第19話 またまた災難な月曜日です。
今日も残業疲れた。不幸にも最近は月曜日からの残業が常態化してしまっている気がする。
ただ、まあ今日はこいつ、木村も道連れにして手伝わせてやったから、いつもよりはストレスは緩和されている。
別に下の子を残らせているわけではない、あくまで同期かつ普段は逃げるように帰っていくこいつに俺の負担を思い知らせてやっただけ。
でも、何だかんだでこの会社は残業代がちゃんと付けられるのはでかい。
おかげで今も、ついさっき仕事帰りのラーメン屋でこいつ、木村とトッピング増し増しで豪遊をしてきたところだ。
「おい、佐藤。あれなんら?」
と言うか、こいつ。月曜日からそんなになるまで酒飲むとかやっぱりバカか。
今は駅まで歩いているところではあるが、絶対にこんな道のど真ん中で吐いたりするなよ。本当に絶対。
そして、あれって何のことだ?
とりあえず、呂律も回らないぐらいにベロベロに酔っている木村が指を指す方向に視線を向ける。
何だろう...。
「......」
ドラマとかでよく見る路上占い師的な...人?
そう。少し先の道端には、まさにお手本の様な占い師セットとともに机にぽつんと座る、言い方は悪いが不気味な雰囲気の老婆の姿。
小さく占い1,000円という立て札もここから見えるが...今はもう何だかんだで夜の10時だ。しかも平日と言うこともあって人の通りもかなりまばら。
そんな状況化では、彼女の存在が少なくとも俺には一層、不気味に思えてしまって仕方がない。しかも何と言うか、妙にあの老婆に雰囲気があるせいで色々と...。
と言うか、初めてだな。ここら辺でああいう人を見るのは。それも含めて本当に不気味。
そして、そんなことを考えているともう、もうすぐちょうどその占い師が座っている距離に。
当然、無言で通り過ぎるつもりだし、さすがにこのバカ木村もそのつもりであることに違いはないだろう。
この時間にこれは、最早、不気味通りすぎて怖いから。
「おばさーん、はい。1,000えん。それでさー、占って欲しいことがあるんらけどー」
はい。バカ。
もうこいつは放っていく。付き合ってられねぇ...と普段なら置いていくのだが、さすがにこの状態のこいつをここに一人で残しておくと色々と危なすぎる気がして俺は渋々、その場所で足を止める。
何かこいつが、これを機に変な宗教とかマルチに入らされて、後々俺にまで影響が飛び火するなんてことだけは絶対に回避したい。
そう。こいつの心配をしているわけではなく、自分の心配をしている。それだけだ。
「あのー、最近。ふたりの美女とすっごく仲良くしているんれすけどー。どっちをえらべばいいかまよっててー。ほら、俺ももう結婚を考える歳れすしー」
やっぱり、帰ろっかな...。あらためて、こいつのことをバカバカしく思ってしまって仕方がない。
「そうかい...。迷う必要はないよ。心配せんでもあんたどっちとも、どうにもならんから。あんたは一生独身。以上」
って、お、おう...。
この老婆。中々辛辣だな...。ばっさりだ。ばっさりすぎる...。
おかげで、目の前のバカが無言になって静かに目をパチパチとしている。
そして、不覚にもちょっと俺は笑ってしまった。
1,000円を払って一瞬にして現実を教えてもらえた木村。
普通、こういうのって一応金を払っているのだからフォローとかもあるものではないのだろうか。それを躊躇なく言葉のとおり一瞬で斬り捨てられて終わり。
で、何かその未来を回避できる、お高いラッキーアイテムを売りつけてくるのかと思えば、そういうのもなく、老婆の方もまるでスイッチが切れたかの様にひたすら無言。
あんなにうるさかった木村の方も無言。って、本当に何だよ、木村。さっきからお前のその表情は。
駄目だ。真剣に吹き出しそう。
「ただ、後ろのあんた。あんたは最近、運命的な出会いがあったね」
って、え? 俺?
また急に喋りだしたかと思えば俺に言っている?
現に明らかに俺は今、その老婆とこれでもかとしっかり目が合っている。
お、俺は金払ってないけど、ついで的な...?
「そう。あんた。あんたはその相手と生涯をともにすれば、幸せな一生を送れるよ。逆にその相手を逃せば待っているのは糞みたいな人生だね。以上」
え? 糞みたいな人生? 一生独身とかではなく、糞見たいな人生?
というか、最近。運命的な出会い...
いや、運命的かどうかは置いておいて、普通ではあり得ないような出会いがあったのはあったけれど...
その相手と生涯をともにすれば幸せな一生...?
「......」
気が付けば、また目の前の老婆はスイッチが切れたかのように、ただ一点を見つめて動かない状態に。
「.....」
いや、さすがに。だって、生涯をともに....っていうことは結婚ってことだろ?
それも最近の出会いということは、あの二人の....どちらかと?
「.....」
って、バカか。本当にバカかよ。
何で俺の脳内にはあの二人の顔が浮かんで...?
普通にどっちもあるわけがないだろうが。俺は
何を俺まで、こんな怪しい占い師の占いを信じそうになっている。
そして、何であの今田ちゃんと倉科さんの美女二人を思い浮かべている。ないないない。
何を俺は...バカすぎてヤバい。本当にバカすぎる。
勘違いも甚だしい。
自分で自分が恥ずかしすぎる。ありえない。
マジで身の程を弁えろや、俺。
そう。そうだ。そもそもこんなのは占い師の常套手段だろうが。
出会いなんてものは社会人をやっていれば毎日それなりにあるんだ。本人の解釈しだいではいくらでも、あの人が運命の人だったのかも、いや、あの人なのかも、と想像できてしまう。
要はこの占い師は誰にでも当てはまるであろうことを適当に言っているだけ。
言っているだけ...のはず。
「おい、佐藤!帰るぞ!こんらインチキ占い師の言うことを信じるなー!俺が、俺が、生涯独身なわけがないらろうがー!俺は今、モテキなんらぞー!!!」
「お、おう。そうだな。帰るぞ、木村」
そう。インチキだ。
信じるわけがない。
別に信じたい人は信じればいいとは思うが、少なくとも俺は信じ...ない。
とりあえず、本当に今日は帰りしだい、しっかりと寝る。
最近はちょっと色々とありすぎて自分が思っているよりもかなり疲労がたまっている様だ。
そう。あの二人のどちらかと俺がなんてこと...
ありえ...ない。
でも、幸せな一生...。
いや、今日はちょっと本当にすぐ寝よう。
このままだと色々とありえもしないバカなことをまた俺は考えてしまいそうだ。
現にまた二人の顔が浮かんで...。
俺らしくない。
そう。俺らしく...ない。
くっ、また二人の顔が...
幸せな結婚...。
「......」
って、バカかよ。俺はまた何をバカな妄想をして...って
え?
「ウプッ」
う、うプ?
おえっ…おげろヴぇろヴぇろヴぇろオロロロロロロロロロ
「え、ちょ、お、おい!木村。おま、何して...」
あ、ああ...最悪だ。
現実に戻って来れたとはいえ、最悪すぎる。
本当に。
何でこいつはこう...悪い意味で期待を...
俺の靴に...
あぁ、木村のゲ〇が...。
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