第12話 華の金曜日です。

 最悪だ。

 俺は、自分が昔から巻き込まれ体質であることをすっかり忘れていた。


 そして自分の運の悪さを甘くみていた。

 

 月曜日は置いておいて、火曜日から木曜日まであまりにも平和な日常を送れてしまっていたことにより、すっかりと油断をしていた。


 昨日なんて奇跡の定時帰り。金曜日の今日だって、今の今まで至って平和だったのに...。


 なんで、なんで、こんな帰る直前に、よりによってまた、こんなタイミングでかなり厳しい大きめのトラブルが...


 「すみません、佐藤さん。今日は外せない用事があるんですよね。大丈夫です、俺独りで何とかします。行ってください...」


 普段は俺のことを舐めている後輩が、真顔でこんなことを行ってくるくらいにはやばい。


 「いや、もういいって。俺も行くから。その代わり、帰りに居酒屋行こうぜ...。フッ、もちろん、お前の奢りで」


 まあ、どう考えてもこっちの方が大事だからな...。正直、このままこいつを放ったらかしてあっちに行っても、集中できなくて仕方がないことは目に見えている。


 実際、今日会う予定だったマッチングアプリの相手にも、行けなくなってしまったと既にもうメッセージを送った。


 この感じはどう考えても20時は無理だから。


 でも、今思うと。

 めちゃくちゃ長文を送ってしまったな俺...。


 ちょっと気持ち悪かったな。あれ。


 事実、あのレスポンスの早かった彼女からはまだ返信がない。


 終わった...。

 

 まあ、元々、どうせ始まってないか...。


 ああ。でも、せめて一回は実際に会ってみて仲良くはなりたかった...。仕方がないとはいえ残念すぎる。


 「よし、行くぞ。俺が車運転するから急いで準備してくれ」

 「はい!すみません。本当にありがとうございます」


◆◇◆◇◆◇


「今日は本当にすみませんでした!佐藤さん。代わりに俺が佐藤さんの彼女になりらす!」


 こいつ、完全にもう仕上がってんな...。ベロベロかよ。ペース早いな。


 只今の時刻は夜の21時。俺はとある居酒屋で隣に座るこのむさくるしい男と二人で飲んでいるところ。


 でも本当に、本来であれば気の合うであろう女性と楽しい時間を過ごしていたはずが、なんでこんな筋肉ダルマみたいな...


 まあ、結局。トラブルも何とか無事に収められて良かったのは良かったのだかな。


 「佐藤さん!今日はとことん飲みまひょう!おれの奢りれすから!」


 まあ、こいつの言うとおり、今日は俺も久しぶりにとことん飲むか。


 色々と忘れるために。


 とりあえず、今の時点のお会計は...。

 ああ、まだこれぐらいか。安いなここ。

 

 まあ、何だかんだでこいつに出させるわけにも行かないし一旦確認したが、全然足りるな。


 とりあえず、ちょっとトイレに....って、え?


 うおっ、まじか。


 返ってきた。返信...。


 そう。本来は今の時間まさに会っていたはずのアプリでマッチングしたあの彼女から....


 返事が返ってきた。


 『お返事が遅れてすみません!もしよかったらなんですけど、明日一緒に◯✕県のあの最近リニューアルされた水族館に行ったりしませんか? ちょっと前から気になってまして!』 


 しかも、え? 明日? 水族館?


 もちろん...断る理由はない。


 「佐藤さん!今日は朝まで飲みまひょうや!」


 えーと、つまり割りと朝から待ち合わせだと言うことだよな。昼飯も当然あっちで食べることになるだろうし


 「佐藤さん!聞いてまふか?」


 そうか。明日か。


 なんか終わってなかった...。


 「店員さん!」

 「お、佐藤さん、何でも頼んでくらさい!遠慮は入りまへんから!」


 とりあえず


 「お会計お願いします!」

 「へ?」


 今も、高速レスポンスで彼女に返信を返しまくっていたが。


 最終的に、何か、俺の車で彼女をとある駅のロータリーまで迎えに行って水族館に向かうことになった。


 まあ、本来は初マッチングで、それも初めて会う人とのドライブは、女性の方が不安で躊躇すると思っていたから頭にもなかったが、今回は向こうからの提案だし、問題はない...はず。


 それに実際、アプリのプロフにも書いてあるが、俺は運転は得意な方と言うか好きだしな。


 全然OK


 とりあえず、目印となる車の車種とナンバーも既に送った。


 ああ、やばいな。どんな人だろう。


 普通にテンションが上がってきた。


 そうか、明日か。

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