デカ女の小鳥ちゃんの秘密はデカデカで可愛くてたまらないのだ

ウイング神風

デカ女の小鳥ちゃんの秘密はデカデカでデカデカで可愛くてたまらないのだ

「どけどけ! この校舎は俺たちのものだ! ヒャハー!」


 ブンブン、とオートバイクを校庭で走らせると共に怒鳴りをあげるモヒカン頭をするチンピラ。

 うだるような暑さなのに、チンピラは灼熱にぴくすることもなく、元気よく校庭を荒らしていた。

 昼休みで練習していた野球部の部員たちは尻を巻いて逃げ出し。先生も怯えながら、その暴走したバイクを止めようとする。

 しかし、誰もモヒカンの頭をしたチンピラを止めることはできない。校庭でバイクを暴走しているチンピラであった。


「またかよ……」


 俺は昇降口の前に立ちながら、そう呟いた。

 我が校、私立聡明高校は偏差値は高く、関東でも10本の指に入るほどの有名校だ。

 そんな有名校を名を聞いたチンピラはよく学校を荒らしに来たのだ。

 彼ら曰く、特に理由はない。ただ荒らしたいだけだと。

 そして、うちは月に一回、チンピラに荒らされている高校だ。これで、この高校は荒らされたのは3回目だ。

 ……本当に勘弁して欲しい。うちはチンピラが来る場所ではないぞ。

 俺、吉田健は文学少年。あのモヒカンで暴走している力を持っていない。なので、こうして静観することしかできないのだ。


「止める奴いないだろうよ。これはお手上げだ」

「警察を呼ぶしかないだろ?」

「いや、永田さんに任せるしかないだろ?」


 と、生徒たちの声が耳に届く。

 誰もそのチンピラを止めようとする人はいなかった。というか、できる人はいなかったのだ。

 これは詰みだ、と思った矢先に事件は動いた。


「永田さん……頼む!」

「……わかった。ここは、私が出る」


 俺の隣を通り過ぎたのは、身長200センチもある巨人。

 彼女の体格はプロレスで鍛えられているかと思わせる体躯。髪は肩まで長く伸ばしている。顔は強面のようで、目つきが悪い女の子。眉毛は長くて、整った顔立ちだ。

 少女の残念なところを上げれば、彼女は大きすぎることだ。通常な体格を持つ俺より2倍近くもある巨人。

 名は永田小鳥。全然小さくないのに、名前が小鳥という皮肉さ。付け親の心象を想像すると、心が痛むほど真逆になって成長している。

 神様はサイコロを間違って振ったかのように、小鳥は並の人間よりも成長している。

 自然界では数万の一に与えするホルモンの異常成長の所為で小鳥の体格は巨人並みになったとそういう話はよく耳に聞く。

 そんな巨人は皇帝へと向かってチンピラに向かっていく。


「ドケドケ! 女に興味はねえよ!」


 チンピラはバイクの暴走を止めることはない。むしろ、スピードを上げて小鳥の方に突進してくる。


「永田さん、危ない!」


 女子生徒の一人がそう叫ぶ。それと同時に、バイクが小鳥の方へ向かってくる。

絶体絶命と、誰もがそう思った。

 バイクは小鳥を跳ね飛ばす……と思い気や……


「あ?」


 バイクは前へと進まない。小鳥の前に止まったのだ。

 いや、違う。小鳥は片手でバイクを止めたのだ。

 小鳥は右手を使って、バイクのヘッドライトを抑える。進行しているバイクは止まりだし、タイヤだけが砂を飛ばす。

 彼女はバイクを止めたのだ。


「おいおい! 俺のマッハ三号が止められただと!?」


 チンピラは焦り出すとともに、バイクのアクセルを回す。しかし、バイクは前にいくことなく、タイヤは校庭の砂を飛ばしているだけだった。

 小鳥はもう片手をバイクのヘットライトを掴むと……


「ふん!」


 バイクを校門まで投げ飛ばしたのだ。

 数百メートル先にもある距離を、ボールを投げるように、小鳥はバイクを投げた。


「ぎゃあああああああ!」


 ガチャン、とバイクが落下すると共にチンピラは絶叫する。

 まさか、乗っているバイクが投げ飛ばされるなんて、予想もしなかっただろう。

 けれど、実際はそうだった。誰も見誤っていない。

 

