第15話 休日ドライブです。


 「はははっ!佐藤さん、やばすぎです!三つ子の妹!すっごい楽しそう!」

 「いやいや、全く楽しくないですよ。妹が3人。男1人の僕に人権なんてなかったですからね...」

 

 本当に。我儘な妹に囲まれてずっと生きてきたが、散々な目にあった記憶しかない。思い返せば、あいつ等3人のせいで幼い頃から既にかなりのトラブルに巻き込まれて生きてきたよな...俺。


 まあ、とりあえず、俺と倉科さんは今も尚、目的地に向かって二人で車に乗っている途中。


 まさかの倉科さんとマッチングし、初めはどうすればいいのかと狼狽えていた水族館までの約1時間の道のりも、蓋を開ければ何だかんだで普通に楽しい。


 今はちょうど高速に乗っている最中だが、天気もいいし、色々と気分が高揚してくる。


 まあ、でも俺がこういう風に楽しめているのも、助手席に座る彼女のコミュ力が高すぎると言うのがかなり大きいのだろう。現に緊張がかなりほぐれたと言うか、意外にも普通に自分の口からも言葉がどんどんと出てくる。


 「倉科さんはご兄弟とかはいるんですか?」

 「はい!弟がいるんですが、これがもう世話のやける弟でして」

 「いやいや、倉科さんの弟なら、絶対にイケメンで頭がよくて、優秀な完璧な弟ですよ」


 そう。見たことはないが絶対にイケメンだし優秀。そもそも倉科さんを姉にもった時点で神に選ばれし男。


 「いやいや、昔から本当に生意気で自分勝手な弟で、社会人になってからもずっと心配していたんですけど、案の定、過去にはそのせいでかなり大きなと言うか危険なミスとかもやらかしたりしてしまったみたいでして...」

 「えー、倉科さんの弟さんがですか? 大丈夫ですよ。ミスなんて誰でもやらかしますし、多分、僕からすれば、そのミスもミスに入らないと思います。それに逆にそういうオラオラした人の方が僕からすれば羨ましいです」

 「いやいや、その時の先輩さんにもかなりのご迷惑をかけたそうでして、もう恥ずかしい限りなんです」


 大丈夫だ。上は下に迷惑をかけられるために存在している。そう思わないとやっていられないからな。


 「でも!でも!その先輩さんのおかげで弟がものすごく変わったんです!ある時から弟がその人の話ばっかりするようになって、何か、毒も抜けたと言うか、明らかに大人になってくれたと言いますか。人ってこんなに変わるんだーって言うぐらい変わってくれまして」

 「へぇー、僕もそんな先輩が欲しいです。俺も変わりてー」


 本当に。俺もそういう上司に出逢いたかった...。

 出逢っていたら今頃は俺もバリバリのエリートとして活躍...は普通にしていないか。ないな。


 でも、本当にその弟さんは変わったんだろうな。


 今の話をしてる時の彼女の表情がかなり嬉しそうで、声も一段階高くなったりで、ちょっと可愛すぎた。今のは反則すぎる。


 「えー、佐藤さんは変わる必要なんてないですよー。佐藤さんは絶対にそのままがいいと思います!絶対!」

 「あ、ありがとうございます」


 そして何か、よくわからないが、ものすごく褒めてくれている倉科さん。

 と言うか、純粋に彼女みたいな女性から嘘でもそんなことを満面の笑みで言われてしまうと普通に照れてしまう。


 とにかく俺は、そんな状況に何とかニヤつきが顔に出ないよう必死に我慢。

 

 やっぱり単純だな。俺...。


 「あ、そうだ。佐藤さんの妹さん達の写真とか後で向こうに着いたら見せてくださいよ。絶対に可愛い!」

 「いや、見せるのはいいんですけど、全く可愛くないですよ。それこそ、うちの妹たちは正真正銘の糞生意気なんで」


 本当に。タイプの違った生意気が3人。


 「いやいや、絶対に可愛いです!」

 「いやいや、それを言うなら倉科さんの弟はそれこそ絶対にイケメンですよね。僕も後で見せてくださいよ」


 これに関しては間違いなくイケメン。自信がある。


 「フフッ、はい!もちろんです!後で見せますね!」

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