第四話 続くのんびりとした日々(鍛錬)
「あ~気楽だ気楽だ」
つい最近10歳となった俺は、暖かい日の光を浴びながら、裏庭にあるベンチで寛いでいた。
今朝、兄であるゼノスがこの国――ネクサス王国の王都にある王立学院へ入学する為に、父と母、それに姉も連れて家を出て行ってくれたんだ。お陰で人の目が減り、こうして普段よりも自由に行動できる。
本当は妹のフェリスも行くらしかったのだが、何故か断ったらしい。
フェリス、俺を除いた家族の事があまり好きではないみたいだからな……そのせいかもしれない。
「王立学院ねぇ……興味はあるけど、別に行きたくは無いなぁ……」
そう言って、俺はお得意の結界魔法を手の平に出現させると、くるくると魔力で操作し、弄ぶ。
王立学院とは、基本的に12歳から16歳の貴族が通う、学び舎だ。
ただ、その実態は貴族同士の繋がりを作ったり、自らの有能性を誇示する場所みたいなもの。どろどろ政争の始まりの場……と言った所だろうか。
まあ、普通に拒否すれば行かなくても問題なさそうだから、今の所行くつもりは無いがな。
優秀な次期当主として期待されている兄はともかく、平凡な俺を行かせて、もし俺が王立学院で実家の看板に泥を塗るような事をしたらどうなるか。
それくらい、あの父なら容易に想像するだろう。
だってあいつ、普通に優秀の部類に入りそうな人っぽいし。
不正はするけど。
不正はするけど(2回目)
「父も母も姉も、1か月は帰ってこない。兄に至っては夏休みまで……楽でいいなぁ」
そう言って、俺はそのままゴロリとベンチで横になり、青空を見上げる。
こういう安らぎの時間を、俺は求めているんだ。
ああ、前世の俺よ。今世の俺は、着実にスローライフに向けて、動けているぞ。
「……うん。その為にも、あとはたかだが数年、頑張ればいいだけだ」
何故前世では、頑張る事の出来る若い内に頑張らなかったのだろうと思いつつ、俺はよっこらせと起き上がると、ベンチに立てかけてあった木剣を手に取った。
そして、続けて周囲に人が居ない事を確認してから、魔法を行使する。
「【魔力よ、生み出せ。我が分身――《
そうして眼前に生成されるのは、俺と全く同じ姿をした分身体。服や右手に持つ木剣まで、しっかりと”今の俺”が再現されている。
これ、命令された通りの動きしか出来ないが、基本的に俺の動きを元に動いてくれるから、剣術の鍛錬としてよく使えるんだよね。
「次に……【動きを縛れ。堕落の鎖――《
続けて唱えるのは、対象の身体能力を下げる魔法――《
本来、これは敵に向けて使うものだが……今回は俺自身に向けて、ほんの僅かな効力を持たせて使用した。
こうしないと、大して成長しないからね。
「さて……やるか。【戦え】」
準備を整えた俺は、思念を込めた詠唱を飛ばして命令をすると、即座に木剣を構え、分身体に斬りかかる。
それに対し、分身体も俺と同じような動きで木剣を振るった。
カッ!
木剣同士がぶつかり合い、乾いた音を鳴らす。
こういった質感を再現できるのも、《
「……」
直後、能面のような表情をした分身体が半歩引いたかと思えば、流れるようにして逆袈裟を繰り出す。
「ふっ」
刹那、俺はだらりと木剣を下に降ろした。そして、一呼吸する間に上半身を後ろへ反らす事で、その木剣を躱してみせる。
「はっ!」
その後、流れるようにしてお留守となっている分身体の肘に、俺は木剣を振り上げた。
「……」
だが、寸での所で後ろに引かれ、躱されてしまう。
まあ、相手は俺だ。俺の事は、俺が一番よく分かってるってやつ。
何十回何百回と戦っていれば、猶更だ。
「だが……足元がお留守だ」
そう言って。
俺は分身体が振り上げた木剣を振り下ろす――その前に、くるりとその場で左に半回転すると、右足の踵を分身体の鳩尾に突き出す。
「……」
その衝撃で、分身体は後ろへと飛ばされた。
そこへ、俺は逃がさぬとばかりに接近する――が。
ガッ!
「ぐっ……」
流石に甘かったようで、左腕を斬られてしまった。
木剣故に、血が噴き出る事はなかったが……それでも、打撲程度は確実にしている。
まあ、仮にも俺は伯爵家次男。打撲を直せる程度の
「はあっ!」
だが本番を想定して、もう左腕は使えないと見て行動しよう。
そう思いながら、俺は攻撃動作直後で、隙が生まれている分身体の首へ、右腕のみの斬撃を繰り出す。
ガッ!
それは、ギリギリ回避が間に合う前に首を捉える事に成功した。
直後、分身体が魔力の粒子となって消滅する。
木剣に対してそれなりに攻撃してたし、今の一撃で丁度許容量を超えてしまったか。
うん。中々いいタイミングだ。
「まあ、それはそうとして……痛いな」
そこで、俺は即座に腰に隠してあるホルダーから
するとあら不思議、地球の天才医学者もびっくりの速度で、傷が治ったではありませんか。
「よし。そんじゃ、再開だな」
そう言って、俺は再び木剣を構えると、今の反省点を踏まえながら、再び鍛錬をするのであった。
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