「ふう」


 パンパン、と手の汚れを払うように叩くと、小鳥は後者の方へと戻ってくる。

 すると、校舎で待機していた生徒たちは彼女の方へと一斉に向かっていく。


「すごいよ! 永田さん! バイクを投げ飛ばすなんて!」

「チンピラを追い返すなんて、憧れる〜!」

「きゃあ、私を抱いて! 小鳥様!」


 などなど、みんなの注目を浴びた。

 永田小鳥はにっこりと微笑むと、生徒たちは彼女を囲み、英雄扱いをする。

 それもそうだ。彼女は我が校の最終兵器なのだ。

 体力は怪物よりあり、この高校の不良も彼女には頭を上がらないほどの実力者だ。

 女子バレー部の最終兵器。その名も永田小鳥。

 物理怪物として知られ、この高校で逆らってはいけない人物なのだ。

 そんなチヤホヤされている小鳥を見て、俺は彼女のそばにいく。そして、彼女にしか聞こえないように囁く。


「例のものはできている。放課後、約束した場所で待っているから」


 それを聞くと、小鳥の目はギョッと吊り目になる。俺を睨むような目つきだった。

 しかし、俺は彼女に屈することなく、飄々と歩き出す。

 俺は彼女を臆することはない。だって、俺は知っているから。

 小鳥の秘密を……



 やって来た放課後。

 俺は大きな紙袋を手にして、空き教室にやってきた。

 適当な席に座ると、俺は来訪客を待つ。

 時間潰しに、スマホを取り出してSNSでもやって待機していた。

 どうやら、SNSのハッシュタグでタピオカミルクティーが話題になっている。最近閉店続きがするタピオカ屋。でも、有名なブランドはまだやっていけているところもある。

何故ならば、タピオカ屋のマーケティング戦略にコツがあるらしい。

はっきり言って、俺はタピオカミルクティーが大好きだ。甘いものは好きで仕方がない。しかし、女子高校生の列に一人並ぶのはちょっと気が引ける。

タピオカミルクティーについて考えていると、扉が大きく開いた。

目線を送ると、そこにはドアより高い美少女がいた。永田小鳥だった。

彼女は廊下をキョロキョロとしながら、何かに怯えている。どうやら、見られていないか確認しているのだった。

 小鳥を安心させるため、俺は声をかける。


「大丈夫だ。ここは誰も来ないよ」

「ほ、本当?」

「ああ。人払いはしている。俺は先生に言っているから、多分誰も見ていない」


 俺はそう伝えると、小鳥は安心したかのように長い息を吐くと部屋の中に入ってくる。

 そして、俺のところの方へと飛び込んでくる。


「ううううううう。怖かったよ〜〜〜〜バイクが突進してくるんだもん! 私は女の子なのに、どうして怖い人を追い払う役になっているのよ〜〜〜〜」


 涙を流しながら、小鳥は顔を俺の膝に置く。俺は泣いている小鳥の頭を優しく撫でてやる。

 そう。実は小鳥はとても臆病な人間なのだ。ただ、図体が大きくなっているため、人に勘違いされて期待されるようになっているだけだ。

 あのチンピラ退治も、小鳥の本意ではない。友達に背中を押されて前へ出たしかないのだ。

 平和主義で、誰とも争いたくない可愛い女の子なのだ。


「また、チンピラ来るかな? 私、怖いよ〜」

「来るんじゃないの? ここ、かなり悪名高いしな」

「私、また前に出るのいやだよ〜」


 鼻水を垂らし流すと、俺はポケットにあるティッシュを小鳥に差し出す。

 小鳥は受け取ると、びしゃびしゃにティッシュを濡らした。

 ……本当に怖かったんだな。俺も、チンピラを止める勇気はないよ。小鳥さんはすごいよ。恐怖と闘いながら、あのチンピラを止まりに行くなんて。

 俺は彼女の頭をポンポンと優しく撫でながらそう思った。

 あ、と俺は小鳥をここに呼んだ理由を思い出す。


「じゃあ、小鳥にご褒美をあげよう」

「ふえ?」


 俺は紙袋を取り出すと、彼女に差し出す。


「例のものだ。できたぞ」


 小鳥はそ紙袋を受け取ると、目をパチパチとしながら紙袋の中身を見ようとする。


「これ……開けていい?」

「もちろん。お前のために作ったオーダーメイドだ」


 俺はそう答えると、小鳥は紙袋を丁寧に開ける。

 中身を見ると、小鳥は俺の方に顔を向ける。


「ありがとう〜。これが欲しかったの〜」


 小鳥は紙袋の中身を取り出す。

