第十三話 懲りてねぇのかよ。こいつら

 あれからも、のんびりと街を歩きつつ、良さげな場所で昼食を取った。

 そしてその後も、念の為早めに宿を取りつつ、のんびりとした時間を過ごし、気づけばもう夕日が見える時間帯になっていた。


「楽しかったですね、お兄様!」


「ああ。こうやってのんびりと過ごせたのは、いつぶりだろうか……」


 そう言って、俺は沈みゆく太陽を一瞥する。

 何だかんだで、転生した後も結構忙しかった。

 のんびりとスローライフを送る為に、前世一歩手前程度の働きをする。

 お陰で、のんびりと過ごす方法を、完全に忘れてたな。

 まあ、フェリスのお陰で、分かって来たけど。


「夕食は、宿の食堂で食べるとして……他に何か、買い忘れたものは無い?」


「はい! ナイフ等の武器も、しっかりと補充出来ましたし」


 そう言って、フェリスは自らの胸元を優しく撫でた。

 柔らかな、男のロマンが詰まっていそうに見えるが、実際はそれ以外にも、投げナイフを始めとした物騒な物が入っている。

 フェリスが予想の何倍も強そうなのはありがたいけど……なんかちょっと怖いね。


「じゃ、宿に行くか」


「はい。お兄様!」


 こうしてのんびり散策を終えた俺たちは、昼に取った宿へと向かって、歩き出すのであった。

 だが、道中で事件が起こる。


「……お兄様」


「ああ、分かってる」


 人通りの少ない道に入った俺たちは、短い会話を交わすと、周囲に意識を向ける。

 少し前から感じていたが……気配がするな。

 魔法を使い、感知した俺は、様子からそろそろ来るなと思う。

 次の瞬間。


「バレてるのかぁ……」


「隠してたんだけどなぁ……」


 そんな悪態を吐きながら、10人ほどのガラの悪い男の集団が、四方八方から姿を現した。

 見たところ、丁度前方に立つ大男が、この集団の統率者といった所か。


「へっへっへ。俺たちを舐めるからこうなんだよ」


「ざまあ無いぜ」


 すると、その大男の背後から、2人の男が出て来た。

 ん? こいつら、どこかで……


「あ、フェリスにナンパした奴らだ!」


「……ああ、そいつらですか」


 ふと思い出したかのように、俺は声を上げた。

 俺の言葉で、フェリスも彼らの事を思い出したようで、納得したようにポンと手を叩く。

 すると、そんな俺たちの態度が気に入らないのか、2人はイラついたように声を上げた。


「知らないのか? 俺の爺ちゃんは、この街一番の商会の商会長なんだぞ!」


「そうだそうだ。シナラギ商会だぞ?」


 身なり良いから、それなりに裕福なとこかと思ったが、まさかのそう来るとは。

 それにしても、祖父の威を借る孫……か。

 救えねぇー

 てか、シナラギ商会って、さっき金の取引したとこやん。

 あそこに、こんな不良債権が居るとはねぇ……

 こいつらの祖父……商会長は、結構聡明な感じがしたんだけどな。

 爺ちゃんよ。こんな不良債権を放置するのは、止めた方がいいぞ。

 そう心の中で思いつつ、俺は最後の忠告をする。


「今逃げ出すのであれば、追わない。ただ、来るのであれば……流石に容赦しないぞ?」


 これで二度目だ。

 流石に、徹底的にやる。

 殺すのは……ちと無理だが。

 だが、そんな俺の忠告に対し、帰って来たのは――嘲笑だった。


「はっ 何上から目線で言ってんだよ」


「おい、やれ!」


「ああ、やってやるよっ!」


 そして、集団に命令し、俺を襲わせて来る。


「【砕けろ】」


 それに対し、俺はたった一言だけ詠唱を紡いだ。


「があっ!」


「がはっ!」


「ぐふっ!」


 刹那、一斉に地面へ崩れ落ちる10人のゴロツキども。

 今のは、ただ魔力の塊で押し潰すだけの簡単な魔法。

 殺してはいないが、今ので両手両足、そして肋骨が何本か折れたと思う。

 さて、後は2人だけだな。


「ひ、ひいいっ! 化け物ぉ!」


「に、逃げろ!」


 2人はこの惨状を前に、脱兎の如く逃走を始める。

 俺は面倒だと思いながらも、逃がさないように魔法を唱えようとした――が、あることに気付き、取りやめた。

 直後。


「ぎゃっ!」


「ぐえっ!」


 2人が同時に地面へ崩れ落ちた。

 そして、そんな2人の前に立つのは、ダガーを両手に構える暗殺者フェリス

 暗い道と相まってか、2人には相当恐ろしく見える事だろう。

 すると、ダガーを収めたフェリスが、胸元からすっと2本のナイフを取り出した。


 ヒュン ヒュン


 刹那、勢いよく飛ばされたそのナイフは、2人の首に突き付けるようにして、地面に突き刺さる。

 その後、絶対零度の目線を2人に向けながら、フェリスが言葉を紡いだ。


「お兄様の慈悲に感謝しなさい。ただ、もし次やろうとするなら……それを計画した時点で殺します。いいですね? ……ああ、それとも今すぐ死にたいですか?」


「すみませんもうしませんすみません!!!」


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!!」


 フェリスの圧に堪え切れる訳も無く、2人はその場で猛烈に謝罪を繰り返す。


「では、念のため後ほど自首してください。明日、お前たちの噂を聞かなければ……ね?」


 そんな2人に対し、フェリスは最後にそう脅すと、その場を立ち去り、俺の所へ来るのであった。


「お兄様っ! お怪我はありませんか?」


「ああ、そりゃ無いぞ。まあ……よくやったな。フェリス」


 俺は、見てはいけない物を見てしまったような気分になりながらも、そう言ってフェリスの頭を優しく撫でてやる。


「えへへ……」


 すると、フェリスの頬が途端に緩み、幸せそうな顔になった。

 うん。やっぱりフェリスは可愛いな。

 そう思いながら、俺はその場を立ち去り、今度こそ宿へと向かうのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る