第十話 早々に足りない物……発覚
「お兄様。それで、これからどうするのですか? マギア大森林までは結構距離がありますし」
屋敷から多少距離が離れた所で、気配を元に戻したフェリスが、俺の左手をそっと右手で握り締めると、そう問いかけて来た。
ひんやりとした感覚が左手を包み込む中、俺は「そうだな……」と少しだけ考えを巡らせた後、口を開く。
「取りあえずマギア大森林の直ぐ近くにある街まで、これから最速で行く。当然行ったことが無い場所だから、転移魔法一発では行けないが……俺の場合、視界内であればどこへでも行けるから、それを使い続けて行くつもり」
「分かりました。ですが、それでは魔力の消費量が半端無いと思いますので、
「……あ」
ニコリと笑うフェリスの言葉に、俺は一瞬マジで凍り付いたかのように固まってしまった。
ヤバい……俺、ずっと魔力を枯渇させたことが無かった関係で、
更に、その繋がりで
アホや。俺、なんでそんないざという時に超絶役に立つものを、持っていないんだ……
「……いや、でもこの程度の距離だったら、魔力は全然持つ。だから大丈夫だ。ただ、いざという時に必要だから、向こうに着いたら買うとしよう。マギア大森林では質の良い素材が多く取れる関係上、向こうの方がこっちよりも少しお得だ」
「凄いです、お兄様!」
若干早口で紡がれた俺の言葉に、フェリスは尊敬の眼差しを俺に向けながらそう言った。
ふぅ。何とか、兄としての面目は保てたな。
「じゃあ、行こうか。念の為、人気の無さそうな所に……っと」
フェリスも巻き込むような形で転移魔法を使う関係上、こんな人混みの中で使ったら、誰かしらを巻き込んでしまう可能性も多少ある。
そう判断した俺は、フェリスと共に人気の少ない場所へと向かった。
「じゃ、行くよ。念の為、ちゃんと掴まっててくれ」
「はい!」
フェリスは元気よく返事をすると、いつもみたいに背中から俺に抱き着いた。
いや、そこまでする必要は無いのだが……まあ、いいだろう。
悪い気はしない。
「やるか。【座標を繋げ――《
そうしてまず転移したのは、ここトゥレロス郊外の上空400メートル。
そこから、俺は次の場所を目視で確認すると、即座に《
後は、所々で場所があっているかを確認しつつ、目的地まで行くだけだ。
「お兄様っ! 楽しいです!」
「そうか。それは良かったな」
怖がっていないかなと思っていたが、その心配は全然杞憂だったようだ。
むしろ、この状況を楽しんですらいる。
俺はその事にほっとしながら、途中で一旦転移を止めると、風属性魔法の《
「さてと。方向は……あってそうだな」
「そうですね。私も、合っていると思います。お兄様」
「フェリスもそう言うなら、間違いないな。それじゃ、【座標を繋げ――
上から周辺地形を見渡し、進む方向が合っている事を確認すると、再び《
これを10分程続けたところで、遂に見えた。
「おっ! あれじゃないか?」
そう言って、俺が指差す先に見えるのは、遥か上空からでも堅牢だと分かるような城壁に囲われた、円形の街。ふと視線を北の方に向けてみれば、そこには先が見えないほど巨大な森林が広がっている。
「マギア大森林から最も近い場所にある街――マコダギア。それで、間違いないと私も思います。お兄様」
フェリスも、下に広がる光景を眺めながらそう言った。
2人して同じ意見なら、大体正しい。
人間社会に置ける常識だ。
「じゃ、行くか。【座標を繋げ――《
その後、俺は下方向へと向かって転移し、一気に地上へと降り立つと、そこからの数百メートルは歩いて、マコダギアへと向かう事にした。
「それにしても、ここの城壁大きいな。やっぱ、近くに危険地帯のマギア大森林があると、これぐらいの大きさは必要かぁ……」
「昔はもう少し小さかったようですが、大規模なスタンピードが起きて大変な事になった結果、ここまで大きいものになったそうですよ。お兄様」
「なるほどなぁ……」
そんな風に、のんびりと雑談をしながら歩いていたら、あっという間に門の下に辿り着いた。そして、簡単な荷物チェック等を受けてから中に入る。
「おー……活気があるね」
「そうですね。あの糞ど……あの人たちが搾取……統治していたトゥレロスよりも、ずっと栄えています」
そこは、本当にただただ活気に溢れていた。
あと、冒険者らしき人……即ち、不統一な自分好みの武装をしている人が多くいるのが見て取れる。
マギア大森林は無論危険地帯ではあるが……その分、強者であればそれなりに安定して高い金を得られるだろうからな。一攫千金も狙いやすいし、ここを拠点にしようと思うのも頷ける。
それと、フェリスよ。
やっぱ
憎悪が全然隠せていない。
その事に、俺は内心頬を引き攣らせつつも、フェリスの方を向くと、口を開いた。
「それじゃ、良さそうな場所で
「分かりました。お兄様っ!」
こうして、マギア大森林最寄りの街――マコダギアへ入った俺たちは、屋敷を出て早々に発覚した足りないものを調達する為に、歩き出すのであった。
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