 それは、ピンクと黒模様とシャツと真っ黒で可愛らしいフリルなスカート。ゴシックかパンクをイメージさせるような服。

 これは渋谷で流行している地雷系ファッションの服装だ。

 小鳥のサイズは市販で販売されていないため、彼女のサイズに合わせて裁縫された特別の服になっている。


「試着していい?」

「ああ。いいぞ。ここのトイレなら誰も使っていないから、試着室代わりに使えるぞ」


 俺はそう助言すると、彼女はその服を持ち空き教室から走り去った。

 しばらくすると、再び空き教室が開かれる。

 現れたのは、小鳥だった。

 しかし、さっきの登場とは全く違う姿でやってくる。

 小鳥は長い身長の上にピンクと黒模様のシャツ。ゴシックを連想させるような服に、黒色模様な短いスカート。黒い長い靴下を着用している。

 これは間違いなく、地雷系ファッションの服だった。

 あまりにも彼女と合いすぎて、俺は言葉を失う。


「……どうかな? 健くん」


 小鳥に名前を呼ばれたので、俺はハッと我に帰る。

 自分が思っている感想をそのまま言葉に乗せて放つ。


「似合っているよ。黒とピンクのシャツと黒い短いスカートは相性いいね。ここで、ネクレスとかアクセサリーを身につくと、もっと地雷系に見えるよ」

「へへへ。ありがとう健くん!」


 小鳥は嬉しそうにくるくると体を翻しながら、ひらひらとふ踊るスカートを堪能した。

 俺は彼女が喜ぶ姿を見て、嬉しくなる。

 人のためにやると、こうも幸福感に浸るんだな、と思った。

……それはさておき、実はこの物語は俺と小鳥の秘密の物語だ。

 そんな地雷系ファッション好きで、可愛いものが大好きな小鳥との出会いは一週間前のこと。

 きっかけは、先週の出来こと。秘密を知ってしまった俺は、彼女の協力者になったのだ。



 時は遡り、一ヶ月前の土曜日。6月の暑さは異常に暑苦しかった。温暖化問題が活性する中、俺は兄貴が経営するファッション洋服店Varietyの店番をしていたところから始まる。


「誰も来ないな」

「そうねえ。客いないわねえ」


 オカマ言葉で語ってくる、兄貴。

 この店のオーナーにして、服を裁縫できる実力を持つオカマ、俺の自慢の兄貴は退屈するようにぼやく。

 店内は清掃が行き届き、女性向けの洋服はかなり豊富している。

特に、地雷系ファッションのような、ゴシックロリータの服を取り揃えている店だ。渋谷らしいといえば渋谷らしい店なのに、客足が悪かった。

 外を覗くと、そこには若者は活き活きとして街を歩いている。なのに、誰もこの店には入って来ようとしない。

 それはこの店の風味が悪いのだろうか? するとも宣伝力が足りていないのか? あるいは店外の装飾が目立たないのか? 

 要因をいくつも分析しながら、俺はビジネスシートの日課を書き出す。

 この店がオープンしたのは先日の金曜日のこと。

 最初は渋谷で洋服店を開けることにウハウハになった兄貴であったが、現実はあまりにも残酷だった。

 まさか、オープン二日目なのに、客足はゼロというのは予想をしていなかった。

 このままでは店が潰れてしまうのではないかと、俺は心配にもなる。


「そうだ。タピオカ買って来て頂戴」

「ええ? なんでいきなりなんだよ」

「だって、ワタシ飲みたくなってきちゃったんだもん」

「自分で行けばいいだろうが」

「嫌よ。最初の客はワタシが接待すると決まっているから、アンタが買ってきて頂戴」

「ちぇ」


 俺は舌打ちをし、椅子から立ち上がる。

 外の灼熱の中を歩くのはちょっと気が引けるが、兄貴のためだ。ここは我慢をして、タピオカ買って来てやらないと行けない。

 それに、頑張って店を開いた兄貴に小さなご褒美を与えてもいいかもしれないと思ったのだ。

 俺はその重い足を動かせて、店を出た。

 休日の昼の渋谷は人が多かった。

 俺は人波に飲まれるように動き、駅前にある渋谷の最後のタピオカ店へと向かった。

 行列が作られている中、俺は列に並ぶ。

 なんと、本日は期間限定のタピオカチャイミルクティーが数量限定で販売されているのではないか。

 タピオカ好きな俺にとってはこれは買わないといけない。

 俺はどきどきとしながら並ぶ。

 やがて俺の番になり、俺は期間限定のメニューを二つ頼む。


「お客様で最後になります」


 ラッキー。俺の番で最後だなんて、これはついているぜ!

