私が電磁幽体先生の作品に本格的に興味を持つきっかけのひとつとなった作品で、非常に思い出深い。
主人公の異能はほかに類似例がほぼないであろう独特のものだが、読んでいると本当に自然にスルスルと能力について理解することができた。こうした体験は快感であり、とても心地よい。
物語は一貫して主人公の一人称で展開され、主人公の淡い恋心と、想い人を危機から救ってあげたいという素朴な使命感がテンポよく描写される。そしてそれらを前振りとして、ラストシーンでは主人公の運命に立ち向かわんとする意志と行動が試されることとなる。
このラストシーンが非常に印象的であり、私は読み終えてから時間がたった今でも、暇なときや仕事で頭が疲れ切ったときなどに不意に思い出すほどに心に残っている。初めて読んだとき、私はそ…そうきたかあっ と、非常に驚いたのをよく覚えている。完全に思考の外にあり、可能性として考えもしなかった。よく考えてみると、日本人にとってこれほど身近だが遠くにあり普段意識しないものもないだろう。奇しくも近年の日本は折に触れて、「備えてもどうしようもないことはある」ということを痛いほど思い知らされる幾度もの痛ましいできごとが数多く起こった。それらがラストの主人公と重なり、異能力、そしてWeb小説という媒体から、どこか遠くの存在として距離をもって読んでいた作品が、急に今目の前の現実に確かにあるかのように感じられた。
すべての構成要素がハイレベルな作品。読んでいて心の深いところまでしみ込んでいくかのように心に残り続ける傑作。