黄金町商店街迷走中?! 後編

 『ニャオンが黄金町に進出するとしたら?』と聞かれるというシチュエーションを想像することが無かった店主たちは、一斉にざわめき出した。

 高嶋は、


『問答無用! ニャオンは我々の敵! 黄金町でも何処でも進出は許さない!』


 と一蹴されるものだと思っていたので驚いた。


「……ニャオンはあくまでもスーパー。いくら時計を売っていても、ウチの店のような老舗に専門知識で敵うことはあるまい。

 黄金町にニャオンができるなら、出店してやらんこともない。時計屋がないスーパーなんか流行らんだろうな」


 時計屋のように反対派の中でもニャオンが近くにできるなら、特に目くじらを立てないし、むしろ大歓迎という考えの者がいれば、先ほどのお茶屋を代表として『断固としてニャオンの進出は反対!!』という考えの者もいる。

 


「桑形さん、本題から逸れ始めています。元々、ニャオンが進出してくるから、商店街はどうするのか?というお話なのに、黄金町にニャオンがどうする?という仮定は、些か筋違いのように思えます」


「それもそうですね。本屋さん。ニャオンの進出が決まった今、我々がするか出来るかを話さなければなければ」


「本屋にとってニャオンのような大型ショッピングモールが進出することは、殆ど大型書店が出店することとほぼイコールであり、大資本の大型書店に私どもが太刀打ちする術はありません。

 であるからして、ニャオンとは違う商品やサービスを提供することが重要でしょう」


「ナスバーガーさんはいかがですか? ニャオンに出店することになった方のお話も伺いたいです」


「うーん。うちとしてはニャオンに出す店も黄金町の今ある店も儲かってくれないと困りますからねぇ。

 ニャオンの店は確かに、ニャオンの顔色次第なんですけど、黄金町の店は赤字になってロイヤリティーが払えない状態になるまで続けないといけません」


「やっぱりニャオンは商店街と違って薄情じゃないか! そんな所に出店する奴は大馬鹿者だ」


「しかし、なニャオンの方が魅力的に感じるお客さんが多いのが事実ですよ?

 十何年も空き店舗ということもないですし、なーなーで商売していると、それこそすぐ追い出されるのが商店街と大きな違いですねー

 大した営業努力をしないと追い出されるのをと言うのは筋違いですよ??」


「ナスバーガーさんの仰ることも分かりますが、商店街でニャオンさんのような店舗の入れ替えを行うのは難しいです。

 ニャオンさんの店舗はニャオンさんが管理していますが、商店街の店舗はあくまでも商店主の建物でそこに集客力のある店舗を呼ぶには、商店主に断りを入れなければなりません」


「ニャオンにはない商店街の魅力と言われても、どうやって宣伝するかに懸かっているでしょうね」


 本屋は出されたペットボトルの茶を一口飲んで提案した。


「我々は百貨店という業種上、ニャオンさんとは水と油の関係なので、商品構成や商品政策を立てて対抗しなければなりません。

 百貨店としての長所を生かすことはもちろん重要なのですが、お客様がどのような物やサービスを求めているのか、というのを見極めるのが最も重要です」


「郊外で店をやっている身としても、あまり殿様商売は出来ないなという印象です。

 今や郊外の方が書店は多いですし、本だけを売ってる訳ではなく色々なものを売って付加価値をつけている印象ですね。

 商店街がニャオンと上手くやっていくためには商店街で分断するのではなく、オール商店街で対策を練ることが大切だと思われます」


「お茶屋さんはいかがですか。商店街も問題点を洗い出して、どのようにして対策・改善・改革をするか。ニャオンさんとうまくやっていく為にはこのままでは駄目です」


「今更やり方を変えろって言うのか?! ふざけるな!」


 机をバンッと叩きお茶屋が立ち上がり、怒声は部屋いっぱいに響き渡った。


「ニャオンってなんの積もりなんだ?! あんなのにを付ける必要ないっ!!

 市役所に行ってニャオン反対運動を行うぞ!!」


「いや、それはこっちが困るんですよ! ウチみたいに商店街に店を構えているのに、ニャオンにも店を出す会社だってあるんですよ?!」


「えーい! うるさいうるさいうるさぁーい!! お前らのようなに何が分かるってんだ!」


「何だと? ちょっと長くやってるからって調子に乗ってるのはそっちじゃないか?!」


「まあ、まあ、2人とも、落ち着いて。新参とか古参とか、そのような醜い争いは何も産みません」


「本屋、あんただって郊外に店出してるじゃないか! 結局、どいつもこいつも商店街を大切にしてやるという気持ちがないんだよ。

 桑形さんだってそうだ。親父さんの時は絶対郊外なんか捻り潰してやる!と言った具合だったのに、代替わりしてからは郊外とは違ったものを、お客様のニーズをどうのとかのたまいつつも、売り上げは年々下がっていってるじゃないか。

 商店街を大事にしない店は地域にとって不要なのだ!! それを心得て商売しないと潰れるぞ?!!」


 うんうんと頷いているのは比較的高年齢の店主が目立つが、高嶋と同年代の商店主は顔をしかめたり、頭おかしいじゃないかというような反応を示した。


「よって、商店街連合が行うべきことは唯一つ。ニャオン出店反対運動を行うことだ!」


「でも、ニャオンを反対した商店街に──」


「お茶屋さんの言うとおりだ!」


「そうだ! そうだ!」


「ニャオンなんか潰しちまえ!」


 高嶋が理想としたニャオンと共存できる商店街作りは組合の人間には理解されなかった。

 このままでは、本屋が恐れていた通り商店街が分断され、ニャオンとの共存は不可能になり商店街は益々廃れていくことになるだろう。

 

 桑形百貨店は商店街抜きのニャオン対策プランを考えなければならない。

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