 と、俺は心の中でガッツポーズを取り、会計を済ませる。

 しかし、なぜか背筋に寒気が走る。この寒くて、恐怖ら超えるすごい圧を感じた。

 はっと、振り向くとそこには巨大なメロンだった。それが胸だと気づくのに数秒間かかる。そして、俺は上を見上げる。

 そこには尻目を立たせて、こちらを睨んでいる巨人がいた。

 俺はこの巨人の正体を知っている。彼女は、俺の同じ高校に通っている少女。名前は永田小鳥だ。


「そ、それ最後のやつ?」


 小鳥は震えた声で俺に尋ねてくる。

 俺は学校の噂が脳裏を過ぎる。

小鳥を怒らせた者は投げ飛ばされ、チンピラを退治した化け物だ。

そんな噂に俺は恐怖する。

でも、これが最後で事実を彼女に伝えなければならない。なので、俺は小鳥の問いを答えるように顔だけ縦に振る。


「……う」


 すると、小鳥の身体は震え出す。

 俺は目を瞑り、投げ飛ばされる覚悟をする。

 短い人生だ。それもまさか、小鳥という巨人を怒らせるとは思いも知らなかった。

 タピオカチャイミルクティーで命を落とすなんて、誰が予想したのか。これも神様がサイコロを振った結果なのだろうか、と俺は観念する。

 しかし、数秒経っても何も起こらなかったため、俺は目を開ける。

 そして、俺が目にしたのは……


「うわああああああ。タピオカチャイミルクティー飲みたかったのに〜」


 号泣する小鳥だった。

 小鳥は両手を自分の目を擦るように泣いていた。

 まさか、あの巨人と恐れられている小鳥がガチ泣きしている。


「おい。デカ女が泣いているぞ」

「あれ? どうしたのかな?」

「うわ、男最低。女を泣かせるなんて」


 周囲の声を聞こえると俺はハッとなる。

自分が置かれている状況のヤバさを理解する。まずい。俺が小鳥を泣かせたかのようになっている。

なので、俺は片手はタピオカの紙袋を取り、もう片方は小鳥の手を取る。


「永田さんこっちに」

「ふえええええ」


 泣きながら小鳥は俺に誘導されたまま移動する。

 まさか、人生初めて女子を泣かせる人があの巨人の小鳥だなんて、思いも知らなかった。

 俺は彼女の手を引っ張り、移動させる。



 タピオカ店から移動して、俺は彼女を兄貴の洋服店に連れてきたのだ。ここなら、誰にも見られずに済む。

 泣いている彼女を椅子に座らせ、俺はハンカチを小鳥に差し出す。


「永田さん、これハンカチ」

「くすん。ありがとう」


 小鳥は俺のハンカチを受け取ると、目を擦り出す。

 ハンカチはびしょびしょに濡れてしまった。これは彼女にあげた方がいいな。

 そんな彼女が泣いている矢先に兄貴は店裏から現れる。


「あら、可愛い女の子じゃない。健、アンタ彼女を泣かせたの?」

「それが、そうかもしれないし、違うかもしれない」

「どう言うこと?」


 兄貴は首をかしげる。

 まあ、説明が面倒なので、俺は兄貴を差し置いて小鳥の方へと近づく。


「永田さん。大丈夫?」

「う、うん。さっきはごめんなさい。取り乱しちゃって。タピオカチャイミルクティーが完売したショックで泣いちゃったの」


 よほど、飲めなかったことにショックしたらしい。

 俺は罪悪感を抱いたため、自分用のタピオカチャイミルクティーを小鳥に差し出す。


「よかったら、これあげるよ」

「ふえ? いいの?」

「うん。俺、甘いの苦手だから」

 

 嘘である。俺もこのタピオカチャイミルクティーを楽しみにしていた。しかし、彼女があまりにも可哀想だから、ここは紳士として対応するのが正解だと思った。

 

「じゃあ、いただきます」

「おう」


 小鳥はタピオカチャイミルクティーをストロで飲み込む。

 すると、小鳥は嬉しそうにタピオカを飲んでいる。

 その満面な笑みは普段の学校では見られない表情は優しく、思わず俺は息を忘れてしまうくらい可愛く、ドキッとしてしまったのだ。


「アンタも優しい面もあるのね」

「まあな。泣いている女の子を放って置く訳にもいかないしな」

「それができるのが素敵なのよ」


 兄貴はウインクして来る。

 俺はそれを見ると改めて恥ずかしくなり、話題を変えるように小鳥に声をかける。


「永田さん。タピオカ好きなんだね」

「うん! 大好き! でも、学校では変なイメージをつけられたから、友達と一緒の時は飲めないのよ」

「ははは。そうだね。永田さん、学校では人気者だからね」

「そうなのよ〜わたしだって、可愛いものが好きなのに、みんなひどいよ〜。あ、これはみんなに内緒ね」

「大変だね。永田さんは……」


 学校では不良も恐れる巨人。泣く子も黙る、そう言う存在として認知されている。

 そんな大きな体格の所為で、みんな彼女を勘違いしてしまっているんだろう。不良退治の事件もあるし。

 可愛いもの好きだと知ったら、みんな彼女のことを失望するだろう。

 俺はタピっている小鳥に声を質問する。


「で、永田さんはどうして渋谷に? タピオカを飲みに来たの?」

「そうだ。わたし、服を探しているの」

「服?」

「うん。こんな感じの服!」


 小鳥はそういうと、スマホを取り出す。

 そこにはゴテゴテとしたピンク色と黒模様のシャツと黒いレースのスカートを着用している女の子。アクセサリーはリボンやチョーカーがあった。これはまさに、現代流行している地雷系女のファッションだ。


