第3話『チュートリアル~倉庫~』
「次の説明に移ろう。ほれ、
ARどこいった? めんどくさくなったんだろうな。そんな事を考えながら、画面にある家のアイコンをタッチする。
一瞬で景色が変わり、わたしはマイルームの玄関先に立っていた。
なんとなく予想が付いてたけれど、やはりマイルームに戻る為のアイコンだったみたいだ。
「先にも言ったが、この部屋のいつでも出入り自由じゃ。そして其方が招かぬ限り、我以外、何人も入ることは叶わぬ。人の心は弱い。快適で安全な部屋に閉じこもっておれば、あっというまに豚
「豚ニート……」
「
「孤独死……」
なんて恐ろしい事を言うんだこの人は。人なのかどうかは知らんけど。
「では次じゃ。この
言われた通りに押す。
808/10000
資金0
武器0
防具0
道具1
衣服312
装飾188
家具28
素材73
鉱物59
食材147
見慣れた表示。アイテム倉庫だ。
倉庫容量がめっちゃ開いてる! やったぁ! OSGでは結構カツカツだったからありがたい。
うんうん。見事に服や装飾といったおしゃれ関連のアイテムばかりだね!
ってまてや! 資金、武器、防具が0!? 道具が1ってなんで?
資金は3億ルワー(OSGでの貨幣単位)あったはずだよ!? 武器も防具も倉庫を圧迫するくらい溜まってた。これは、ドロップ品を整理しないで放り込んでただけだけど……道具とはイベントアイテムや、回復薬なんかのことだ。で? この1って何? クラン・タグ……OSGでわたしが所属していたクランの登録証だ。それ以外は全て消えている。こりゃ、倉庫の空きがあるのも当然だ。
「お金と装備が無いってどういうこと?」
「あー、それは仕方ないのじゃ。あの世界、電子
困るのじゃはこっちなのじゃ!
「武器や防具が消えてるのは?」
「武具の類は、あの世界にしかない素材が使われている上に、我の世界とは異なる理で機能しておったから、持ち込むことは出来んかった。こっちに持ってこれるのは、我の世界にもあるもの。再現できるものに限られるのじゃよ。例えば……こういうのじゃ」
ツクネ様がわたしの手の中のARデバイサーをぽちぽちと操作するとパステルカラーのパンツとブラジャー。それからりんごがひとつ現れた。
おい。
「この下着に使われている、
シャクシャクと美味そうにりんごを齧るツクネ様。元はフィギュアなのに、食べる事もできるらしい。食べたのどこ消えてるん? 謎だ。
なるほど。資金や武器、防具、アイテムが消失してる理由はわかった。クラン・タグが残っていたのは、たぶん装飾品と変わらないと判断されたからだ。クラン・タグはクランに所属する証であるが、それ自体はただの金属板だ。
「武器についてははどうにもならんかったが、このように、衣食住は十分事足りておる。それにこの世界で金子を用立てたいなら、ここに溜まってる素材を売れば良かろう。ほれ」
今度は幾つかの金属の塊と、肉の塊が現れた。
これは、鉄鉱石に金剛石。ミスリルとオリハルコンの鉱石に、肉はオークの肉かな?
「其方の倉庫には、鉄、金剛石、
「オークいるんだ……」
そういえば、さっき見た映像の中にオークいたな。あと、ゴブリン、ミノタウロス、そしてドラゴン。ファンタジーの定番種族は一通り揃ってるってことか。
「うむ。この世界の武器は遅れておるからの。魔法を使える者も少いから、
「うわ……」
オークとはご存じの通り二足歩行する豚の魔物だ。力はあるがそれだけで、OSGの世界では雑魚キャラCくらいの扱いで、もっぱら食料にされていた。
だけどそれは、OSGの世界の武器や魔法が発達していたからだ。わたしだって鉄の剣一本で戦ってこいと言われたら、死ぬかもしれない
ここで魔物について詳しく説明しよう。
魔物とは、魔力の影響を受けて誕生した生物のことを指す。OSGには、ドラゴン、ゴブリン、オーク、ミノタウロスのような、ファンタジーのド定番から、機械の中に入り込むナノマシンのような捻ったものまで、多種多様の魔獣がフィールドを跋扈していた。
魔物は物理法則や進化論を無視して生まれた怪物だ。そして、人間にとって欠かせない資源だった。
その強靭な皮や骨は武器や防具に健在となり、肉や内臓は食料や薬に、そして体内で生成される魔力の結晶(魔力晶)は、魔道具の動力源として……OSGの魔物は日夜人間によって狩られ続けていたのである。
なんか、人間の方が魔物の敵って感じだね。
説明終わり。
「食材になる肉は自分で食ってもよいが、鉱石など、どうせ持っていたって文鎮か漬物石にしかならんし要らんじゃろ? 売ってしまえ」
確かに、わたしの倉庫には持ってるだけでは全く意味の無い素材がかなりの量溜まっている。数字で見ると少なく見えるのは種類ごとにカウントされているからで、例えば鉄鉱石なら100トン以上。ミスリルやオリハルコンの鉱石も1トンくらい入れっぱなしだ。
これだけ溜まっているのは、わたしが毎日更新されるデイリーミッションの採集を真面目にやっていたからである。因みに素材類は持ってるだけでは意味が無いんだけど、換金もアイテム製作も全くやってなかったから、溜まるに任せていた。資金や装備が持ってこれなかったという現在の状況に、わたしのものぐさOSGライフがこうも上手く噛み合うなんて、想像もしていなかったよ。
「これらを元手に商売を始めるのも良いだろう。だが、その前に必ず信用できる商人と伝手を作って教えを受けよ。金剛石などの宝石は産出地をごまかせんと、盗品とみなされる可能性があるし、
まじかー!?
わたしにはこの世界で商売を始めるだけの知識は無い。この世界で金を稼ぎたかったら、外へ出て協力者を見つけて勉強しろと、ツクネ様は暗に言っているのだ。
「差し当たっては、換金しやすい砂金を売るとよかろう。これでも当座の資金を稼げるはずじゃ。ああ、出すときは予め入れ物の用意を忘れるでないぞ?」
「ん」
砂金はOSGでも換金アイテムだったが、これも面倒だったから倉庫に入れっぱなしにしていた。量にして約3キロ。換金したら3000万ルワーくらいにはなったはずだけど、OSGだとそのくらいはした金だったからね。なんせ一線級の装備は数億で取引されてる世界だったから。
OSGでは、強い、可愛いは正義だった。装備だけでなく、人気な衣装も高値で取引されていた。今着ている、踊り子の服と、ケープでも1000万はしたと思う。
この世界に慣れるまでは、素材やアイテムを売るのは控えた方が良いかもしれない。差し当たって、砂金を売るだけで、当分お金に困らないだろうし。
「せめて武器はすぐにでも買いたいな」
これからひとりで暮らしていくのに、ナイフ一本無いのも不便だ。因みにだが、調理はマイルームのフードクラフターで出来てしまうから、台所にはフライパンも包丁も無い。調理器具を買って持ち込めば自分で料理出来るだろうけど、今は何もないのである。
「其方に武器はいらんじゃろ? ではちゅーとりあるを進めるとしようかの! 第三幕じゃ!」
いや、武器スキル使えないと困るって。それに何か吊ってないと、腰が寂しい。
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