第三話 俺への評価
コンコン
「サイラス様。お目覚めの時間でございます」
「んー……んあぁ……分かったぁ……」
次の日の朝、部屋に入って来た使用人のモーニングコールによって起床した俺は、目を擦りながらゆっくりとベッドから降りる。
そして、朧げな頭のまま、使用人に着替えを手伝えさせた。
正直着替え程度、1人でも出来るのだが……まあ、貴族だからね。仕方ない。
これも最初は、恥ずかしいな~だなんて思っていたが、今ではすっかり慣れてしまっている。
正直、いずれここを出てスローライフをしようと思っている都合上、これには慣れたくないな……
そんな事を思いつつも、身支度を整えた俺は、部屋の掃除を使用人に任せると、自分は食堂へと向かう。
「お兄様。おはようございます。今日も、かっこいいです」
すると、まるで見計らったかのようなタイミングで、フェリスが自分の部屋から出て来た。そして、花開くような可愛らしい顔で、そんな事を言ってくれる。
「ああ、おはよう。フェリス」
そんなフェリスに、俺も子供らしい笑みを浮かべてそう返すのだった。
その後、俺はフェリスと共に食堂へと向かうと、そこには既に母と兄、姉が居た。
「おはようございます。母上、ゼノス兄上、ミリア姉上」
俺は前へと出ると、彼らの前でそう言って頭を下げた。
まあ、よくある簡易的な挨拶だ。
その後、俺の後に続いてフェリスも挨拶をする。
すると、まず母が口を開いた。
「おはようございます。サイラス、フェリス。早く席に着きなさい」
その声は、別に冷たいとか、そういう訳では無い。
ただ、そこまでの感心は無いとも言うような……そんな感じだった。
「ああ。2人共、おはよう」
「サイラス。髪の毛……少々刎ねてますよ」
すると、続けて3歳年上の兄ゼノスと、2歳年上の姉ミリアが、それぞれそのような言葉を口にした。
子供という事もあってか、母とは違い、その言葉には親しみが見て取れた。だが、それはフェリスに対するもののみで、俺に対しては明確な区別の感情があった。
俺が下で、自分たちが上……そんな思いが、露骨に感じ取れたが、特段それに関して思う事は無い。
俺は知らぬとばかりに笑顔で応えると、フェリスと共に席に着いた。
その後、それから少しして、食堂に2人の男が入って来た。
60代半ばに見える、黒髪の男はグローリア伯爵家の家宰。
そして、40代前半に見える、銀髪の男は――
「おはようございます。父上」
そう。グローリア伯爵家当主にして、父のルイン・フォン・グローリア伯爵だ。
俺他、家族全員が、一斉に彼に対して挨拶をする。
「ああ、おはよう。では、朝食の時間にするとしよう」
父は、そう言って家族に向ける様な柔らかな笑みを浮かべると、席に着いた。
こうして当主が来たことで、ようやく食事の時間が始まる。
「朝食を、お持ちしました」
直ぐに使用人がワゴンを引いて厨房から出て来ると、テーブルの上に料理を置いていく。
貴族の料理と聞くと、豪華な物を想像しそうだが……実際は、パンやドレッシングがかかっただけの生野菜など、日本では一般市民でも普通に食べられるものだ。
勿論それは普段の料理であって、何か特別な事があったり、客人を呼ぶ時などであれば、ローストビーフといった豪華な代物になるが。
「では、創世神ネクタルのお恵みに感謝し、いただきます」
「「「「「いただきます」」」」」
そして日本とは違い、宗教の影響を色濃く受けている国らしいいただきますをしてから、俺は朝食を取り始めた。
「……」
と言ってもまあ、基本的には無言だ。
だって、俺が話す事なんて、特に無いもん。
逆に、跡取りとして見られ、俺とは違い優秀だと思われているゼノスは別だ。
「確か、もうあの教科書の内容を全て覚えたようだな。素晴らしい、ゼノス。サイラスのような凡人にならぬよう、努めるのだぞ」
「はい。勿論です、父上」
とまあ、こんな感じだ。
俺の前でこんな事を言う父親は、どうかと思うが……まあ、出世争いの絶えない貴族家だし、そう言われるような成果を俺は意図して出しているので、不満は一切ない。
むしろ、こっちの方が楽まであった。
だって不正だらけな泥船から、簡単に脱出できるんだから。
「む、む、む……」
すると、横で心底不機嫌そうな顔をする妹のフェリス。
フェリスからしてみれば、ナチュラルに俺が罵倒されているこの状況は、面白くないのだろう。
だが、以前フェリスに何も言わないようお願いしていた事もあってか、何とか我慢してくれている。多分、言わなかったら普通に拳が飛んでそうな感じがするなぁ……
そんな事を思いながらも、俺は終始無言で朝食を食べるのであった。
「……ふぅ。自由時間だー!」
朝食後。
俺は自室のベッドにダイビングすると、そんな言葉を口にした。
平凡である事を貫いたお陰で、フェリスを除けば、誰も俺に関心を持とうとすらしない。そのお陰もあってか、基本的な事以外は割と放任主義でやってくれているのだ。
まあ、その基本的な事ってのがそれなりにあるから、案外日中の自由時間は、持て余すほど多いという訳では無いのだが。
「じゃ、魔法の練習するか~」
今人前で、このレベルの魔法を見せたら面倒な事この上ない。
そう思いながら、俺は一般教養を教えてくれる家庭教師が来るまでの間、昨晩のように、魔法の練習をするのであった。
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