第17話 広門は娘を敵と婚姻させる

 昔々、筑前国御笠郡ちくぜんのくにみかさぐんの国人に筑紫広門つくしひろかどという人物がいたそうな。


 耳川の戦いで大友家が大敗すると、秋月種実あきづきたねざね原田隆種はらだたかかね宗像氏貞むなかたうじさだ龍造寺隆信りゅうぞうじたかのぶらと共に反旗を翻すなど反抗するようになり、立花道雪たちばなどうせつ高橋紹運たかはしじょううんらと幾度も戦闘を行 ったという。


 「耳川の戦いで大友は大敗に喫したぞ。これなら、領地をさらに拡大できるかもしれん。敵が立花道雪・高橋紹運といえども一気に攻めるぞ―――!!」


 広門は今が攻め時と言わんばかりに、勢いが弱まった大友家に攻め入ろうとしたそうな。


 そして、高橋紹運が筑後に遠征した隙を突いて本城の宝満城ほうまんじょうを攻め、これを落し宿願を果たしたという。

 

 「しめしめ、紹運がいない間に宝満城を奪い取ってやったぞ! これで宿願の宝満城を手に入れたわ。がははははは!!」


 されど、敵は高橋紹運並びに立花道雪という名将達だったので、宝満城を奪われることはなかったものの、敗戦ばかりを喫してしまったそうな。


 「まずい‥‥‥敗戦ばかり喫しておる。このままでは、いずれは宝満城も奪われかねん。されど‥‥‥味方にはあの島津がついておる。このまま負けるわけにはいかん」


 苦戦を強いられ深刻な表情をしていた広門の元に、配下がある報せを伝えにきた。


 「広門様、一大事です!! 豊臣秀吉がこの九州の地まで遠征しに来るとの情報が来ておりまする」


 その報せを聞き、広門は大いに驚きながら慌てふためいたという。


 「なにっ‥‥‥それは真か!?」


 「はっ‥‥‥確かなところから情報を仕入れておりますので、正確ではないかと‥‥‥」


 「ともなれば‥‥‥島津に味方をしていれば、わしはただではすまぬかもしれん‥‥‥ならば‥‥‥‥‥‥」


 広門はしばらくの間考えこんだという。


 そして、考えが決まったのか、悩んでいた広門は顔を正面に向けると、娘を呼び出したという。


 そして、広門は何を血迷ったのか敵方の紹運の本拠地にむかったそうな。もちろん高橋家の者に直接会いに行くと報せは伝えてはいた。


 しかし、敵方の紹運や立花宗茂たちばなむねしげは困惑の表情と何を考えているのかわからないといった考えをしていたという。


 そして、広門が紹運の本拠地に来る日が来た。


 広門は少々心配そうな表情を浮かべつつも、飄々としながら紹運の本境地に訪れたそうな。


 そして、紹運が待っている屋敷の部屋に訪れ密談をしたという。


 「ようこそこられた広門殿」


 「こちらこそ面会いただきありがたい」


 広門はいつもと変わらぬ表情で紹運に接した。その際、広門の隣には、何故か広門の娘がいたそうな。


 「それで早速で悪いが要件を聞かせてはくれぬか。何故敵方であるこの私に会おうとしたのか!?」


 紹運はなぜ面会したのか質問してきたという。


 「紹運殿、勘違いされては困るがわたしは何も貴殿と争いに来たのではない」


 「では、一体何用でここに来られた」


 紹運はなおも広門がなぜここに来たのかわからないので質問した。


 「それは‥‥‥貴殿のお子である直次殿とわたしの娘との婚姻を締結するためにここに来た」


 「なっ‥‥‥なに、私の子の直次と貴殿の娘との婚姻だと‥‥‥!?」


 紹運は驚愕した表情を浮かべながら、大声をあげたという。


 だが、紹運が驚くのも無理はない。まさか敵方である紹運に婚姻を提案してくるなど想像もつかないことであろう。


 しかし、その想像もつかないことをやるのが広門という男であった。


 広門は、これまでも毛利家に与し負ければ庇護してもらい、秋月家とも手を組み大友氏に叛旗を翻すかと思えば、毛利氏後退の後は龍造寺氏と組み、島津家にも与するなど変幻自在の行動を繰り返してきた。


 そんな広門は今回も想像もつかない提案をしてきたのである。


 「し‥‥‥しかし、何故、敵方である私にそのような提案を!?」


 困惑した表情で紹運は、広門に質問した。


 「それは、豊臣秀吉が関わっている」


 豊臣秀吉の名を聞いた瞬間、紹運はなぜ提案したのか理解した。


 「豊臣秀吉がこの九州の地まで島津討伐のために、遠征しに来ると聞いた。相手が秀吉ともなれば、島津に付き従っているわけにはいかない。それゆえ、今からでも島津の敵方である大友家に味方した形にするため婚姻を提案したのだ!!」


 「なるほど! それ故、私の息子との婚姻を提案してきたということですな」


 「いかにも!! それにこれは、貴殿にとっても悪い話ではないかと。今、島津軍は秀吉が来る前に、港を支配するために、ここにも大軍で攻め入ろうとしておる。私が味方になれば、少しばかりと言えど加勢になるかと思うのだが‥‥‥」


 「確かに貴殿の勢力と戦うよりも、味方に引き入れたほうが、秀吉殿が来られるまで勢力を維持できるやもしれん。あいわかった。その提案を受け入れよう!!」


 紹運の家臣団は驚いたが、紹運は説得し、ここに婚姻が締結されたのである。


 「ではここにわたしの娘がいるので、すぐさま直次殿と婚姻を結びましょうぞ」


 「ウム。分かった」


 こうして、ここに敵方であった紹運の息子と広門の娘との婚姻が成立したのであった。



 その後、広門は大友の勢力に入り、島津家と戦い、島津の大軍を相手に10日間程戦ったが、結果は広門の敗北に終わった。


 そして広門は島津の手のもに捕縛されてしまったそうな。


 その際、島津の配下の者から、「広門、されど今は狭門」と言われたそうな。


 このように侮辱を受けながら捕らえられていたという。されど殺されることはなかった。


 それは、昔から縁がある秋月種実が広門の延命を頼んだからという。


 こうして、広門は捕らえられたままですんでいた。


 

 一方、紹運の方は、島津の大軍との戦を岩屋城で行おうとしていた。


 

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