第22話 違和感です。
まさか、本当に会社を早退することができるとは思っていなかった。
昼の12時ジャストで退勤をすることができるなんて、何か不吉なことが起こる予兆か?いや、もう嫌というほど昨日から不幸に見舞われてきた俺、佐藤 健だ。これはそのご褒美だと思っておこう。
誇張抜きで心の底から嬉しい。
外は快晴かつ心地よい風の吹くカラっとした天気で最高だし、さっき、電車に乗る前に、喉が渇いて駅のコンビニに立ち寄ったのだが、ペットボトルの珈琲を買ったらキャンペーンに当たって、さらにもう一本同じ珈琲をゲットでご機嫌に。
しかも、電車に乗ってからは、まさかの芸能人に俺は遭遇。帽子を深々とかぶっていたが、普段からテレビを見ている俺にはすぐにわかった。割と有名な某お笑いコンビのボケの方。まあ、話しかけたりはしなかったけれども、普通にテンションが上がりに上がった。爆上がりだ。
本当に、昨日からあのバカ木村には散々な目にあわされていたが、そのおかげで、いや、おかげというのはおかしいか。その反動だろうか。さっきから怖いほどに、テンションがあがることが立て続けに起こっている状況だ。そして、今日という1日はまだ長い。正直、まだまだいいことが起こるのではないかと、死亡フラグかもしれないが、勝手に期待をしてしまっている自分がいる。
ほんと、ここまで気分がいい日は珍しい。
今も、前から気になってはいたけれど行ったことのなかった、個人経営であろう中華料理屋に思い切って入ってみたのだが、めちゃくちゃ美味しい。当たりだ。味も接客も100点満点で完全に開拓成功。
天津飯と餃子と唐揚げが美味すぎる。
全てが全て、決して大きくない幸せなのかもしれないが、今日。楽しすぎる。
もう、今は何も余計なことは考えずにこの幸せの連続をただただ謳歌したい。
「.....」
この、最高な午後休を謳歌したい。
したいのに、さっきから俺のスマホのlineには不吉なメッセージが連投されている...。
もちろん既読なんてつけていない。つけたくもない。
なんせ、そのメッセージの送り主は
木村。俺の幸せを壊す者。
絶対に無視。あいつ、どこまで俺の平穏の邪魔をすれば気がすむ。
ここまでしつこくlineを送ってくるということは絶対に碌なことではないはずだ。間違いない。そうこう考えているうちに現に着信までかかってくる。
もう、最悪だ。出たら終わり。絶対に面倒くさいことに巻き込まれる。
出ない、出ない。絶対に出ない...
と思いつつも、こんなモヤモヤとした気持ちで、飯を食っていても美味くないからな...。もう仕方がないとあきらめる他ない。
そう観念した俺は、着信には出ないが、バカからのlineメッセージを渋々開ける。
『佐藤。昨日の詫びも込めて明日の夜、一緒に飲みに行かね?もちろん俺の奢り!』
ん?
『来るよな? 奢りだぞ。奢り』
何だ...。
『佐藤、もう予約したぞ。一緒に行くよな。な!本当にいくらでも奢る!』
飲みの誘い? 明日の夜?
まだ平日の真ん中だぞ...。しかも、何でそんな必死に...。それもあいつの奢り。
ちょっと意味がわからない。わからなさすぎる。
「......」
いや、あれか? 今日の俺、あいつにちょっと冷たくしすぎたか? で、俺がまさかの早退をしたから色々と勘違いして...
あいつ、俺の機嫌をとろうとしている?
確かに、何だかんだで今日の俺は昨日からのストレスもあり、いつにも増してあいつにかなりの塩対応をぶちかましていた。
「.....」
あいつなら、あり得るな。
違和感はある、さすがにあるけれど。あいつがそういう単純なところのあるバカであることも事実...。
「......」
まあ、それなら乗らない手はないな。
平日の夜とはいえ、いくらでも奢ってくれるんだもんな。いくらでも。
何だろう...。
やっぱりいい日だな。今日。
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