第20話 安濃津城で一人の若武者が救援に駆けつける

 1600年、伊勢国の宇和島藩の城主に富田 信高という人物がいたそうな。


 信高は、父が隠居したことに伴い家督を継ぎ、安濃津城主5万石の大名となった。


 そして、1600年6月に徳川家康が上杉討伐の軍を起こすと、信高も三百名の家臣を率いて従軍し、榊原康政の軍勢に属したという。


 遠征途中の7月12日に石田三成が挙兵する報せを聞くと、小山評定において他の諸将と同様、家康に与力することを決意する。


 家康は、交通の要衝にある安濃津城を確保するために、信高に先行して帰還し、防備を固めるように命じたという。


 信高は安濃津城に何とか帰還することができた。


 しかし、伏見城を攻略していた西軍は、伊賀方面から伊勢路に向けて大軍を進出させ、すでに近くまで迫っていたそうな。


 また、西軍の九鬼勢の海上封鎖により東軍との連絡は絶たれており、孤立した状態となってしまったという。


 結局、信高は援軍を見込めぬまま、兵1600と共に籠城した。


 対する西軍は毛利秀元、長束正家、安国寺恵瓊、宍戸元続、吉川広家ら総勢三万にのぼったという。


 しかし、長束正家の軍勢が、誤って間違った方向に進み夜に軍勢を安濃津城に向かわせた。


 「長束正家の軍勢が、この安濃津城に迫ってきておるぞ。しかし、今は、夜中である。地形に詳しいのは我らの方である。長束正家に気づかれぬまま夜襲で敵の軍勢を打ち破るぞ!!」


 信高はこの地に詳しい事と夜中であることを利用して夜襲をかけようと皆に言った。


 「「おお―――――――!!」」


 兵士たちはその策を聞き、大いに戦意が高まったという。


 そして信高は長束正家の軍勢を夜襲で撃破して気勢を上げたそうな。


 

 その後、8月23日、安濃津城攻防戦が開始された。


 「皆の者、敵勢である西軍の諸将が攻めてくるぞ。気を引き締めよ!!」


 信高は、兵士たちに気を引き締めるように語気を強くして言ったそうな。



 24日、西来寺が兵火で焼けて町屋まで延焼したという。この機に乗じて西軍は城壁を上り始めたので、信高と分部光嘉は城から打って出ようとしていた。


 「光嘉殿、共に城から打って出て、敵勢を打ち倒そうぞ!!」

 

 信高は戦意が高いまま、城から打って出るように言った。


 「信高殿、どちらが多く手柄をあげられるか勝負といきましょうぞ!!」


 光嘉も戦意が高く、信高の発言に手柄をどちらが多く上げられるか勝負という形で応えた。


 そして、信高と光嘉は城から打って出て反撃を始めたという。


 光嘉は奮闘したが、宍戸元続と戦い、双方が傷を負って退いた。


 「くっ‥‥‥手傷を負ってしまった‥‥‥信高殿すまぬが先に退かさせてもらうぞ」


 光嘉は悔しい気持ちでいっぱいになりながら安濃津城を脱出したという。


 「光嘉殿が退いたか‥‥‥されど我一人となりとて、敵に迎え撃たん!!」


 信高は自分を鼓舞して自ら槍を振るって敵の軍勢に向かっていったそうな。


 しかし、信高は孤軍奮闘したが、群がる敵兵に囲まれてしまう。



 その時であった! 単騎、若武者が救援に駆けつけてきたのだ。


 その駆け付けてきた若武者は、「信高様には指一本触れさせぬ」と語気を強めながらさりとて信高がいつも聞いていたやわらかな口調で言っていた。


 「は―――――――!!」


 若武者は、信高に群がる軍勢を払いのけ、見事信高を救出したという。


 

 危機を脱出した信高はその救出してくれた若武者の顔をみた。


 すると、信高は驚愕し「なぜお前がここに‥‥‥」と大声をあげたという。


 そう、その若武者は信高がよく知っている人物であった‥‥‥‥‥‥‥


 その人物とは、信高の妻であったという。


 「あなた様が危機に瀕しているのなら妻である私が敵勢に迎え撃って救出するのは当たり前のことでございます」


 その言葉を聞き、信高は妻に感嘆したという。


 だが戦いは劣勢で、二の丸、三の丸が陥落し、詰城に追い込まれた。


 25日には、敵が総攻撃に移るなかで、信高は城門を開いて突撃し五百余を討ち取って寄せ手を撃退して再び城に籠もった。


 これ以上戦いを継続するのは困難であると判断した信高が矢文を投じて和議を請うた。


 そして、この日に開城することが決まり、城を明け渡して信高は、高野山に奔ったそうな。



 その後、関ヶ原の戦いが東軍の勝利で終わると、家康より二心無き旨を賞され、失った所領を復して本領が安堵され、さらに伊勢国内に2万石を加増されたという。

 

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