第16話 水族館です。
やばい。楽しすぎる。倉科さんとの水族館。
既に今はアプリでやりとりしていた時と同じぐらいに楽しいと言っても過言ではないレベルだ。緊張感もいつの間にか完全に消えてしまった。
もちろん、この時間が俺にとって分不相応な時間であることはわかっているが、もうどうせなら、この最初で最後であろう幸せな時間を謳歌してやろうと思っている。
今はちょうど一通り館内を周り終わって、とりあえず、もう少しで始まるイルカショーの始まりを観客席で彼女と二人で座って待っているところ。
相変わらず、天気はものすごく良い。
「今日は本当に楽しいです。正直、マッチングアプリを使うのは初めてでかなり緊張していたんですけど、相手が佐藤さんでほんと良かったと思います」
「いやいや、それはこっちのセリフです。と言うか、聞いていいのかわからないんですけど、何で倉科さんほどの人がマッチングアプリを...?と言うか、本当に彼氏いないんですか?」
本当にそれはこっちのセリフ。あとそこはやっぱり疑問でしかないから、ついそう彼女に聞いてしまう。
「もう、本当にいないんですってー。YouTubeで言った様に絶賛募集中です!」
そして何だ。その可愛すぎる言い方。
あともう癖なのだろうが、そのボディタッチはちょっと男にとっては勘違いをしてしまう気がする。もちろん俺はしないけど、それでも中々...。
と言うか、やっぱりそのクールな見た目からのギャップが色々と良い意味で凄すぎるな...。
「いやいや、倍率えぐすぎるでしょ。動画のコメント欄でも倉科さんの人気凄すぎましたし、僕の会社の人間でも倉科さんに好意がある人がいっぱいいますよ」
本人が一番わかっているのだろうが、実際、めちゃくちゃ彼女が俺の会社の男達からアプローチをかけられているところも目にしてきたし、やっぱりマッチングアプリなんて絶対に必要ない。
「んー、まあ、好意を持ってくれる人は確かにありがたくもいなくはなかったんですけど、何と言いますか、私も次付き合う人は絶対に結婚する人だと思っているので真剣になってるんです」
「あー、結婚」
「はい!それでちょっと試しにマッチングアプリに手を出してみたんです!」
あー、そういうことか。本当のお試し的な感じか。まあ、俺もそこについては似たようなものか。まあ、俺と彼女ではその意味は雲泥の差ではあるが。
「フフ、佐藤さんは結婚とかはまだ考えていないんですか?」
「いやー、まあいい相手がいればとは思いますけど、そもそも僕を好きになってくれる相手が現れてくれなきゃ話にならないですからね」
「えー、現れますよ。絶対に佐藤さんは良いパパになると思いますし、私、昔から結婚するなら佐藤さんみたいな男性が絶対にいいと思っていましたから!」
「はは...ありがとうございます」
まあ、実際、本当にそうであれば29歳という今、ずっと付き合っていた彼女からフラれたりはしないけどな。
それに、「佐藤さんみたいな」という言葉の意味は、結局のところは、やはり俺はそもそも彼女にとってアウトオブ眼中であったということだ。
もちろん、彼女と初めからどうこうなろうなんておこがましいことは考えてはいなかったが、一気に色々と現実に戻されてしまった...。
いや、まあ、それでも倉科さんと二人で水族館なんて奇跡に感謝しないといけないことに変わりはない。
「あ、そうだ!妹さん。佐藤さん、車でお話してくれた妹さんの写真見せてくださいよ!」
「あー、そうでしたね。オッケーです。でも、そんな期待するようなものでもないですよ」
そうか、写真か。そういやそういう話をしていたな。
とりあえず、俺はそんなことを思い出しながら、スマホから妹3人の写真を探しだして彼女に見せる。
そして、気がつけば、ものすごく近い距離から隣の彼女は俺のスマホをのぞき込んできているが、もう俺はわかっている。
おそらく彼女の距離感は誰にでもこう。慣れはしないが、自分の中では無理やり慣れた...つもり。
「え、これですか!可愛い。三つ子ちゃん可愛すぎる!」
一応、あいつ等のそれなりに昔の写真。
そして可愛すぎるわけがない。倉科さんの方が明らかに可愛いし、美しいから。
ん?
そんな中、急に俺のスマホの上の方には誰からからlineのメッセージがあったことを知らせるポップアップ通知。
誰だ、今の休日の俺にlineを送ってくるのなんて飲食チェーンの公式ラインか、木村ぐらい。
って、違うな。
えーと、ゆーか?
【ゆーか】「休日にすみません。今田です!」
え、ああ。今田さんか。
って、何だ? 今田さんから休日に俺にline?
「ん?今田? 佐藤さんのお友達ですか? あれ?いや、今田...って確か」
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