第3話 仰天の土曜日です
いや、こんなことってある?
何か、色々と驚きすぎてヤバいと言うか、テンパりすぎてやばいんだけど。
今日は待ちに待った土曜日で。俺は待ち合わせの場所に20分は早く行って、すると5分後にはある女性が目の前に現れて、しかもその彼女があまりにも知っている顔で。
『え、佐藤さん? 奇遇ですね。誰かと待ち合わせですか?』
『う、うん。待ち合わせ。そっちもかな?』
『はい!同じですね』
なんて、その見知った顔の女性と会話して、一刻も早くその場所から逃げ出したかったけれど、マッチング相手の【まい】さんをここで待つ以上、動きようもなくて...
結局、待ち合わせの時間になっても彼女が現れないと思っていたら、唐突に隣からもしかして【たける】さんって佐藤さんじゃないですよね。なんて、俺のマッチングアプリ上の偽名の名前が隣の彼女から聞こえてきたりして、それで俺がもしかして【まい】さん...なんてことはないですよね。なんて聞いてみたら...
もう今のわけがわからなさすぎる状況が完成だ。
本当にまさかすぎる。ありえなさすぎないか。冷や汗が止まらない。
そう。今、待ち合わせ場所のとある駅前のロータリーのベンチで、俺の前にいるのはまさかの見知った顔の美女。
会社の後輩。今田 優華
え? 彼氏は? てか、何で彼女ほどの女性がマッチングアプリ? と言うか、【まい】って、もしかして今田の今を逆さにして【まい】ってこと? てか、私服の今田ちゃん、可愛すぎないか なんて脳が処理できないスピードで俺の頭には混乱するほどに色々な疑問が流れてくる。いや、とうの昔にこれでもかと混乱している。
どういうこと?
とりあえず、俺がしなければ今すぐにでもしなければならないことはただ一つ。
「わ、悪い。そんな、あ、相手がまさか今田ちゃん、いや今田さんだなんて思ってなくて...。てか、彼氏は?」
自分でもいまだに仰天しすぎて呂律が回っていない上、普段、本人の前では決して口にはしない今田ちゃんなんて呼び方で彼女のことを読んでしまう。
「ふふっ、私も本当にびっくりしちゃいました。そっか、【たける】ってそういうことだったんですね。まさかのまさかです。もう、あと前から言っているとおり彼氏はいませんよ。だからマッチングアプリをしているんです」
すみません。俺ごときが芸能人の方の名前をニックネームに使っちゃって。それで勘違いしちゃって。もしかして、佐藤
でも、後はすることは本当にひとつ。これしか俺の中には最適解はない。
落ち着け俺、今頭の中にある行動が正解であることに間違いはないのだから。
「えーっと、とりあえず。これで美味しいものでも食べてきてもらえれば。せっかく良いお店予約してくれたんだろうし。ほら、今から別の友達とか呼んでさ。俺はもう帰るから。何かマジでごめん」
そう言って、落ち着いたフリを必死で取り繕う俺は、さすがに足りるだろうと財布から3万円ほど取り出して、彼女の手元に静かにもっていく。
ここでもし、『せっかくだし、二人で飯だけでも行こっか。奢るし』なんて言葉を彼女に口にしてみろ。いくら、過去に同じ部署で仲が良かった方だとは言え、ものの数秒で昨日の色黒ツーブロックと同じ運命をたどることになるだろう。俺はそんなヘマはしない。
それに何と言うか。恥ずかしい。普通に恥ずかしい。別に変なことは言ったりはしてないけれど、今日まで彼女とアプリ上でしてきた会話とかも思い出して顔から火がでるほどに恥ずかしすぎる。まさか、相手が今田ちゃんだったなんて思うわけがない。と言うか、わかるわけがないだろうが。
そもそも本当に毎日がリアルでマッチングな今田ちゃんが何でマッチングアプリなんてしているんだよ。意味がわかんねぇよ。わからなさすぎる。まさにこれが神々の遊びってやつなのか?
「じ、じゃあ。よい週末を」
とりあえず、そう言って俺は強引に彼女に3万円の諭吉を強引に握らせて、一刻も早くこの場から...
「え? 何でですか。ふふ、せっかくですし、二人で一緒に行きましょうよ」
「え?」
え? とりあえず俺は今も普通に混乱はしているが、幻覚でなければ、目の前にはいつも会社で見るような、可愛くこれでもかと愛嬌のある笑顔を俺に向けてくれる彼女の姿。
「え? いや、でもいいのか。俺なんかと...。もし会社とか他の人に見られたら」
二回も彼女に浮気をされる俺みたいなのと。
「えーっと...逆に佐藤さんは私と一緒に歩くの嫌ですか? もう彼女さんとも別れちゃったみたいですし、問題はないですよね。 でも、嫌なら...まあ」
「いや、別に俺は嫌なわけがないけれども」
「良かった。じゃあ行きましょう。もうお腹ぺこぺこです!」
え? マジでどういうこと?
よくわからないけど今から俺、今田ちゃんと、デ、デート...的な?
「......」
いや、違うな...。
俺はバカか。この感じ。そもそも俺は彼女から男として見られていない。見られていたらそもそも二人で飯は絶対にないはずだからな。
ほら、見てみろ。俺と違って彼女のこの落ち着きよう。
そういうことだろう。と言うか、そういうことでしかない。
それを俺は何を独りで意識してテンパって...。
バカすぎる。
まあ、何かそれがわかったからか、一気に気が楽になったな。
何だろ。昼飯。
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