「渋谷にいい店ないかな〜って探して見たんだけど、わたしの合うサイズがなくて」

「ん〜そうだね。流石に永田さんにぴったりなサイズは市販では売っていないね。うちにもないよね? 兄貴」

「そうね〜うちはかなり取り揃えているけど。流石にあなたのサイズはうちにも置いていないわ」


 兄貴もその服を見て、事実を伝えるろと、小鳥はしょんぼりとした表情になる。

 残念ながら身長2メートルと大きな図体をしている女の子のサイズは市販では販売していない。どんなに大きくても、170センチ程度の大きさしか販売されていないのだろう。

 そこで、俺は閃く。市販で売っていなければ作ればいいじゃないか。


「そうだ! 兄貴。この服を裁縫してよ!」

「え? 作るの?」

「作れない?」

「バカを言わないで頂戴。ワタシを誰だと思っているの? 日本一かわいい服デザイナーよ? 裁縫できない服はないわ!」


 自称、日本一かわいいデザイナー、兄貴はにっと歯を見せる。

 さすがは服デザイナー学校の優等生だけある。新卒だけど、腕前はプロ並みだ。俺も兄貴の腕を信じている。

 状況をわかっていない小鳥は目をパチパチとしする。


「え? ここって洋服を販売する店じゃないの?」

「実はオーダーメイドも受けているんだ。特に市販のサイズに合わない人や、市販においていない服をオーダーメイドで作ることもあるんだよ」

「へえ。そうなんだ〜すごいね。この洋服店」


 小鳥は感嘆な声をあげていると、兄貴はメジャーを持ってくる。


「じゃあ、試着室で採寸するわよ〜」

「あ、はい」


 兄貴に言われたまま、小鳥は試着室へと移動する。

 数分後。彼女は戻ってくる。採寸した情報を手元の紙に入れている。


「生地を集めて裁縫すれば、一週間はかかるわ」

「ありがとうございます。お代はいくらになるのでしょうか? オーダーメイドの服はかなり高額だと思います」


 兄貴はそれを聞くと、ふむ、と手を顎に当てながら考える。

 確かに生地とか作業費とか諸々かかる費用がある。素人の俺でも高いことはわかる。

軽く見積もっても、最低諭吉三枚分はかかるのだろう。あまりにも高額で俺はちょっと気が引けてしまう。

 同級生にこんな高額を請求するのはかわいそうな気がする。


「あ〜お代は、そうねえ。うちの看板娘になって頂戴」

「ふえ? 看板娘ですか?」


 小鳥は情けない声をあげる。

 看板娘。それは店の宣伝のために使われる用語だ。洋服店であれば、店の服を着用しモデルとして活用する。場合によってはSNSに投稿し、宣伝してもらうこともある。

 それの説明を加えるように、兄貴が自分の意図を放つ。


「そうそう。あなたにはワタシがデザインした服を着てもらって、うちのモデルになってもらうわ」

「わわわ。わたしでいいのですか?」

「ええ。もちろんよ。高身長の女子が可愛くオシャレしたら、他の人もあなたを真似て可愛くするだろうしね」


 ウインクしながら答える兄貴だった。

 さすがは俺の兄貴だ。予想もしていない、鋭い観点を持っている。

 確かに、小鳥は高身長で大きな体躯がある。そんな人が可愛くオシャレをしたら、他の女の子も気楽に真似できる。

 特に地雷系ファッションを扱っているうちには効果的だ。 

 地雷系を始めようとする初心者にも気安く着てみられる。


「わ、わかりました。よろしくお願いします〜」


 小鳥は頭をぺこりと下げる。

 兄貴も腕が鳴るわ、とどこか嬉しそうにする。仕事がもらえるのはいいことだ。それがなんであれ、暇よりはいい。


