第3話 「何が親睦会だ!」~身長155センチの大学生の独白~
俺は東京都立大学人文社会学部三年生の高橋衛。
一応男だけど、身長155センチで女の平均以下の真正低身長だ。
昔から「コロポックル」だの「座敷童」だのからかわれてきたから、この身長を苦にしないわけにはいかない。
誰か同じ悩みを持つ低身長の仲間が集う場でもないか、って思ってMeetupで探してみたらこの会にヒットしたんだ。
その名も「アンダー160センチの男の集い」って謳い文句だったから、まさに呼ばれている気すらしたよ。
最初は親睦を深めるために来たんだ。
共通の悩みを持つ仲間と交流して、笑い合って、勇気づけ合う――そんなイメージでね。
でもね、現実はそんなに甘くなかった。
まずこの会の正式名称は「アンダー160センチの男の集い」なんかじゃなくて、「低身長男同盟」。
どこと戦う気なんだよ?敵対組織でもいるのかよ。
それと、この会のメンバーのおっさんたち。
自分より1センチでも低い奴に対して、底なしの優越感と侮蔑を見せるんだよ。
最初の自己紹介の時、名前と都立大学に通ってる大学生だってことと、身長を言わされたんだが、155センチって正直に言ったら何人かが鼻で笑いやがった。
そして155センチってのを聞いてこの「低身長男同盟」代表の五島っておっさんが「オレと勝負だ」とか言って出てきたんだけど、手に巻き尺持ってるんだぜ。
それで身長を測ろうってんだ。
あんまりにも大人げないと思ったけど、仕方なく付き合って身長を測らせてやったら、五島のおっさんは155.2センチで俺154.9センチ。
たったそれだけのことなのに五島は「155センチじゃないじゃないか。サバ読んだな?まあ気持ちは分かるけどね」とか露骨に勝ち誇った顔するんだからちょっとムカついた。
「低身長男同盟」の中で特に偉そうなのは矢萩ってオヤジと斎藤ってオヤジだ。
この中で一二を争うくらい背が高いからって肩で風を切って歩いてやがる。
他のメンバーも敬語使ったり甘やかすもんだからますますつけあがっているんだ。
初対面の時、オレのことを「小さいな」とか見下ろすようなこと言ってたけどお前らだって世間一般的にはチビなんだよ。
それで毎回「オレの方がデカイ」とか大声出して張り合いやがるんだからみっともないったらありゃしない。
親睦会とか言ってっけど、何の冗談だ。
最初はショックだった。
俺ってこんなに小さいのかって。
まさか仲間だと思ってたアンダー160センチの人たちにこんなことされるのかって。
でもね、今思えばそんなことどうでもいいんだ。
大事なのは身長じゃない。
だけどさ、こいつらってどうしてそんなに身長にこだわるんだろう?
人間の価値って身長だけじゃないよね?
だったら何でこんなにも自分より低い奴を見下すんだろう?
俺、これまで自分より低い人を見下したことなんてなかった。
でもこの会に入ってから、なんだか自分でも意識してしまうんだ。
その優越感って何なの?
いったい何が欲しいんだろう?
でもさ、でもさ、もういいんだ。
この会は俺にとってはもう終わりだ。
ここにいる奴らの小さな心の闇に付き合ってる場合じゃない。
もう八回も参加しちゃったけど。
俺はもっと大きな世界を見たい。
身長なんてどうでもいい。
俺がやりたいこと、成し遂げたいこと、それが大事なんだ。
この「チビの会」に未練なんてない。
もっと大きな未来が待ってる。
だから今、この場所を後にする。
俺の心は自由だ。
そして、俺の未来も、きっと――高いんだ。
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