第27話 九州の一夜城

 昔々、筑前国の国人に秋月種実なるものがいたそうな。


 1557年に秋月氏は、毛利元就の調略に応じて大友氏に反旗を翻した。父・文種や長兄・晴種が大友宗麟の猛攻を受けて自害してしまう。


 種実は家臣に連れられて古処山城の落城寸前に脱出に成功したのである。


 「父上や兄上が亡くなられてしもうた‥‥‥大友め、この恨み忘れぬぞ‥‥‥」


 種実は大友に恨みを抱きながら毛利氏を頼って周防国山口に逃走した。


 毛利氏の支援を得て、種実を居城に迎えると、古処山城を占拠していた大友軍を破り、秋月氏の旧領をほぼ回復したのである。


 「我が家の領土を再び手にしたぞ! これも皆のおかげだ感謝する」


 「「何を言われまする。殿の尽力あってこそなしえたのですぞ!! 奪還おめでとうござりまする」」


 種実と家臣一同はおおいに喜んだという。



 高橋鑑種が大友氏に反旗を翻すと種実も挙兵し、秋月氏は休松の戦いで夜襲を敢行した。


 夜半、風雨の強まる中、秋月種実は夜襲を決行する。


 2,000の兵を率いて、臼杵鑑速、吉弘鑑理(高橋紹運の父)の陣に突撃を行った。秋月勢の夜襲で混乱状態に陥り敗走する鑑理・鑑速の兵が、立花道雪の陣へと逃げ込んだのである。


 立花道雪は甚大な被害を受け、全軍に後退を命じたという。


 これにより立花勢は甚大な被害を受けた。


 これにより、毛利元就の九州侵攻も始まったが、大友軍が劣勢だった状況を打破して、毛利軍は大友軍に敗れたため、種実は大友宗麟に降伏したという。


 耳川の戦いによる大敗で大友氏が衰退すると、龍造寺隆信や筑紫広門らと手を結び、大友宗麟の「暴悪十ヶ条」を掲げて筑前とその周辺諸国へ触れ廻り、大友に背く者同士で連判し合ったという。


 龍造寺隆信が沖田畷の戦いで敗死すると、種実は代わって勢力を伸ばしてきた島津義久に従属する。


 さらに、対立して龍造寺と島津の和睦交渉の橋渡し役となり、なおも大友氏に反抗したのである。


 「大友は、我の父上と兄上を殺めた。絶対に大友だけは許せぬ!!」


 大友に対する恨みが強い種実は島津氏の大友領侵攻に従って岩屋城を攻めたという。



 しかし、豊臣秀吉の九州平定の軍勢が九州へ進軍した際に種実は、講和の使いと称して敵情を探らせるべく、重臣・恵利暢堯を秀吉の許へ派遣した。


 秀吉は圧倒的な富と物資動員力に支えられた自軍の威厳を見せつけると恵利へ「降伏すれば種実へ筑前・筑後の二国を与え、恵利にも3万石を与える」とした。


 復命した恵利は、時代の流れを悟って秀吉に従うように諫言したが大友に強い恨みを持つ種実は恵利を面罵して退場を命じたという。


 「馬鹿者め。敵勢の情勢を探る役目のお前がその敵である秀吉に組せよとは戯言をいうものではないわ!!」

 

 こうして、島津家との義盟に従い秀吉との抗戦を宣告した。


 

 秀吉は船で九州に渡って筑前へと向かうと、小倉城に到着し、翌日には豊前馬ヶ岳まで進軍し、秋月種実が本拠とする筑前古処山城、豊前岩石城に攻めよせてきた。

 

 秀吉は豊臣秀勝を大将に先鋒の蒲生氏郷・前田利長隊に命じて岩石城を攻撃してきた。


 岩石城は一日で落城してしまったのである。


 「まさか‥‥‥岩石城が一日で落城しようとは‥‥‥されどわれには古処山城がある」


 種実は、古処山城を頼りになおも徹底抗戦したという。


 秀吉は、古処山城攻めに5万の軍勢を送り込み、夜中に農民に松明を持たせて周囲を威嚇してきたのである。


 「あれほどの軍勢が士気高く、しかも威勢を保って攻め寄せてこようとは‥‥‥されど我は降伏などはせぬぞ!!」


 なおも、種実は徹底抗戦しようとしていた。果ては死ぬまで戦うつもりでいたという。


 だが、そんな種実も秀吉のある戦術をみて驚愕することになる。


 なんと、破壊しつくされていた益富城が新しく作られた城かと思うほどきれいな状態で姿を現したのである。


 これを見た種実は戦意を喪失し、剃髪して、子の種長とともに降伏した。


 このとき種実は、茶器「楢柴肩衝」と「国俊の刀」および娘竜子(後、城井朝房正室)を秀吉に差し出し命は許されたという。


 後に判明することであるが、秀吉は秋月方が破却したはずの益富城の城壁を奉書紙を用いて1日できれいに改修したように見せかけたのである。


 そのため後世では、益富城をたった1日で改修に成功した。このことから益富城を一夜城と呼んだという。



 以後、種実は秀吉によって移封させられた日向国財部3万石で暮らすことになった。


 種実は、「10石でもいいから秋月に居たい」と嘆いたが叶わず、1596年9月26日に死去したそうな。


 


 

 

 

 さらに、翌日には秋月方が破却したはずの益富城の城壁を奉書紙を用いて1日で改修したように見せかけて、秋月方の戦意を喪失させることに成功した

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