「ああ。そうだ。服ができたら、俺が小鳥さんに届けるよ。旧校舎の2階の一番端の空き教室なら誰にも見られないし済むよ」

「本当! ありがとう! 吉田くん」


 小鳥は笑みをこぼした顔になる。

 その表情は普段の学校では見られない姿だ。

 そこで、俺は理解する。彼女も普通の女の子だ。かわいいものと趣味が好きであって、どこにでも普通を憧れる夢見る少女。

 しかし、強面とそのデカい図体であるため人から勘違いされやすいと。

 あのチンピラ退治事件も、彼女の独断ではなく、周囲から期待を寄せられて止めに行ったのだ。

 本当に可哀想な女の子だな。と、俺はそう思った。


「吉田くんと呼ぶのははよしてくれ。兄貴も同じ苗字の吉田だから、俺のことは、名前の健でいいよ」

「じゃあ、わたしのことは小鳥でいいよ〜」

「そうか。よろしくな小鳥」

「うん! 健くん」


 これが、俺と小鳥の出会いだった。

 小鳥の秘密を知った俺はそれを学校に言いふらすような真似をしなかった。

 時々、小鳥が新しい洋服を所望することもある。

 俺は兄貴に彼女の所望を伝え、兄貴が裁縫した洋服を小鳥に渡す。密売のようなことをしているのだ。

 休日には小鳥はうちに来ては、地雷系ファッションの服を着用し写真を撮らせてもらう。

 たまにSNSに呟き、話題を呼ぶこともある。

 その効果もあったのか、兄貴の地雷系ファッション洋服店は繁盛し、若い女子の人気を獲得できた。

 今渋谷に行けば、女子の10人に1人は地雷系ファッションをしている。

 ネット界隈では、小鳥は有名になっていったのだ。



「わたし、コスプレしてみたい」


 そんなある日の7月の日。チンピラ退治から一週間前の出来こと。

 小鳥は大きく目を輝かせてこちらに宣言する。

 パック牛乳を手にした俺は吸うのをやめて、小鳥の驚きの宣言に共感する。


「いいね。それ。でも、服装とか決まったの?」

「うん! 最近流行っている、アニメ『聖女様は物理で殴る』のヒロイン、アインちゃんになってみたい」


 聖女様は物理で殴る、原作は小説投稿サイトで連載されている長編作品だ。

 内容はいかにもシンプルで、聖女様が物理で魔物を倒していく、薄っぺらい内容だった。しかし、描写とコメディー部分が強く、どの層でも受け入れらっていった。

そして、今期の深夜テレビでも放送されている人気作品だ。

俺も毎週そのアニメを欠かさずにみている。本当に面白いアニメだった。

 そして、アインちゃんの服装は聖女服だ。ぴちぴちな聖女の服。どこかの教会のシスターが着ているような黒い服なのだ。黒いヴェールに黒い修道服。可愛らしい格好だったのだ。

 

「アインちゃんの服か。それ、兄貴に頼んでみるよ。きっと、いい服ができると思う」

「ふふふ。楽しみ」


 小鳥はハニカムように笑いながら、スマホを眺めている。

 普通の女の子になりたい小鳥。

 今回はコスプレイベントに挑戦するという新しい心気味があった。

 共犯者として、俺は彼女の願いを叶えたい。だって、小鳥は普通の女の子だ。強面ではあるが、かわいい女の子。かわいいものが好きで、地雷系ファッションが好きでどこにでもいる女の子だ。

 兄貴は言ってた。女の子の願いを叶えるのが、男の子の使命。

 オカマである兄貴はその哲学に従って、今の洋服店、Valityを開店したのだ。


「ねえ。健くん」

「ん? どうした? 小鳥」

「今年のコミケ。楽しみだね」


 楽しそうに話す小鳥。

 だから、俺は思わず目を細めて答える。


「ああ。そうだな」 

 

