第二話 ひっそりと鍛錬を
「……ふぅ。今日も終わりっと」
月が浮かぶ、夜の裏庭にて。
8歳となった俺は、額を汗で濡らしながら、そう言って息を吐いた。
そんな俺の右手に握られているのは、1本の木剣。
そう。俺は今、ここでひっそりと鍛錬をしていたのだ。
「前世ではインドア派だった俺が、こんなに鍛錬をする日が来るとはなぁ……」
そうぼやきながら、俺はベンチに腰を下ろすと、月を見上げた。
こういう身体を動かす鍛錬は結構辛いのだが、どこか気分がいい。
多分、スローライフをしたいっていう明確な目標が定まっているからだと思う。後は、前世が地味に後悔尽くしだったから……かな。
とにかく、前世の二の舞を踏むような真似は、絶対にしたくないんだ!
「さてと。息抜きに、魔法の鍛錬っと」
そう言って、俺は右手を掲げると、詠唱を唱える。
「【万物を拒め。無窮の守り――《
直後、自身を起点に半透明の結界が展開された。
半径約3メートルで、半円状。厚さは1センチ弱……といった所だ。
「よし。上級魔法も、少し無茶をすれば安定して使えるようになってきたな」
俺は身体中が筋肉痛になったような痛みに襲われながらも、そう言って安堵の息を吐く。
自我を取り戻したあの日から、俺は魔法について特に学んだ。
そのかいあってか、今では大人でも熟練者でなければ発動できないとされている上級魔法も使えるのだ。
まあ、ちょっと無茶してるけど。
ちょっと無茶してるけど(2回目)
「後は、便利そうな土属性魔法も伸ばしていかないとなぁ……適正無いが」
この世界に存在する魔法には、ゲームみたく属性というものが存在する。
火属性、水属性、風属性、土属性、光属性、闇属性、無属性、空間属性の8つだ。
ただ、人によって適正というものがあり、俺の場合は風属性、無属性、空間属性の3つに適正がある――即ち、伸びやすいと言われた。一応平均2つなので、悪くは無い。
まあ、伸びやすいってだけの話で、他5つの属性も頑張ればそれなりには使えるようになるっぽいが。
「さてと……【大地よ。我が意に応え、隆起せよ――《
そう言って、俺は詠唱を唱える。
すると、足元にある半径20センチ程の地面が、ぐぐぐと30センチ程隆起した。
まあ……地味だ。とてつもなく、地味だ。
「魔力量はまだまだだし、適正も無いからなぁ……」
ただ、諦める訳にはいかない。
諦めたら、また前世みたく転げ落ちてしまうかと思うと、なんだか怖くなってくる。
「はー落ち着け落ち着け。取りあえず、そろそろ帰るか」
流石にここに長居は出来ない。
バレても、誤魔化しようはあるが……面倒な事になるのは間違いないからだ。
そう思った俺は、即座に地面を均し、《
「【風よ、音を無にせよ――《
そうして発動するのは、風を操ることで、音を遮断する魔法――《
これで音を消してしまえば、後は俺が見つけた裏ルートでこっそりと自室に戻れば、万事解決ってわけ。
本当は転移魔法でパッと戻りたいのだが、この屋敷には侵入妨害の為、転移を感知し妨害する結界が展開されている。今の俺の実力では、これを突破するのはどうやっても不可能だからね。仕方ない。
そう思いながら、俺は監視の目が無い裏ルートを通る……すると。
「お兄様。こんばんは」
予め開けてあった窓を用いて中に入り、廊下に出たところで、俺は突然背後から声を掛けられた。
声を掛けられるまで、一切感知できなかった。
だが、俺は驚くこと無く振り返ると、小さく息を吐く。
するとそこには、俺と同じ銀髪に、緑の瞳を持つ少女が佇んでいた。
俺は風を操り、《
「フェリス。また居たのか」
「はい。少々、花を摘みに」
そう言って、可愛らしく笑う彼女の名前はフェリス。側室の子である俺とは違い、正室の子で、歳は同じ8歳だ。
ただ、数か月俺の方が先に生まれた為、兄と呼ばれている。
「そうか。早く、寝るんだぞ」
「分かりました。お兄様」
そう言って、フェリスはぎゅっと俺の腕に抱き着くと、音も無くこの場から去って行くのであった。
フェリス……なんか、暗殺者みたいに気配とか音消すの上手いよな。
「……それにしても、なんでフェリスは俺を、あそこまで慕ってくれるのだろうか……?」
自室へと向かって歩きながら、俺はそんな疑問を零した。
俺は一応、変に目立たないよう、平凡で居る事を貫いている。
実は兄よりもずっと有能であるとバレたら、面倒な事になる……だが、かと言って落第者であり続けたら、蔑まれて面倒な事になる。
故の平凡。その為、親兄弟からの扱いは普通より少し下程度だ。
だが、何故か妹のフェリスだけは、ある日を境にめちゃくちゃ慕ってくれるようになった。
何かした覚えは無いのだが……まあ、気分は悪くないからいいか。
そんな事を思いながら歩いていたら、ようやく自室に到着した。
「よし。帰還っと」
俺はそっとドアを開けると、俺視点では無駄に豪華に見える自室に入った。
そして、木剣を置くと、ベッドにダイブする。
「あー……眠い」
後は疲れもあってか、俺はそのまま意識を手放すのであった。
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