第27話 志高き男です。

 倉科さんが、この俺のいる病室を出て行ってから約30分。

 何だろう。もしかして今も、さっき一緒に話をしていたケーキのために並んでくれたりしているのかな...。


 何か、ほんと色々と申し訳なさすぎる。


 って、やっと繋がった。


 「おい、コラ木村!テメェ、何を倉科さんに」

 「ちょ、佐藤。そんなことより。うちの課から俺とお前のどちらかがシンガポールに転勤しなければならなくなって、ヤバすぎる状況なんだよ!」

 

 は?


 「いや、どういうことだよ。それ、いきなりすぎるだろ。いつからだよ。あと、何で俺らがそんな?」

 「いつからかはわからない。わからないけど、年次と俺らが独身であることがでかかったみたいで、マジでヤバいんだよ。さすがに俺らの部署から二人抜けるのはまずいから、もう一人、別の部署から行くことになるみたいなんだけどな。期間は2年!」


 いやいやいや、真剣にどういうことだよ。これこそ脳が正常にあいつの言葉を処理できずに俺は混乱せずにはいられない。


 わからん。会社で本当に今何が起こっているのかが、わからなさすぎる。


 とりあえず、何かもう、木村にキレるとかそういうさっきまでの自分の怒りが嘘のように吹っとんで、むしろ無。何がなにやら意味がわからなさすぎて今の俺は。その一言。


 「で、もっとやばいのが、本当にすまん。今回ばかりは本当に申し訳ない!!!朝に俺が軽いノリで佐藤って転勤とか好きだと思いますよ。最近失恋したみたいだし、ちょうどいいんじゃないですかって言っちまったら、もう会社的にお前が行くみたいな雰囲気になってしまってて、その噂も社内に完全に広がってしまって...」


 は?


 「いや、ちょ、おま、ふざけんなよ。それはないだろ。マジでちょっと今回ばかりは!」

 「え? 何ですか課長。はい。え、もう一人の立候補者が出た?あんなに誰の手もあがらなかったのに?」


 あ? 何だ。急に電話の向こうでブツブツと喋りだして...って、マジでふざけんなよ。本当にどうすんだよ。今回ばかりは洒落にならんぞ。


 「おい、木村、お前聞いてんのかよ!おい!」

 「え? そ、それも今田ちゃんが立候補!? はい。はい」


 何だ。尚も何を電話の向こうでブツブツと。今田ちゃんが立候補? 聞き間違いでなければその言葉が聞こえてきたはず...


 「あ、課長。すみません。ちょっと今、ちょうど佐藤と電話をしておりまして、あいつ、行くの嫌みたいなんで。俺が行きます。へ? いやいや、俺が行きますよ。今後の自分の成長にも繋がると思いますし。はい。もう確定でいいです。絶対に行きます。勉強させてください!はい。ありがとうございます!」


 ん?


 「おい、佐藤!」

 「はい...」

 「やっぱり俺がシンガポール行くわ!さすがにお前にこれ以上迷惑はかけられない。今まで本当に申し訳なかった。せめてもの罪滅ぼしに俺が行ってくる!」

 「え、あ...はい」


 って、電話が切れた。と言うか、切られた...。


 ん? 何だ。何だったんだ...


 まさに嵐のように事が進みすぎて、本当に頭の処理が追いつかない。


 え?   


 俺がシンガポールに転勤という流れになっていたけど、結局はキャンセルで木村がシンガポール?


 ま、まあ。行かなくてよくなったのなら別にいいか。

 

 よくわからないけど。問題はない...はず。うん、ない。


 え? でも、今田ちゃんも行くの? 


 だ、大丈夫なのか? いや、能力的には何の問題はないとは思っているけど、その色々と...


 え? 2年だぞ。シンガポールはまあいい所だとは聞くけど。いいのか?


 って、何だ。また着信?


 それも木村から...


 「はい、佐藤です。どうした?」

 「佐藤ぉぉぉぉ!!!!すまん。やっぱり俺無理!お前から課長にやっぱり俺が行きますって言ってくれないか!頼む。何でもする。一生のお願い!!」

 「いや、何でだよ。さっきあんなに意気揚々と俺が行ってくるって言い張っていただろうが」


 マジで何だよ。こいつ...。


 「いや、それが。今田ちゃんがやっぱり、やっぱり行かないって言いだしたみたいで。で、何か代わりにあの一個下の階のサイコパスのヤバい男いるじゃん。あいつが、あいつが行くとか言い出したみたいで」


 そうか。結局は今田ちゃん行かないのか。


 「だから、頼む。佐藤!」

 「無理。絶対無理」


 そして、フッ、今度はこちらから電話を切ってやった。

 これでおあいこだ。そして着信拒否。


 「佐藤さん!フフッ、帰ってきました。ほら。見てください。このモンブラン!超おいしそうじゃないですか?」


 って、ちょうど。気が付けば、倉科さんも戻ってきたところみたいだ。


 「あ、本当ですね。すごい。でも、ほんとすみません。僕のために並んでくれてたんですよね。ありがとうございます!申し訳なさすぎます」

 「いえいえ、本当に私も食べたかったんです。佐藤さんとご一緒に!とりあえず一旦、そこの冷蔵庫に入れさせてもらってもいいですか?」

 「はい。もちろんです」


 そして、やばい。何ださっきからの、その笑顔。


 可愛すぎるだろ...。


 倉科さんがケーキを片手にはしゃぐ姿...。

 ギャップがえぐすぎる。本当にえぐすぎる。


 「あ、そう言えばさっきどなたと電話をしていたんですか? あー!もしかしてまた誰かとマッチングしてその女性とか!」

 「いえいえ、あれ以降、誰ともマッチングできていませんので...」


 本当に。あれ以降は、悲しくも本当に誰からも何の反応も一切ないから。


 「木村です」

 「フフッ、佐藤さんは本当に木村さんと仲がいいんですね!」

 「いえいえ、やめてください。ただの同僚です」


 でも、本当に頑張れよ。木村...。


 何か、本当にさっきの数分で色んな情報が俺の頭の中に飛び込んできすぎて、今も全然よくはわかってはいなのだけど。


 とりあえず、俺が今。言えることは一言。


 木村、お前は本当に一回、色んな意味でシンガポールで自己成長して帰ってきた方がいい。と言うか、してから帰ってこい。


 というわけで...


 あばよ!木村。


 「.....」


 でも、よくよく考えれば、今田ちゃんは何で一回....


 向こうで2年も俺と一緒だぞ。


 いや、そんなことはない...よな。ないない。関係ない。


 それはちょっとあまりにも自惚れすぎだ。うん...ない。


 というわけで...


 本当にあばよ!木村。



 《あとがき》

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あと、ここからは、しっかりとヒロインメインのラブコメになっていきますのでよろしくお願いします!

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長年付き合っていた彼女に浮気をされて別れた29歳の俺、初めてマッチングアプリを利用してみたところ、何故か知っている女性とばかりマッチングをしてしまうのだが?(それも美女ばかり) 卑屈くん @jetton

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