第6話 さらさら越え

 昔々、越中の富山城城主に佐々成政なる人物がいたそうな。


 成政は、富山城下を守るために現在の富山市内を流れる常願寺川沿いに「佐々堤」と呼ばれる堤防を築くなど、富山の災害対策や内政などで貢献したという。


 だが、徳川家康と豊臣秀吉との間で戦いが起こると、柴田勝家の時同様、豊臣秀吉に反旗を翻したという。


 尚反旗を翻した時期は、小牧の戦いで、豊臣方が敗走する情報を聞いた後だと伝わっているそうな。


 ともかく、こうして成政は家康の陣営に着くことになり、加賀国と能登国の分断をはかるうとした。


 成政は、宝達山を越えて坪山砦に布陣し、総勢15000人で秀吉方に立った前田利家の末森城を包囲するが、金沢城から急行した前田利家が末森城に殺到する佐々軍の背後を攻撃し、佐々軍は敗北したという。


 さらに上杉景勝も豊臣方についていたため、二正面作戦を強いられることになったそうな。


 また家康と秀吉が停戦した知らせも伝わり、成政は危機感を感じていたのである。


 「くっ‥‥‥利家と上杉景勝との二正面作戦でも苦戦が強いられるというのに、それに加えて、家康殿が停戦をしたなら、このままでは我らはさらにまずい状態に陥ってしまう‥‥‥!!」


 「上様‥‥‥いかがいたしましょうか!!」


 「このまま戦いを継続すれば敗北するは必定。ならば‥‥‥家康殿を再度挙兵させるのみ」


 「しかし‥‥‥この越中の地から徳川様のいらっしゃるところまではだいぶん距離があるかと‥‥‥」


 「それでも家康殿に会い、挙兵を促すのだ。さもなくば我らは終わり‥‥‥ぞ‥‥‥」


 成政は、家康に会うと決めると、早速、富山所から出かけたという。


 されど、成政が向かう道中には厳冬の飛騨山脈や立山山系が立ちはだかっていたのである。


 

 針ノ木峠は「さらさら越え」と呼ばれ、越中と信州をつなぐ抜け道であった。


 1584年、成政はこの峠を超えて信州から浜松まで行こうとしたという。


 道中、極寒の冬山が待ち受けていたが、成政はその峠の道を進んでいったそうな。


 成政の進んでいった道は極寒で、雪が吹雪いていたという。しかも、道は崖沿いでとても狭く、また、雪が積もっていたため足がとられそうになるほど深くまでつかり、進むのがやっとであったという。


 

 「くっ‥‥‥なんという寒さと積雪の量だ。少し進むのでもやっとだ。されどなんとしてでも、家康殿に会い、挙兵を促すぞ。そのためこの極寒の峠道でわしはあきらめん‥‥‥!!」


 こうして、成政と同行するものは必死にくらいつき進んで言ったという。


 しかし、ついていった家臣の中には、道を踏み外し崖から落ちたり、凍傷でなくなるものもいた。


 「すまぬ。この険しい道に付き添い、死なせてしもうた。されど、お前達の働きは無下にはせぬぞ。必ずや家康殿と会い、再度挙兵をさせる!! それゆえ成仏してくれ」


 成政一行はなおも険しい道をあきらめることなく突き進んでいったのである。


 そして無事、家康がいた浜松に着いたという。


 「お願いしまする。家康殿挙兵してくだされ!!」


 「何度も言うておるが、わしは豊臣とは戦わぬ。成政殿、険しい道を進み来てくれたというのにこのような返答になってしまい大変申し訳ない!!」


  こうして成政は家康に会うことには成功したが、何度お願いしても家康を説得することはついぞできなかったのである。


 「くっ‥‥‥わしは一体何のためにここまで来たのだ。これでは一緒についてきて亡くなったもの達に顔向けできんわ‥‥‥‥‥‥」


 成政は苦々しい表情をしていたという。


 されどどうすることもできず、失意の中、再び越中へ帰国したのである。


 

 その後、成政は織田信雄の仲介により降伏したのである。


 降伏してだいぶ経った後、肥後一国を秀吉から与えられたのである。


 しかし、肥後国人一揆が発生、弟分の水野勝成と共に戦ったというが抑えるのが厳しく周辺の大名に助太刀される形となったという。


 成政は謝罪のため大坂に出向いたとされるが、秀吉に面会を拒否され尼崎に幽閉される。


 秀吉は安国寺恵瓊による助命嘆願に耳を全くかすこともなく、加藤清正を検使として、成政の切腹を命じたという。


 成政は切腹の時、短刀を横一文字に引いたあと、臓腑をつかみ出して天井に投げつけたといわれているそうな。

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