごろごろして過ごすなんて、良さそうですね。貴族では、絶対に出来ませんので」


「だねぇ……」


 道中は、本当に和やかな感じだった。

 何かに縛られる事無く、自分の意思で生きていける。

 今思うと、俺はそれを求めていたのではないかと思う。

 そしてその指標となったのが、スローライフ。

 ……おっと。なんか、哲学的な考えをしてしまったな。

 そういう深い事は、あんまり考えたくないんだよね。


「……まあ、てことで到着だな」


 色々考えたり会話したりしつつ、気づけば眼前には巨大な森が広がっていた。

 詳しい総面積は不明らしいが、地球で言う所のアマゾンと同じぐらいの大きさだと言われているらしい

 普通にデカいな。


「人がそう足を踏み入れないが、それでいて凶悪過ぎる魔物が現れない所まで、一気に駆け抜けようか」


 距離にして、およそ200キロメートル。

 中々の距離だが、強化魔法を施せば、軽いジョギング程度でも昼過ぎには着くだろう。

 転移魔法や飛行魔法で一気に行く方が楽ではあるのだが、実戦感覚を身に着ける為にも、ここはあえて地上ルートで行き、魔物とある程度戦っておきたいのだ。

 大した実戦経験も無いまま奥の方へ行き、いきなり強い魔物と戦うのは……ね。


「はい、行きましょう。お兄様!」


「ああ。【強化せよ――《身体強化ブースト》】」


 そして、俺は自身とフェリスにこの世界では最もメジャーな魔法と言われている《身体強化ブースト》を施すと、マギア大森林の中へと入って行くのであった。

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