異界探偵事務所の調査記録
@hotate123
第1話 神隠しと探偵―ep1
S県央津市の湖沿いにある雑居ビルの二階。
一組の夫婦がそこにある探偵事務所の戸を叩いた。
「ようこそ矢島探偵事務所へ。どうぞこちらへおかけ下さい」
夫婦は場に似つかわしくないラフな格好の女性の応対に目を丸くしたが、促されるままにソファーに腰掛けた。
女性が机を挟んで反対側のソファーに座ると、若く背の低い童顔の男性が二人に紅茶を用意した。
「さて、本日はどの様なご用件で?」
「……」
「息子を…探していただきたい…」
女性の言葉に、妻は俯き夫が口を開く。
女性はその言葉に足を組んでその膝の上に手を置き、溜息をついた。
「単なる人探しであれば、知り合いを紹介するところですが…ここに足を運んだということは?」
「はい…」
「なるほど…『神隠し』ですか」
女性は天井を見上げ何か考える素振りを見せたのち、笑顔を2人に見せる。
「その依頼、お引き受けいたしましょう」
**************
「神隠し…忍君はどう思う?」
「どうって…初仕事なんですから、緊張しかないですよ。比奈さん」
「ふっ…初々しいね」
私は
探偵をやっている。
とは言っても、単なる探偵じゃない。
超常現象や異常存在を専門とした探偵だ。
「しかし、初仕事が神隠しとはね…これは、忍君の運が試されるよ?」
「と言いますと?」
「私達、異界探偵が依頼の難易度を測るために使う単位、『スケール』というものの事を覚えているかい?」
「はい」
私の助手、
「『スケール』は1から10まで存在し、大きくなるほど難易度が高いのさ」
「そうでしたね。確か、一般的な都市伝説の異常存在の難易度が3~4くらいでしたっけ?」
「その通り。補足すると、1~2は一般人でもなんとかなる『かもしれない』くらい。3~4は一般人では厳しく、私達のような専門家の範疇。それ以上は…対策を立てて挑む案件だ」
資料を確認しつつ、軽いおさらいをしておく。
これはこの仕事に深くかかわる話だから、絶対にやっておく必要があるのさ。
「そして、神隠しのスケールは1~10」
「…ん?」
「聞こえなかった?」
「いえ。ばっちり聞こえましたよ。…なんですか?1~10って」
「そのままの意味だよ。案件ごとの難易度がまちまちすぎて、スケールが定められていないのさ」
そう、神隠しに決まったスケールは存在しない。
行ってみないと分からないし、それまではスケール不明としか言えないのだ。
「簡単な時は、放っておけば帰ってくることもある。けれど、例えばスケール8とかになると、もう生存は絶望的。この依頼主の子供が迷い込んだ場所のスケールが低い事を祈るしかないのさ」
「う~ん…これ、なんで受けたんですか?」
「たとえ死んでいたとしても、そのことを伝えなければならない。でないと、彼らは前へ進めないのさ」
「そうでしょうか?」
「同じものを探し続けるのと、望むのもではなかった答えを知ることは、まったくのべつものだよ。忍君」
基本的に、神隠し依頼は必ず受けるようにしている。
でないと彼らが可哀想だから。
そして、捜索対象が生きていようが死んでいようが、必ず依頼を完遂する。
生きていればハッピー、死んでいれば報告と出来るのならば遺体を持ち帰り、後の事はその人たちに任せておしまい。
会えるかもわからない相手を探し続けて、無為な時間を過ごすくらいなら、真実を伝えてあげようという考えだ。
これは、私の先生の教えでもある。
「さて、おおよその把握は出来た。現場へ向かおうか?」
「マジっすか?俺も?」
「当たり前だろう?初仕事がどんなものになるかは分からないけれど…楽な仕事だといいわね?」
そう言って立ち上がると、私は車のカギをもって裏にある駐車場へ向かった。
異界探偵事務所の調査記録 @hotate123
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