 今年のコミケは嵐が来る。

 何せ、デカ女の小鳥がコスプレするのだからだ。



 コミケ当日。

 8月中旬はうだるような暑さに俺はせっせとキャリアケースを引っ張りながら東京ビックサイト駅に降りる。

 小鳥とは会場前にあるコンビニに待ち合わせしている。

 開催時間の2時間前に来ている。そうじゃないと、着替え室が人の密集になり、着替得られる頃には昼過ぎになってしまう。

 俺は待ち合わせ場所に行くと、高身長の小鳥が待っていた。

 小鳥の周りには人がチラチラとみている。

 それもそうだろう。高身長な彼女が立っていればかなり目立つからだ。しかも、彼女は地雷系ファッションの格好をしている。コスプレだとか、勘違いされてしまったのだろう。

 そんな人だかりを無視して、俺は小鳥のところに向かう。

 小鳥はにぱっと笑顔になり俺のところへと小走りして来る。


「あ、おはよう! 健くん」

「おはよう。小鳥。元気だね」 

「ああ。コミケは戦争だからな」


 ……知らんけど。

 ただ、ネットの知識でそう言いたかっただけだ。

 とにかく俺と小鳥は移動しながら、会話をする。

 先に会場の中に入り、コスプレの着替え室前までやってくる俺たち。


「コスプレ参加者は着替え室で着替えないと行けないルールだから、小鳥も着替えてきてね。俺はここで待っているから」

「うん! ありがとう!」


テクテクと、キャリーケースを引っ張りながら小走りと着替え室に向かっていく小鳥だった。

俺というと、今日のために準備していたカメラを手にとる。

使い方はあまりよくわからないが、手振れ補佐があり、最新型のカメラであると兄貴から渡された。

 小鳥のコスプレ活動も看板娘の一環だ。

 小鳥がコスプレして、俺は写真を撮り、SNSや店の前の看板で宣伝をする。

 そうすれば、地雷系ファッションだけじゃなく、コスプレのオーダーメイトも受けていることをアピールするためだった。

 まさに一石二鳥のコスプレ活動だ。

 しばらく待つと、小鳥が戻って来た。


「お待たせ! 健くん」


 小鳥はアインちゃんの格好、聖女の格好をしていた。

 黒いヴェールに黒い修道服。武器を持たず、ただの拳ひとつが唯一の武器であり、拳に鉄拳制裁と書かれた手袋を着用している。

 高身長の彼女にぴったりな姿だ。


「うん。似合っているよ。小鳥」

「えへへ。嬉しいな。健くんがそう言ってくれるの」


 俺は小鳥を褒めると、彼女は顔を赤らませる。

 やっぱり小鳥は普通の女の子だ。かわいい格好が好きだし、褒められるのも好きだった。

 神様のいたずら一つで、彼女の図体は大きくなっただけだ。でも、幸い、心を変えることはできない。

 彼女の心はピュアな女の子だ。

 

「じゃあ、コスプレエリアに行こうか」

「うん!」


 俺たちは着替え室エリアから移動し、コスプレエリアの屋上に向かった。

 その場に行くと、さまざまなコスプレした人が場所を確保していた。有名コスプレヤーから無名のコスプレヤーまでさまざまな人がそこにいたのだ。

 俺たちも場所を取ろうと、空いているスペースを確保する。

そこで、ヒソヒソとカメコからの声が俺の耳に届く。


「誰だ? あんなかわいい子。てか、デカ!」

「む、私のデータベースに高身長の子はいませんよこれぞ、デカ女ブームですか?」

「新手の新人か? 馬鹿な! アインちゃんの格好だと?」

「すげえ! デカ女だ! 初めて見たぜ!」


 と、俺たちは自然に格好の的になっていたのだ。

 確かに、デカ女がコスプレエリアにいたら、的になるのは決まっている。

 そんな声を無視し、俺は小鳥に声をかける。


「小鳥。今から撮影するよ」

「え〜心の準備ができていないよ〜」

「心の準備する時間はないよ。もうそろそろ、コミケが開催するから」


 俺はそう通知すると、コミケ開催のブザーが流れる。

 みんなは拍手を送ると、事態が動き始める。下で並んでいる列は動き出し、コミケ会場の中は賑わっていく。

コミックマーケットが正式に開催したのだ。


「はい。ポーズ」


 パシャ、と俺はシャッターを切る。

 小鳥が拳を差し出すポーズをする。原作通りのポーズだ。

 かわいい顔をしている彼女にはピッタリな表情だ。

 これは、店の宣伝に使えるな、と思った。

すると、俺の背後から一人の男がこちらにやって来た。


「あ、あの〜写真。よろしいですか?」


 カメコだ。

 デカ女の小鳥を撮影しようとしたのだ。


「え、ええ。私でいいのですか?」

「は、はい。デカ女はブームですので。うひひ」


 ちょっと気持ち悪い笑い方をするが、悪意ではないことを理解した俺は小鳥に尋ねる。


「どうする小鳥? 写真撮っていい?」

「じゃ、じゃあ、お願いします」

「こ、こちらこそ。お願いします。うひひ」


 小鳥はぺこりと頭を下げる。

 カメコに写真を撮る許可が降りたので、俺はカメラフレームの邪魔にならないように、カメコと小鳥の間から離れる。

 すると、他のカメコも気付き走ってくる。


「おい。デカ女撮ろうぜ!」

「これは新人の幕開けだ! 撮らないと!」

「うお。出遅れる!」


一瞬にして、小鳥を撮るためのカメコが集まってきた。サッとみて30人ほどの人が集まって来た。

まずい、カメコで混雑になってしまった。これは列を形成しないといけない。


「はいはい。彼女を撮りたい人はここ並んで!」


 俺が動く前にコミケのスタッフさんが動いてくれた。最後尾という看板をカメコの最後尾に渡し、列を形成してくれる。

 さすがはコミケのスタッフさんだ。優秀かつ判断が早い。パッと見て、どのところに人の配置が必要かわかってくれる。

 俺はコミケのスタッフに一礼をして、小鳥が撮影会を見守った。

 小鳥は満面な笑みを浮かべながらポーズをとり、楽しそうにしている。

 俺は小鳥が楽しそうにしている姿を見て、一安心する。

 デカ女である小鳥の撮影会は嫌な思いをするんじゃないかと、最初はそう思っていたが、それは杞憂で終わりそうだ。

 


