第二話 茜色と君

窓から日がこぼれる。

車内は会社勤めのサラリーマンや学生の姿が多い。

『次は、八幡。八幡です。』

と若い女性の自動放送が聞こえる。

ドアが開くと見慣れた駅のホームが広がる。

俺は高校生の行列の中に入り、ICカードを読み取り機にかざす。

周りの会話を聞きながら校門に入る。


教室のドアを開ける。

そこには

「よ!おはよ!広翔!」

セルジュだ。こいつはフランス人。こいつはいわゆる脳みそが筋肉でできてる脳筋だ。

「おい。またネクタイ曲がってる。」

俺はそう言って曲がったネクタイを直す。

「いや~。さっすが生徒会長ひろとだな。お手上げだぜこりゃ。」

と後頭部をかきながらセルジュは言う。

俺は机の横に肩掛けバッグをフックに掛け、自分は生徒会室へと足を運んだ。

ドアを開けたら、机で勉強をしている結菜さんがいた。

「あ、おはようございます。会長。」

「お...おうおはよう。朝から勉強か。えらいな。」

と俺は褒めてあげる。褒めると伸びるって言うし...

「いえ、全然えらくなんかありません。」

と結菜さんは俺が言ったことを否定した。

「私にとっては、朝に勉強するほど追い込まれている、という認識です。」

ととがった鉛筆のような言葉を自ら刺してる。

「は...はぁ。まぁ自分がその認識ならいいんじゃないか。」

と俺は納得は行かないが納得したふりをした。

そういって勉強を再開させた。

なにかまだムズムズする俺はソファに座った。

結菜さんは顔を上げ

「えっ...どうしたんですか?」

と手を止めて姿勢を良くした。

俺はポケットから携帯を取り出し6年前の写真を見せる。

「えっ?これ、誰ですか?」

と質問を投げかける。

「俺だよ。」

「えっ?」

俺はとっさに質問を返した。結菜さんは6年前の俺と今の俺との差がすごすぎて頭の中で混乱しているようだ。

まぁ無理もないだろう。

別人レベルに変わってるからな。

「ま、人もこのようにして環境に左右されるわけだ。」

とおれは適当に窓を向いて日差しに当たりながら喋る。

「カメレオンも一緒だ。周りの環境に応じて姿を変えていく。」

俺は机に上半身を偏らせ

「だから、お前だけ孤立せず頑張らなくていいんだ。自分のペースでゆっくりゆっくりと成長していけ。いつか環境がきっとついてくるはずだ。自分にそう言い聞かせるといい。」

俺はそう言い、生徒会室を出ていった。

出ていく前の結菜さんの顔は見ていない。どんな顔をしていたもわからない。

でも俺的には心にも響いてほしいなとは思う。

———————————————

もう空はオレンジ色になっている。

俺は駅の入り口へと続く歩道橋の階段を上る。

「すみません!広翔さん!」

微かな声が聞こえた。

俺は後ろを振り向くと右腕にビニール袋を掛け走りながら手を振る結菜さんだった。

状況をなんとなく察した俺は階段を下りて彼女がいる方向へと走った。

「すまん。重い荷物持って走らせちまって。」

俺はとっさに謝ってしまう。

「いえ...全然...大丈夫です...」

荒い息を立てながら必死に要件を話そうとしている。

俺は期待しながら耳を傾けた。

「今朝はありがとうございました。あの言葉のおかげで勉強が続きました。」

と頭を下げる。

「いや。とんでもない。いいよ。後輩は先輩に甘えな。」

と俺は決まり文句を言う。俺が言葉を放った後、ビニール袋に手を入れて何かを取り出そうとする。

「はい。これ、どうぞ。」

と言って出してきたのは、コンビニのチキンと緑茶だった。

「少し冷めてるかもしれませんが...よかったら受け取ってほしいです。」

そういわれたから受け取る以外に選択肢はなく

「あ...あぁ。ありがとう。」

混乱しながらも受け取らせていただいた。

「会長も電車通ですか?」

「うん。どっち方面?」

そしたら指を指す。

「西鹿島方面です。」

そこまでかしこまった顔で言う?と思いつつも

「俺と同じ。」

そういって俺は読み取り機にICカードを読み取らせ階段を上る。

電車が来るまで時間があるからベンチに腰を掛ける。

ホームにはたくさんの高校生がいる。

多分ほとんどが今日の授業だるかったよね~的な他愛のない会話。そうさ。そうに決まってるさ。

到着のメロディーが駅の中に響き渡る。

『まもなく、新浜松、西鹿島行き。両方面から電車が参ります。黄色い線までお下がりください。』

若い女性の声が響く。

赤い電車がつく。

ドアが開くとたくさんの人が下りてくる。

もちろん席は空いてない。

八幡駅を発車した電車は駅を出た瞬間から西から太陽の光が差し込んでくる。

———————————————————

『次は、さぎの宮。さぎの宮です。』

若い女性の放送がする。

電車から降りる縦鼻をする。

隣を見ると降りる準備をしている結菜さんがいる。

「広翔さんもここですか?」

「うん。」

ドアが開く。IC読み取り機にICを読み取らせる。

階段を下りてまた登る。


「ちょ...ちょっと待ってください!」


つづく

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