第23話 予想外すぎる出来事ですか?


 今、俺は仕事終わりに、とある居酒屋にいる。

 そして、ここには男が3人。そしてテーブルを挟んで女性が3人。


 昨日に木村の誘いがあって、今日も何だかんだで仕事を早く切り上げることができて、今ここにいるが


 ちょっとあまりにも予想外過ぎることが起きている...。


 おそらくこれは合コンではあるのだろうが、そんなことは別にどうでもいい。


 いくら奢りとは言え、今すぐにでも帰りたい。本当に。昨日の幸せが嘘のように、今日は最悪な日へと塗り替わった。


 やっぱり、こいつ木村の誘いになんて乗るべきはなかった。でも、こいつは彼女の顔を知るはずもない。それに、今日のこの合コンの様な飲み会の幹事は木村ではなく、もう一人の男。俺の会社の別の部署の先輩で、いい意味でも悪い意味でもガツガツとした強引でパワハラ気質な男で個人的には嫌いな部類の人間。


 この男、山崎がいることを俺は知らされていなかったし、おそらく奢りと言うのは木村ではなく、こいつの奢りのことだったのだろうが、まあ、今はそんなことはどうでもいいこと。


 「ねぇ、亜梨紗ちゃんはこの中だと誰がタイプ?」

 「えー。何ですか、その質問。山崎さんもそうですけど、皆さんかっこいいから選べませんよー」

 「いやいや、強いていうなら、強いて言うなら誰よ。」

 「んー、じゃあ...佐藤さんかな」


 そして、さっきからのこの場でのやりとりを聞いていても、おそらく山崎は俺たちの関係をしっているわけではない。むしろ、山崎は彼女のことを狙っている。


 ということは偶然? でも、そんな偶然があるか?


 「なんでだよ。亜梨紗ちゃん。そこは俺だろー」


 駄目だ。木村も完全に...


 そう。実は俺は、この三人の女性のうちの一人のことだけは以前から知っていた。


 それも、それはもう普通以上に。


 「.....」


 そして相変わらず、この甘ったるい声や彼女の雰囲気は男をおかしくする。


 正直、今も目の前にいる彼女は美人だ。美人だが、今田ちゃんや倉科さんほど綺麗かと言われれれば、客観的にみれば、はそうは思わない。


 ただ、男にモテる女性という観点から見れば、その愛嬌のある雰囲気からのあざとい喋り方や声質。仕草やファッションやスタイルなど、総合的な自分自身のブランディング能力も含めて、彼女は、今田ちゃんや倉科さんにも引けをとらないレベルで男からモテる女性だと思ってしまう自分がいる。


 現に今も隣の男2人が完全に彼女のことを狙っていることは明白な事実だ。


 そう。そんな彼女を一言で言ってしまえば、魔性の女。

 

 これまでも、彼女と関わってきた何人もの男たちが、彼女に勘違いをさせられてきた光景を実際に見てきたのだから、それは間違いないだろう。


 そして結果論、俺もその一人...だった。


 一人だった...のだと思う。


 そう。最悪ではあるが、今もテーブルを挟んで俺のちょうど目の前にいる女性は



 



 長年付き合っていた俺のだ。


 「.....」


 これ以上、ずるずると関わってしまうとまた俺は彼女の都合のいい男になってしまうと、lineや電話番号もブロックして完全に連絡手段も絶ったのに...


 何でまたこんな...。


 本当に偶然であることを願いたいが、どちらにせよ。この偶然は最悪の偶然だ。


 今日の俺にだけ見せてくる、しおらしいその表情も演技だ。演技だとわかっているのにも関わらず、心が揺さぶられそうになってしまうバカな自分が最悪にも時たま現れてしまう。


 こんなことを考えてしまう時点でもう、彼女にまた惑わされてしまっているのかもしれないが、もしこの再会が偶然ではなく、計算だったりした場合、本当にその目的は何なんだよ。


 俺よりも顔も収入も、何もかもいい男達から言い寄られているお前が俺に戻ってくる理由がわからない。結婚だって断られた。本当に何がしたいのかわらない。


 実際に浮気をしていた男だって...


 「.....」


 いや、これこそが本当にバカな勘違いだ。彼女が俺と寄りを戻したいなんて話には、この場では一切なっていないにも関わらず、また俺は何を...


 「健く...佐藤さん、グラス空いてます。次のお酒注文しますか...?」

 「いや、結構です」


 駄目だ。また頭がおかしくなる。

 本当に何でこんなことに。偶然だとしたら、やはり俺は運があまりにも悪すぎる。


 「そうですか。そういえば、佐藤さんってもう彼女さんとかいるんですか...」


 そして、何だよ。らしくもなく真剣な表情でその質問。何の意図があってお前は俺にそんな質問をしてくる。


 「まあ、いますよ」


 しかも、俺は俺で意地になってしまっているのか、自分でも意味のわからない勢いで彼女に対して口からそう嘘を吐いてしまう。


 「いや、嘘つけ。佐藤。お前この前に長年付き合ってた女にフラれて、今は完全フリーじゃねぇか。何かっこつけてんだよ」

 

 そして、今は真剣に黙っていて欲しい。実際、お前は知り様もないのかもしれないが、その相手が今、目の前にいるのだから。


 「いや、本当にいるから」


 当然、本当はいないけれど。どうしても今の俺は気持ち的にその嘘をつかなければ正気を保てない。別に誰も傷つけていない嘘なのだから問題はないはずだ。


 「とりあえず、ちょっとお手洗い」


 まあ、やっぱりもう色々と無理だ。このままだと感情がまた色々とぐちゃぐちゃに...


 だから、このままお手洗いに行って、そのまま勝手に帰らせてもらう。


 本当に何なんだよ。


 本当に...


 そして、とりあえず、今は店内に男女一つずつしかない個室のトイレで俺は帰りの電車の時間を調べているが、まあ、今店を出ればちょうどいいタイミングで駅につくだろう。


 コンコンッ


 それに、次の人もちょうど待っているみたいだしな。


 コンコンッ


 「すみません。すぐ出ます」

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