「ありがとうございました」

 

 最後のカメコの撮影が終わったのは午後の2時過ぎだ。

 10時からぶっ通して撮影している小鳥はぐったりとしていた。

 そんな疲れ切っている小鳥に俺はスポーツドリンクを手渡す。


「お疲れ、小鳥」

「ありがと〜健くん」


 小鳥は礼をいうと、ゴクゴクと飲みだす。汗はびっしょりだった。

 流石に炎天下で4時間も立っていたら、汗も出るはずだ。


「どうする小鳥? まだ、やる?」

「そうだね……」

「あ、永田さん!?」


 俺と小鳥が会話をしていると、不意に背後から声が聞こえた。

 振り向くと、そこには三つ編みをした眼鏡女子がびっくりした表情で立っている。

 確か、同じ高校の高橋愛だった。漫画研究部の部長にして、カリスマの一人だった気がする。愛がこんなイベントにいるのに不思議ではない。

 が、これはまずい事態だ。

 愛は強張った表情で、こちらを見ていた。


「な、永田さんがコスプレだなんて。しかも、あのアインの格好するなんて絶対にありえないわ。だって、永田さんはみんなの憧れ、泣く子も黙る、うちの用心棒よ! そんな鬼がかわいい格好しているはずないわ!」

「え?」


 怒鳴る愛に小鳥はしゅんと落ち込む。

 これはきつい。自分がかわいいものが好きであることが学校の人に隠していたところが、バレてしまった。

 このままでは、小鳥の面子が潰れてしまうのだ。

 俺は、小鳥に目をやる。

 彼女は小刻みに震えていた。知り合いに見られたことと、受けいられないことにショックを受けているのだろう。

 考えろ、吉田健。ここを打開策はあるはずだ。

 仕方がない。これを使うしかない。


「なあ、愛」

「何よ? 吉田だっけ?」

「実は、俺、永田を脅しているんだ」

「「え?」」


 二人は声を合わせるように唖然な声を上げる。二人とも素っ頓狂になる。その言葉の意味を理解できないようであった。

 小鳥の面子は俺にかかっている。なんとしても、彼女を守らないといけない。


「実は俺、永田の秘密を知っている。だから、彼女を脅してかわいい洋服とか着させているんだ」

 

 俺はスマホを取り出し、洋服店のSNSアカウントを見せる。

 そこには看板娘の小鳥が地雷系ファッションしている投稿写真がいくつも投稿されていた。

 

「弱みを知った俺は彼女を脅して、コミケにコスプレさせているんだ」

「最低だね。吉田くん」


 愛はゴミムシを見るような表情を浮かべると逃げるように走り去る。

 明日になれば、俺は悪役として知られて罵倒されるだろう。でも、これでいい。これで小鳥の面子は救われたのだ。

 ……明日のことを考えると胃が痛くなる。

 

「……健くん」

「ごめんな。小鳥。勝手にこんなことをしてさ」


 俺は苦笑いを浮かべながら答える。

 小鳥はうるうると表情を浮かべた。 

 小鳥は俺が悪役買った行動を理解したのか、罪悪感を抱いているようだった。

 でも、俺は気にしていない。学校で何か言われるかもしれないが、俺は隠キャだ。友達はいない。何を言われても、今を生きていける。

 

「ありがとう! 健くん! 大好きだよ!」


 ちゅ、と小鳥は俺のところに来て、額にキスをした。

 いきなりなんで、俺は少し混乱する。

 小鳥は赤面を作りながら、恥ずかしい様子で答える。

 

「えへへ。キスしちゃった」

「……帰ろうか」

「うん!」

 

 こうして、俺たちのコミケは無事終わった。

 その日から小鳥はコスプレ界隈に衝撃を与えた。デカ女でも、かわいいコスプレをしているとを世に知らしめた。デカ女でもかわいいだぞ、とのこと。

 そして、俺というとやばい未来が待っている。

 学校では白い目で見られるようになる。

 でも、俺と小鳥の関係はいつも通りだ。

 密売関係は続き、それは楽しい高校生活ライフでもある。

 俺は素晴らしい人生を送っているのだ。

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デカ女の小鳥ちゃんの秘密はデカデカで可愛くてたまらないのだ ウイング神風 @WimgKamikaze

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