第七話 荷物確認

「さてと。それじゃ、次は荷物の確認だな」


 屋敷地下にある秘密(笑)の裏金専用倉庫から、2階にある自室へと転移した俺は、靴を脱くと、ドカッとベッドの上に胡坐を掻いて飛び乗った。

 そして、《空間収納インベントリ》を開き、中の物を確認していく。


「武器は十分。食料もちゃんと入ってて、服も……これだけあれば大丈夫で……」


 物を出しながら確認するのでは無く、中に何が入っているのかをデータ化したものを見る事で、足りないものが無いかを可能な限り確認していく。

 スローライフの為に、何年も何年もかけてコツコツと貯めた沢山の物資。

 劣化等も、時間が止まる《空間収納インベントリ》内に入れておけば、考える必要が無いってのが大きいな。

 いやはや、空間属性に適正があって本当に良かったよ。

 適性が無かったら、それなりに容量を考える必要が出て来て大変だっただろうし。


「農耕系の道具も完備。建築関連も良し。素材系は、基本的に現地調達出来るから良くて……うん。まあ、こんなもんだろ」


 そう言いつつも、内心では「多分何かしら足りないだろうなぁ……」だなんて思ってる。

 だって、俺は凡人だからだ。普通だからだ。

 ただ、そんな凡人でも……趣味に掛ける熱量は、前世から相当あったという自負がある。

 まあ、好きこそ物の上手なれとでも言うように、好きな事に関しては結構やれると思う。

 だから、何か足りなかろうが、それについての心配は一切していない。

 きっと――いや、絶対にやれるさ。


「……さてと。準備も終わった。であれば、次は一先ずの行動方針の確認だな」


 そう言って、俺は《空間収納インベントリ》から取り出した地図を取り出すと、ベッドの上に広げた。

 これは、ここネクサス王国の全体地図だ。

 ただ、精度は魔法があるにも関わらず、地球の中世ヨーロッパ程度の大雑把なもの――だが、これでも伯爵子息おれが手に入れられる地図の中では最も精度の高い物なんだ。


「理由が、他国に侵略されない為とか、物騒だよなぁ……」


 別に今、ネクサス王国はどこかとドンパチやり合っている訳では無い。だが、もし正確な地図を作って見つかった場合、それを材料に進行される可能性が極めて高いのだ。

 現代日本では、科学技術が発達し過ぎて、誰でも簡単に正確な地図が手に入れられる世の中だったから、こんな事無かったが……それでも昔はあったらしいからね。

 割と納得出来た。


「で、それはともかくルートは……」


 そう言って、俺は地球で言う所のオーストラリアぐらいの国土を持つネクサス王国の、中心から西方向に外れた場所にあるここトゥレロスを指差す。そして、そこから北東に向かって指を滑らせ、大体400キロメートル分動かしたところで手を止めた。


「うん。ここまで、脳内シュミレーションした感じは行けそうだな……悪い言い方すりゃ、机上の空論だけど」


 そう言って、俺は自分を鼻で笑う。

 俺がこれから目指すのは、丁度今指を指しているネクサス王国最大の森だ。

 名を、マギア大森林と言う。

 人外の領域とされるそこは、それなりに戦えないと浅い所でも入ったら確実に死ぬと言われるような、ネクサス王国屈指の魔境だが、裏を返せばスローライフを邪魔するような人間が、現れ難いとも言える。

 俺は結構強いし、結界張れば知性の無い魔物は解除出来ないから基本的に完封できる。

 それに、あっちに行ったらここでは出来なかったを召喚してみようと思う。

 失敗する可能性もあるが、召喚できればいい戦力になると俺は踏んでいる。


「まさかあいつらも、俺がこんな所へ行くとは思わないだろうなぁ……」


 そう言って、俺はクククと口元に右手を当てて笑う。

 マギア大森林に行くだなんて、言う人によっては新手の自殺宣言みたいなもんだ。

 まあ、俺の場合は憧れスローライフ生活の開幕宣言だけどね。


「……ただ行くとなると、少しフェリスの事が気がかりだ」


 この家の中で、フェリスだけはずっと俺の味方だった。ずっと俺を、慕ってくれた。

 そんなフェリスと、恐らく今生の別れになる事には、流石に何か込み上げて来るものがあるな。

 ここで、一瞬フェリスも連れて行くという考えが脳裏を過る――が、直ぐに頭を振ってそんな馬鹿みたいな考えを振り払った。


「あそこは魔境だ。フェリスを守り切れる保証は無い。それに、相手の名は知らんが、フェリスにはもう婚約者が居る。どう考えても、連れて行く訳にはいかない」


 フェリスにはフェリスの人生がある。

 それを俺の勝手な考えで、変えていい道理なんて無い。

 あのフェリスの事だ。

 俺に誘われたら……断れんだろ……


「まあ、別れの挨拶ぐらいはしておくか。勿論、今生の別れだとは悟らせないように……な」


 悲しいが、俺だって相当の準備をし、覚悟を持ってここまで頑張って来たんだ。

 もう、何があっても――止まらないよ。


「……さて。準備も終わったし、明後日までゆっくりするか」


 こうしてスローライフに向けた準備を整えた俺は、残り少ない貴族生活を満喫しようと、鍛錬続きでほとんど使わなかった屋敷内の設備を、一通り見て回りに向かうのであった。

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