第14話 もう、わけがわかりません。


 倉科....さん?


 そう。何度も目を見開いて確認をしたが、間違いなく俺の車のサイドドアの前に顔を覗かせて立っている美女は


 あの さん、本人。


 「......」


 え? ちょっと、意味がわからない。本当にわからない。こっち? 後ろではなく何でこっちの車?


 今も頭が混乱して何がなんだかわかっていない状況ではあるが、とにもかくにも俺は、静かにパワーウインドウのスイッチを押し、車の助手席側のドアガラスを開閉する...。


 そう。一応は落ち着いてまず確認だ。


 「ど、どうかしましたか?」


 単純に彼女の間違いかもしれないしな。

 

 「え? 嘘。佐藤さん? 佐藤さんだ!」

 「え?」


 やっぱりわからない。どういう意味? どういう意味のリアクション? 俺はあらためて、この状況に対して言葉が何も頭に浮かんでこず、ただただ無言になってしまう。


 その一方、彼女は何か、俺の目を見ながら口に手を当てて、くすくすと笑っている。


 って、え? 気が付けば後ろの高級車が先に動き出して...


 ちょ、あれ? 何で、何で彼女を置いていく。彼女と待ち合わせしていたんじゃないのか?


 何で? 何で置いて?


 「こんな偶然ってあるんだー。えー、さとうさんだったんですね。【たける】さんって!すごっ」 


 へ?


 俺は佐藤 けんだけど...。


 「私、【あず】です!」


 え?あず? 佐藤さんのあだ名...? 


 「ほら、このアプリでやりとりしていた【あず】です!」

 「へ?」


 アプリでやりとりしていた【あず】?

 え?【たける】って、え?


 この【あず】? 俺、【たける】?

 え? 梓の...ってこと?


 「え? 【あず】さん...?」

 「はい! 本当にびっくりです。【たける】さんが佐藤さんだなんて!」


 と言うことは...


 え? 俺がマッチングした相手って...。


 嘘...だろ?


 「......」


 いや、本当に嘘だろ?


 「す、すみません...。許してください。知らなかったんです。と言うか、知りようがなかったんです」

 

 もう俺は謝罪の言葉しか出てこない。どうしたらいい。と言うか何でまた...

 ありえるのか? 何でこうも立て続けに? 本当にどういう確率?


 「フフッ、ちょっと何ですか。それ。そんなのこっちも同じですよ!本当にびっくりー」


 何だ。何で、彼女はそのテンションの高さでいられるんだ。まあ、露骨にげんなりとした顔をされたりするよりは全然いいのだけれども...俺だぞ?

 

 「じゃあ、とりあえず乗ってもいいですか?」


 え? 乗るの?


 「失礼します!」


 って、いつの間にか、ドアを開けてもう乗ってきた?と言うか、もう隣に座って...


 本当に何だ。この状況。気が付けば、俺の車の助手席にはものすごいレベルの美女。というか、倉科さんが...。


 何だこれ。


 俺はどうすればいいんだ、これ。


 え? 本当に俺はどうすればいいの?


 「......」


 そ、そうか。


 そうだよな。そういうことか。

 電車代がもったいないもんな。


 「じゃあ、ご自宅まで送りますので。だいたいどの辺りか場所だけ教えていただければ」

 「フフフッ、さっきから何なんですか。もー。笑わせないでくださいよー」

 「へ?」


 解散ではないのか?


 なんか、パシパシと隣から可愛く俺の肩を叩いてめっちゃ笑ってくれているし。


 「まずは予定どおり水族館じゃないですか!」

 「え? 水族館?」

 「はい。私、今日のデート超楽しみにしてたんですから!」


 超楽しみに? しかも...デート?


 「いや、でも...俺ですよ?」


 そう。待ち合わせ場所に現れたのはまさかの俺。

 その時点でやっぱり普通にアウトだろ。


 「はい!佐藤さんです!フフッ、だから、さらに楽しみになってきたかもしれないです」

 

 い、一体何を考えているんだ...。彼女は。

 やばい。今の発言もボケのつもりで言っているのかもしれないが、上手い返しが思いつかない。頭が全然回らない。


 と言うか、もしかして、俺はとんでもないことに巻き込まれようとしている?

 何かの罠か? 罠なのか?


 そして、顔を隣にむければすぐそこにはもう彼女、倉科さんがあまりにも至近距離にいる。


 いや、綺麗すぎるし、いちいち彼女がこの距離から俺の目を見て喋ってくださるせいで、何と言うか、いい歳して恥ずかしすぎるのだが、頻繁に目を逸らしてしまう自分がいる。要は色々と本当にやばい。


 と、とりあえずだ。もうこうなると一旦はどちらにせよ...。


 「では、一旦出発します...」

 「はい!お願いします!」


 やばい、それにしても何を喋ればいい。アプリではあんなに気が合ったのに、今の俺は全然彼女に対する言葉が思いつかない。いや、そうだ。この状況で正気を保っていられるほうがおかしい。俺は悪くない。


 「でも、ほんと不思議ですよねー。こんなことって本当にあるんですねー。ここまで来ると運命的なものを感じちゃったりもしちゃうかも」


 こ、これはどう返すのが正解なんだ。


 と言うか、俺はそのがもう2回目なんだが...


 いや、そもそも本当に何なんだこの状況は。


 先週に引き続き、一体全体どうなっている...?

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