第6話 平日のランチです。
月曜日はやはり憂鬱でしかない。
まあ、土日が休みという完全有給二日制であるだけ、まだましなのかもしれないが週末までが...また長い。
そして、俺のマッチングアプリには相変わらず、いいねが付く気配もない。
総じて、憂鬱だ。
ただ、自分でも正直驚いている。
ここまで頻繁にアプリが気になってしまうようになるとは思わなかった。
おそらく原因は、前回の登録即マッチングではあろうが、あれもイレギュラー中のイレギュラー、ノーカウントであることは理解している。しているが、脳がマッチングする快感を覚えてしまったのだろう。
そろそろ脳を現実に戻さなければならない。
そんなことを考えながら、今日も俺はある同僚の男と会社の近くの馴染みの定食屋で昼飯を食べている。
最近は6月に入ったこともあってか、ちょっと外も暑くなって夏の訪れを感じる。
「なあ、佐藤。今日の今田ちゃん見た?」
「え? 見てないけど」
見てはいないが、どうかしたのだろうか。
正直、木村。お前みたいに別の部署の女性を毎日いちいちチェックしに行くほど、俺は暇ではない。
「おい、午後一で速攻見てこいよ。髪切ってさらに美人になってるぞ。マジでやべぇから。マジで可愛い」
そしてとりあえず、目の前に座る木村が、いつにもまして中学生の様な発言を俺にぶつけてくるが、まあ、そこはもう慣れているから普通に流す。
でも今田ちゃんの髪か。ああ、確かに切っていたな。
「....」
その時のことを思い出して、俺はまた今田ちゃんに申し訳なく感じてしまう。
確か、土曜日に会った時に、午前中に美容院に行ってきたと今田ちゃんは言っていた。要はマッチングアプリの相手と会うためにわざわざ美容院に行ったのに....
待ち合わせの場所に現れたのはこの俺。佐藤
悲惨だ...。悲惨すぎる。
でも、「マジで可愛い」と言う、木村の発言には首を大きく縦に振る他ない。
そこは本当に可愛かったから。
『髪切ってみたんですけど、どうですかね? 似合ってますかね?』
と彼女から微笑まれながら言われた時の俺は、木村のことを中学生とバカにできないほど、中学生のようにドキッとして狼狽えてしまったことを情けなくも覚えている。
もちろん、『もちろん』と言う言葉が俺の口からは自然に捻り出されたが、その時の今田ちゃんの『やった!嬉しいです!』という言葉と、俺に向けられたあまりにも眩しすぎる笑顔は、今でも脳裏にしっかりとこびりついている。
あれは反則だ。反則でしかない。
しかも、たまたまでしかないが、あれは俺のドストライクの女性の髪型。
やはり反則だ。
しかも、おそらく天然であの笑顔が誰にでも繰り出されてしまうから、色んな男が彼女におちてしまう。
なおさら、そんな彼女がマッチングアプリなんて使っていた理由がわからないと思ってしまうが、まあ、あくまでもうアカウントが消えていることからも、本当に気まぐれで一度使ってみたかっただけとかそういうことかもしれない。
ただ、その1回が俺だったとすると、本当に可愛そう。申し訳ない。
「おーい、佐藤。佐藤!何、ぼーっとしてんだよ」
「え、あー、悪い」
あー、思わず、ぼーっと考えこんでいた。
「俺、午後にまた今田ちゃんにちょっと絡みに行こ―っと」
「おい...訴えられない程度にしとけよ」
「わかってるよ。でも、最近俺、今田ちゃんとかなり仲良くなっちゃったからなー」
「嘘つけ」
「本当だよ、お前のやらかし話とかでめっちゃ話弾むから」
「おい、やめろや...」
こいつは本当に...。
「お、そう言えばお前、マッチングアプリどうなったんだよ。誰かともうマッチングしたか?」
した。したけれど...
「いや、まだだけど...」
こいつにはこう言うしかない。特にこいつに喋ったら終わりだから。またネタにされる。
「ハッハッハッ、だろうなー」
くそ、マジでこいつ...。
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