第4話 完璧な女性とランチです。


 天ぷらが美味しいと有名な、お洒落で落ち着いた雰囲気の和食屋。


 そこに、さらにお洒落で可愛いちゃんと休日に二人。というまさかの状況に、俺は今もまだ何だかんだで、結局のところ慣れることができていない。


 そして、ほどよい日差しが差しこんでくる、この個室の座敷で二人で食事をとり始めてもう数分は経つのだが、改めて思ってしまう。



 そう。彼女が本当にいい子すぎて、やばいと...。



 出会いを求めて、せっかくの休日に目の前に現れたのが職場の死んだ魚の様な目をした男、それも彼女に2回も浮気される男だったのにも関わらず....


 「どうですか。佐藤さん! 以前に友達と来てすっごく美味しくて、ちょうどまた来たいと思ってたんです」

 「めっちゃ美味しい。一体、俺が今まで食べてきた天ぷらは何だったんだろうな...」

 「ふふっ、よかったです」

 

 この眩しすぎる笑顔。


 何で、彼女はこの状況でその様な楽しそうな顔ができるのだろうか。

 もし、彼女がレンタル彼女なら100点満点中、120点。いや、500点。

 

 一応、俺が職場の歳上ということで気を使ってくれているのだろうが、ほんと色々と申し訳なくなってくる...。


 「でも、今日は超緊張してたんですけど、相手が佐藤さんでほんと良かったです」

 「いや、ほんとごめんな。俺のせいで今田さんのせっかくの休日を...」


 本当に。こんなことになるなんて誰が想像できただろうか。いや、絶対に誰にもできない。


 金はマジで俺が全て出すから許してくれ...


 「何でですかー。むしろそれはこっちのセリフですよ」

 「いやいやいや、明らかにこっちのセリフだから」

 「いやいや、本当に佐藤さんで良かったんです。何て言うか、佐藤さんと一緒にいると信じられないくらい落ち着くと言いますか、超リラックスできるんです!それに、偶然とはいえ、久々にこうやってお話ができて超嬉しいです!」

 「あぁ、リラックス。観葉植物的な...」

 「ははっ、観葉植物。ちょっと面白いですけど違いますよ。ずっと同じ空間にいれると言いますか、居心地がものすごく良いと言いますか、そういう感じです」

 「ありがとう。お世辞でも嬉しいです。心に染みます」

 「ふふっ、何ですかそれ。お世辞じゃないですってー」


 やばいな。これ。マジでプロだな、彼女。

 俺の言葉に笑ってくれる度に肩を優しく叩いてくるこの感じ。これは、何もしらない男は惚れてしまうわな...。


 知らないし、最近は部署も変わって直接的な関わりがなかったからわからないけれど、色んな男がこういう仕草に勘違いして撃沈してしまっているのだろうか。


 幸いにも俺はその撃沈の場面については先日も見ていることもあり、勘違いすることはないし、少しドキッとしてしまうぐらいだが、これは男なら誰でもこうなる。仕方がない。

 

 でも、居心地がいい...か。それはおそらく俺の方が彼女よりも感じていることだろう。

 彼女と喋っているのは素直に楽しいし、一緒にいて元気になってくる。何よりその楽しそうに笑ってくれる笑顔はもう反則。しかも、申し訳なくってしまうレベルで気遣いもすごい。

 

 可愛い上にこれって、ほんと非の打ちどころのない女性とはまさに彼女のような女性のことを言うのだろう。


 本当に、何でこの様な彼女が、絶対に必要のないであろうマッチングアプリなんてものをしているのかは謎すぎるけれども、まあ、別にそれは俺が詮索することでもないはずだし、今はどうでもいい。


 そう。どうせなら今はこの最初で最後であろう、奇跡的な時間を謳歌しようと思う...。それだけだ。


 「あれ、うわー、嘘でしょー。さっき撮ったお料理の写真、撮れてなかったみたいですー」

 

 そして、そんなことをぼーっと考えていると、目の前の彼女からはそう残念そうな声が唐突に聞こえてくる。


 ああ、さっき料理が運ばれてきた時に撮っていた写真か。確かに全体的に盛り付けが綺麗と言うか、映えていたからな。


 普段はそういう写真は撮らない俺も今日は何となく撮ってしまったレベル。


 「すみません、佐藤さんも撮ってましたよね。送ってくれませんか...」

 「え? ああ、全然いいよ」


 って、思ったけど。地味に俺、彼女とline交換してなかったな。


 「本当ですか!ありがとうございます。ではでは、lineの交換をお願します」

 「え、あぁ、お願いします」


 でも、本当、こんな完璧な女性の彼氏になる男ってどんな男なんだろうな...。


 まあ、どう転んでも俺でない。それだけは確かだな。

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