第13話 土曜日の駅のロータリーです。


 ちょっと早く着きすぎてしまったか...。

 いや、まあ、遅れるよりは全然マシだよな。


 とにもかくにも、相手の方から昨日の夜にしてきてくれたいきなりの提案ではあったが、今日という日がめちゃくちゃ良い天気に晴れてくれよかった。気温も暑すぎず、ちょうどいい感じに涼しい。まさに最高の休日と言えよう。


 そんなことを考えながら、俺はマッチング相手との待ち合わせ場所である駅のロータリーに車を停めて、まだ顔も見たこともない彼女のことをぼーっと待っているところ。


 まさか朝の5時には目が覚めてしまうとは。


 一応、朝一で洗車もしてきて、車の中も綺麗にした。匂いだって問題はないはずだ。


 後はただただ、その相手が来るのをここで静かに待つだけ。


 おそらく、少し遠くに見えている駅のあっちの東口側の階段から降りてくるのだろう。いや、西側からの可能性もあるか。


 とにもかくにも、こんなに緊張するのはいつぶりだ。


 あぁ、一週間ぶりか。まあ、その時は結局、今田ちゃんが現れるというまさかの展開だったけど、今回来るのは本当に知らない人。


 いい歳して心臓の鼓動がやばい。水族館に行くのもかなりの久しぶり。


 それにしても、今も車のフロントガラスからずーっと外の様子を眺めているが、やっぱり今日みたいな日は人が多いな。


 カップル、学生、家族連れ、色んな人が楽しそうに、この賑やかな環境に同化している。


 この光景を見ているだけでも気分が高揚してくる....って


 


 後ろ姿ではあるが、そんな中でひときわ目についてしまう女性の姿が唐突に俺の目には飛び込んでくる。


 モデル? 女優?そんなレベルの人たちを連想させるような完璧なスタイルの後ろ姿の女性。その背中まで伸びる髪もものすごく綺麗で、顔が見えていなくとも、その光景だけで彼女が絶対に美人だということが確実にわかってしまう。


 私服も超オシャレで似合いに似合っている。


 と言うか、さっきから色んな人達の視線がまばらに一か所に集まっているなと思っていたら、そういうことか。明かに彼女へと視線がチラチラと向けられている。


 リアルな二度見をする人を、こんなにも連発で見ることができるとは。

 確かに、彼女はここから見ていても、明らかに他の人たちとはオーラが違うから、その人たちの気持ちも普通に分かる。


 お、そんなことを考えている間に顔がこっち側に向いた。


 ほら、やっぱり。


 やっぱりものすごいレベルの美人だ...って


 ん?


 俺は思わず、自分の瞼をごしごしと擦ってもう一度その美女へと目の焦点を合わせる。


 え? 嘘?



 く、さん?



 そしてもう一度、念の為に瞼を強めに擦って、その人物の方に視線を向ける。


 お、おお...倉科さんだ。


 そう。間違いなく、あそこにいるのは以前に会社の取引先としてお世話になった さん。その人に間違いない。

 

 それにしても、何たる偶然。と言うか、私服の倉科さんも初めてみたけど、やっぱりやばい。


 本当にえげつないレベルの破壊力だ。もちろんいい意味で。


 可愛いと言うか、何と言うか美しすぎる。可愛くて美しい。


 もう、きっとあのレベルまで行くとナンパ男も躊躇して寄って来ないことだろう。間違いない。


 そして、そんな俺の視線の先に今もいる倉科さんは、何やら時計を見ながら楽しそうな表情。


 何と言うかものすごく絵になる光景だ...。


 もしかして、彼女も誰かと待ち合わせか?...って、そうか!


 そういうことか。


 絶対にそうだ。


 あの倉科さんの楽しそうに誰かを待つ表情、絶対にと待ち合わせだ。


 やっぱりな。


 当たり前だ。昨日はyoutubeで彼氏がいないとか言っていたけど、彼女ほどの人間にやっぱり彼氏がいないわけがないんだよ。


 「.....」


 でも、何だろう。


 ものすごく見てみたい。その倉科さんの彼氏。


 絶対に相手も、倉科さんと同等、いや、もしかするとそれ以上の、ものすごいオーラのイケメンに違いない。

 単純にものすごく興味がある。


 一応、俺の方は相手との待ち合わせまではまだ時間があるし、その相手の女性が俺の車を、事前に教えてあるナンバーから探して傍まで来てくれることになっている。


 なっているが、それっぽい女性の気配はまだここからは感じられないから大丈夫。


 それにしても、やっぱり凄いな倉科さんは。


 遠くから見ていても、あらためてわかるけど。本当に美人。


 「.....」


 でも、で言うと、さっきからこっちもこっちで気になっていたのだが、俺の後ろに停まっている車。


 めちゃくちゃ高そう。と言うか、絶対に高い。何だ、このスポーツカーみたいな赤い車。もしかしてフェラーリ? フェラリーとかそういう系なのか?


 俺の車もただの普通車とはいえ、乗り心地もいいし、フォルムもそれなりの、結構なお値段のお車だっんだけど、明らかに後ろの車は格が違う。違いすぎる。


 いや、まぁ、何だかんだでこの車も、当時に元カノが乗りたいと言っていた車を選んだだけなのではあるが...一応自分でも気に入っているからまあ問題ないと言うか、いや、そもそも、そんなことは今は関係なくて...。


 とにもかくにも、この後ろの高級車のせいで、明らかに俺の車が色々と霞んで...。


 くっ、何でこうもまた俺は運が悪い。 


 今から車を動かすとなると、今度はロータリー内で車を停められる場所がなくなるという一番ダサいパターンにおちいることになるし、まあ、もうどうしようもない。このままここで待つ以外の選択肢はそもそもないということ。


 って、ちょっと目を離した隙に彼女、倉科さんの姿がさっきの場所から...


 うお、いなくなったと思ったら、こっちの方向に向かって歩いて来ている?


 え?


 あ、そういうこと? もしかして、後ろのこのが倉科さんの彼氏とか?


 いや、大いにありうる。と言うか、きっとそうだろう。と俺はすぐさま後ろの高級車のフロントガラスを自分の車の中から凝視するが、ちょうどこの天気の良さが邪魔をして光の反射で上手く見ることがない...。


 そして、そうこうしている間にどんどん、前の方からは倉科さんがこっちに向かって歩いてくる光景。


 くそ、こっちは一旦諦めるか。とりあえず、いくら車の中からとは言え、プライベートの倉科さんと目があったりしてしまうと気まずい。


 そう思って俺は一旦、ハンドルに顔をうずめて身を隠す。


 あぁ...どんな人か見てみたい。倉科さんの彼氏。


 あんな高級車に乗れるってことはやっぱり医者とか実業家?それともまさかのスポーツ選手とか?

 

 とりあえず、そろそろ彼女も隣を通りすぎたころか...


 コンコンッ


 って、そんなことを考えながら、まだハンドルに顔を深くうずめている最中の俺の耳には、車のサイドドアのガラスを静かにノックする音が聞こえてくる。


 コンコンッ


 って、ん?


 もしかして...ちょうどこのタイミングで俺の方の相手も来てしまった!?


 もちろん、すぐさま顔を上げる俺。


 まずい。このままじゃファーストコンタクトから俺が何か変な人だと思われて....って


 「え?」


 いや、ちょ、え?

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