第8話 公称170センチの真実と謙虚な勝者
160㎝未満の男たちの同好会「低身長男同盟」のメンバーたちは今週も居酒屋で集まり、自分たちの小さな世界で語り合っていた。
その雰囲気は和やかで、彼らにとってこの場は常に見下ろされる自分たちが同じ目線で語り合える仲間に囲まれる、またとない聖域だった。
しかしこの日、そんな聖域に外部から招かれざる闖入者が現れることとなった。
「いやあ、俺は身長が170㎝あってよかったなあ」
その声が彼らのテーブルに届いた瞬間、空気が一瞬固まる。
言ったのは高梨和義(30歳)という男。
低身長男同盟とは全く関係がない全くの部外者だ。
パッと見中肉中背で、高梨は自分では身長が公称170㎝を誇っていた。
彼はこの居酒屋に一人で飲みに来て、酔ったはずみで低身長の男ばかりが集うこのテーブルを見てからかいに来たのである。
そしてメンバーたちが飲んでいる横で、わざとらしくその言葉を口にしたのだ。
彼は「170㎝」という数字に異常なまでのこだわりを持ち、その優越感を誇示しようとしていた。
「やっぱり、男は170㎝くらいないと話にならないよな!俺は170㎝でホントよかったよ!」高梨は続けて聞かせるように声を張り上げた。
そのわざとらしい強調に、低身長男同盟のメンバーたちは顔を見合わせ、静かに微笑を浮かべたが、特に反応することなく飲み続けた。
しかし、高梨はその無反応さに苛立ち、さらに調子に乗った。
「お前ら、その大きさでよく飲みに来れるな?老けた子供と間違われねえか?俺は170㎝あるから、そんな心配はねえけどな」と、彼はさらに挑発するように言った。
一方、低身長男同盟の五島会長(155㎝)とメンバーたちはそんな高梨を冷静に観察していた。
実は、彼らはメジャーを使わなくても相手の身長を目視でほぼ正確に測ることができる特技を持っている。
そして、彼らは既に高梨の身長が170センチ未満であることを見抜いていた。
そして、居酒屋の他の客の一人、40歳くらいの男ががそのやり取りに気づき、割り込んできた。
「おい、兄ちゃん、俺は169センチだけど、アンタ俺より小さくね?」その40男は冷静に高梨を見下ろしながら言った。
その瞬間、店内が静まり返り、次の瞬間、低身長男同盟のメンバーたちの一人、矢萩(159㎝)が笑いながら、カバンの中からメジャーを取り出した。
「じゃあ、ここで真実を確かめてみようか?」
高梨は一気に動揺し始めた。
なんでこいつこんなとこにメジャー持ってんだ?
「いやいや、俺はもう測らなくてもいいだろう。170センチって分かってるんだからさ…」と、焦りながら言い訳を続ける。
しかし、周囲の客たちもこのやり取りに興味を持ち始め、「測ってみろよ!170センチだって言うなら、証明してみろ!」と声が飛んだ。
逃げ場がなくなった高梨は、渋々測定に応じることに。
低身長男同盟のメンバーたちは、自分たちの身長対決のルールに従い、三人が代わる代わる高梨の身長をメジャーで測った。
最初の測定結果は「167.5センチ」。次に測ると「168.9センチ」。
そして最後に測った結果は「169.0センチ」。
その結果が発表されると、居酒屋は爆笑に包まれる。
高梨は顔を真っ赤にし、「こんなのはおかしい!俺は170センチだって健康診断では判定されてるんだ!」と必死に抗議したが、誰も真剣に受け止めようとはしなかった。
「いやいや、兄ちゃん、169センチでも十分だろ?でも170センチはちょっと盛りすぎだぜ」と、割り込んできた男が笑いながら言う。
その流れで、その40男の身長も測ることになった。
彼の公称169センチという身長が実際にどれくらいか、みんなが興味を持ったのだ。
結果、彼の身長は「170.2センチ」「171センチ」「170.5センチ」と測定された。
店内は再び驚きの声が上がったが、その40男は特にその結果を誇ることもなく、謙虚に微笑む。
「まあ、俺はただの普通の男さ。数字は数字だよ」と、淡々とした態度で答えた。
その謙虚な姿勢に、低身長男同盟のメンバーたちは感心し、彼を称賛する。
40男のように、数字に囚われず、自分の身長を受け入れて生きる姿勢に、彼らもまた刺激を受けたのだった。
一方、高梨はズタズタにされたプライドを抱えながら、何も言えずに居酒屋を後にするしかなかった。
低身長男同盟のメンバーたちは、この滑稽な対決を通じて、自分たちの身長に対する考え方を改めて確認し合い、再び和やかな雰囲気に戻った。
彼らは、自分たちの身長を誇りに思いながら、仲間との絆を深める夜を楽しんだ。
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