第21話 清々しい朝の二人です。

 こんなに天気が良いにも関わらず、今日の俺は朝からあまりにも憂鬱な時間を、ある男により味わわされている。


 まず、目が覚めて隣に木村が寝ている状況から朝がスタート。


 そして朝御飯をこいつの分まで作ってやって、一緒に食って、俺のカッターシャツ等も貸してやって、玄関を一緒に出て、同じ車両の電車に乗って...

 

 色んな意味でもう胸焼けがひどい...。


 ただでさえ、仕事のある日の朝は憂鬱だと言うのに、2倍。いや、3倍増しで憂鬱。


 今だって、駅から会社まで仕方なくこいつと一緒に歩いているところではあるが、朝からどれだけ喋り続けるんだこいつは...。


 「なあ、そう言えば、お前ん家って、綺麗なんだけど、ちょっと綺麗すぎないか。物自体があんまりないと言うか」

 「あ?まあ、最近いらないものどんどん処分していっているからな」


 そう。例えば、元カノとの思い出のモノとか...。

 とりあえず、最近は他にも本当に色々と処分した。


 「え? お前ってあれか。ミニマリスト的な?」

 「いや、そういうわけではない」

 「え? じゃあ、何で」


 何で?まあ、色々あるけど


 「まあ、そろそろ今の場所からかなーっと」


 そう。別の場所に引っ越し。


 「え?何で」

 「いや、何でといわれても、まあ、もうすぐちょうど契約の更新時期ってのもあるし、まあ色々だよ」


 正直な理由としては、今回の元カノとの別れが大きな理由としてあるが、そんなことはこいつには言わないし、言う必要もない。どうせまた茶化されるだけだ。

 未練とかは本当にもう俺の中にはないはずなのだが、どうしても、ふとあの頃の楽しかった時の記憶を思い出してしまうことがあって、色々と考えはしたが、やっぱりちょっとな...。


 「で、どこに引っ越すんだよ」

 「いや、まだ決まってはない」


 実際、色々と迷い中だ。


 やっぱり職場から近い方がいいのは確かだが、近すぎるのも嫌。

 それに、そもそもこのバリバリのオフィス街辺りのマンションなんて、いくら家賃補助がでたとしても高すぎて、嫌。

 

 でも、本当にどうしようかというところではある。

 本気で引っ越すのであればそろそろ本格的に決めないといけない時期だ。


 「おい、佐藤。俺のマンションの部屋の隣、今あいてるぞ」

 「絶対にない」

 「なんでだよ。俺たち、独身同志。助け合って生きていこうや!」

 「理由? それはお前の家の隣だからだよ。それが全て」

 「ったく、何だよそれー」


 当たり前だろうが。助け合って?バカを言え。いくら想像しても俺がお前を助けている姿しか頭には浮かんでこないし、実際も100%そうなる。何があっても断固拒否だ。


 「でも、まあ。佐藤、お前には昨日の恩もあるしな。よしっ、俺が一肌脱いでやるよ。ハハハ、大船に乗ったつもりでいろや」

 「いや、ちょっと待て。脱がなくていい。絶対に一肌脱ぐな。とにかく、お前は何もしなくていい。本当に大丈夫だからやめろ。これは俺の問題だ。大丈夫」


 本当に、本当に、本当に、余計なことだけはするな。

 お前が積極的に動いていい方に物事が転んだ試しがない。冗談抜きでない。絶対に止めろ。


 「遠慮すんなって」

 「いや、全く遠慮してない。全力で止めろと言っている」

 「はいはい。わかった、わかった。後から泣きついてきても知らねぇからなー」

 

 本当によかった。わかってくれた。助かった...。

 今の俺はお前が俺の言葉をわかってくれたことに泣きそう。


 って、そんなことを考えていると、いつの間にか俺たちは会社の前。


 「....」


 今日は誰かさんのせいで既に色々とボロボロなのだが、実際は今からが1日の本番...


 やばいな。ため息しかでない。今日は冗談抜きでぶっ倒れるかも...。


 誇張抜きで朝からずっと隣にいるバカのせいで、体力が本当にもう...。


 実際、職場の部署まで一緒だし...。


 やばすぎるな...。


 割と真剣に、今日は早退...しようかな。

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