第十一話 フェリスって……強い?

 活気あるマコダギアの街並みをのんびりと眺めつつ、良さげな魔法薬店を見つけた俺たちは中に入ると、店内をしっかりと物色する。


「んー……金はあるし、品質は最上級クラスでもいいか」


「そうですね。お兄様には、最上級が相応しいです!」


 どれにしようかそれなりに悩んだが、結局大は小を兼ねるという感じで、最高品質の最上級魔力回復薬マスター・マジックポーション最上級回復薬マスター・ポーションをそれぞれ10本ずつ購入する事を決めた。

 ただ、ここで成金状態になっていた俺は冷静になり――


魔力回復薬マジックポーションはともかく、回復薬ポーションは下のやつも買っておいた方がいいな。欠損部位をくっつけるレベルの回復薬ポーションしか無いのは、普通に不便過ぎる」


 その判断の下、上級回復薬グレート・ポーション中級回復薬ミドル・ポーション下級回復薬レッサー・ポーションもそれぞれ相当数買う事を決めた。

 その結果、合計金額が222万セルとなり、俺と店員の目を若干ながらも見開かせる結果となってしまったな……

 そうそう。この国では、セルってのが金の単位になっているらしい。

 レート的には、1円=1セルだと思う。

 また、金も紙幣では無くて全て硬貨となっており、硬貨の価値は、小銅貨が10セル、銅貨が100セル、小銀貨が1000セル、銀貨が1万セル、小金貨が10万セル、金貨が100万セル、白金貨が1000万セルとなっている。


「……はぁ。これで、手持ちの金はほぼ無くなってしまったな」


 店を出た俺はそう言って、相当軽くなった財布を揺らす。

 屋敷から持てるだけ持ってきたつもりだったんだけどね。

 まあ、換金用の金銀ミスリル、アダマンタイトは沢山ある為、この後良さそうな所で換金してもらうとするか。


「まあ、その心配は無いとして……何かしたい事はある?」


 換金と食事以外で、特にここでする事も思いつかない。

 そこで、俺はフェリスの要望を聞いてみる事にしたのだ。

 すると、フェリスはニコリと笑って――


「特にありませんので、お兄様にお任せします」


 そんな言葉を、口にするのであった。

 そうか。フェリスも無いのか。

 フェリスの事だから、俺に遠慮して……と一瞬思ったが、これはマジのやつだ。

 マジで、何も無いやつだ。


「……そうか。なら、取りあえずやるべき事を……手持ちの金か銀を換金しに行こう」


「分かりました。お兄様」


 そうして、回復薬ポーション魔力回復薬マジックポーションを買い込んだ俺たちは、続いて金銀の換金をしに、向かうのであった。

 だが、そんな矢先、事件が起こる。


「お、嬢ちゃん可愛いな。そんな奴とじゃ無くて、俺らの所に来ないか?」


「そうそう。行こうぜ行こうぜ」


 道行く人に換金できる場所を聞き、さっさと向かおうとしていたら、大通りから少し外れた辺りの場所で、身なりの良い2人組の男に遭遇した。

 陽キャが女をナンパする光景……前世でも数回見た事があった気がするな。

 だが、実際に当事者となると、一気に面倒臭さが増してくる。

 てか、確かに彼氏では無いとは言え、横に男が居る女をナンパしようとするとか、中々えっぐい神経しているな……


「そう言うのは、止めて欲しいな……だろ?」


 俺は両者の間に立つと、やや厳しめな表情でそう言う。


「はい。お断りさせていただきます」


 そして、フェリスも俺の言葉に続くようにして拒絶の意を示した。

 だが、もう一度言うが、相手は横に男が居る女をナンパするような、えっぐい神経をしている奴らだ。

 この程度の拒絶で――止まる訳が無い。


「は? お前は引っ込んでろ!」


「ちょっと黙れ!」


 俺の言葉に、怒りを露わにした2人組の片割れが、俺に拳を突き出してきた。

 大振りで直線的。


「当たる訳無いだろ」


 そう言うと、俺はギリギリまで引き付けたところで半身になり、その拳を躱して見せた。


「お疲れさん」


 そして、男の腕が伸びきった所で俺はそいつの手首を両手で掴むと、王道的な背負い投げをお見舞いする。

 ガチの戦闘であれば、あのまま手首と肘を掴んで、肘の関節を逆方向に曲げるのだが……流石に殺意の無い相手にそれはやりすぎなので、この程度にしてやった。


「お前っ!」


 すると、続けてもう片方が襲い掛かって来る。

 俺は面倒だと思いつつも、そちらから仕掛けてくれるのなら、良心を一切傷めずにやれると、拳を構えた――が。


「はっ!」


「おえっ!」


 奴は、何の予備動作も無く振るわれたフェリスの手刀で喉をぶっ叩かれた事で、嗚咽しながら膝を地面につけた。

 わーお。凄い。

 死んでは無いようだが、普通にえげつないなぁ……


「お兄様に拳を向けようなどと、言語道断。殺さないだけ、ありがたく思いなさい」


 ゴゴゴゴゴ――と効果音が聞こえて来ていると錯覚してしまうレベルの圧を男に向けながら、そんな事を言うフェリス。

 おー怖いな。

 女を怒らせると怖い……よく言うよね。


「それにしても、フェリスって結構戦えるんだな。普通に今の動き、様になってた」


 明らかに素人では無い動きを見せてくれたフェリスに、俺は感心したように言う。

 すると、フェリスを纏っていた怒気が一気に消滅し、代わりに可愛らしい笑みが宿った。


「ありがとうございます、お兄様! いざという時の為に、頑張って鍛えたんです」


 そう言って、コロコロと笑みを転がすフェリスに、俺は絆され、地面に崩れ落ちた奴らはどこか戦慄したような表情を、見せるのであった。

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