第4話 息子と孫を殺した罪 償わせようぞ

 昔々肥前の国に龍造寺家兼りゅうぞうじいえかねという人物がいたそうな。


 当初は分家である水ヶ江みずがえ龍造寺家を興していたのだが、剛腕かつ智勇に優れていた家兼は、たちまち本家である村中むらなか龍造寺家の実権を掌握し、主家に当たる少弐しょうに氏の筆頭家臣にまで上り詰めたという。


 また、大内義隆おおうちよしたかが家臣の杉興運すぎおきかずに1万の大軍を預けて侵攻させたようだが、家兼は筑後川ちくごがわの支流でこれを撃退する活躍をあげたと伝わっている。


 大内氏から少弐氏から離反するように勧められ、外様の家臣であった家兼は、大内氏が主君の少弐資元しょうにすけもとを攻撃した時、積極的に救援をせず、結局資元は自害に追い込まれたそうな。


 そのため謀反による主君殺しと見た少弐氏の家臣・馬場頼周ばばよりちかの策謀により、剛忠の2人の息子と4人の孫が誅殺されたという。


 家兼は90歳を超えた高齢であることから厳しい追及を受けずに生き延びたそうな。


 「くっ‥‥‥わしの息子と孫を全員殺されたもはや龍蔵寺はこれまでか‥‥‥」


 その時であった。家臣の鍋島氏がこう告げた。


 「まだ、中納言円月ちゅうなごんえんげつ坊殿がおられるではありませんか」


 この時、家兼ははっとしたという。


 「そうじゃ‥‥‥わしにはまだ中納言円月坊がおったわ‥‥‥」


 そういうと、家兼は急いで中納言円月坊を預けていた寺に行き、中納言円月坊を保護したのであった。


 「中納言円月坊よ‥‥‥馬場頼周めが、策謀を巡らしお前以外わしの子や孫は皆亡くなった。もはや跡取りとなるのはお前だけじゃ。わしと一緒に、筑後国に行くぞ」


 「はっ‥‥‥分かりました。一緒に筑後国に向かいます」


 こうして、家兼と中納言円月坊は筑後国に逃れ、柳川城主・蒲池鑑盛かまちあきもりの保護を受けたのである。


 その後、蒲池氏の支援を受けた家兼はこの時92歳であったが、老躯を押して再起のために挙兵した。


 鍋島清房なべしまきよふさらがこれに呼応した。家兼の軍勢は馬場頼周の居城の近くまで行軍したのである。


 「彼奴の居城まであともう少しじゃ。一族の仇をこの戦いで果たそうぞ!!」


 「「おおおおおおおおおぉぉぉぉ―――――――!!」」


 家兼が宣言すると、周りの者らは一斉に雄たけびをあげたという。


 その時であった。視察に行ったものが帰ってきたのである。


 「報告します。馬場頼周めの軍勢がこちらに向かっております」


 「さようか‥‥‥ならばこれより決戦となるのう。皆の者に野戦の準備をせよと告げよ」


 「はっ!!」


 その後、隊列を整えて、馬場頼周の軍勢の元に向かったのである。


 そして、ついに復讐の時が来たのである。


 「馬場頼周めの軍勢が目の前に見えるぞ。わしの一族の仇をここで果たさん。皆の者わしと共に馬場頼周の軍勢をうち倒そうぞ!!」


 「「おおおおおおおおおぉぉぉぉ―――――――!!」」


 「では‥‥‥かかれ――――――!!」


 こうして戦いの幕が開いたのである。


 しかし、戦いは早急に片がついたのである。もちろん勝利したのは家兼であった。


 この後、敵の大将である馬場頼周を討ち、龍造寺氏を再興したのである。



 そして、曾孫の中納言円月坊を還俗させ、後事を託すと、間もなく家兼は死去したのである。


 その後、中納言円月坊は龍造寺 隆信りゅうぞうじたかのぶと名を改めた。


 龍造寺 隆信は、少弐氏を下剋上で倒し、五州二島の大守と言われるほどの勢力を築き上げていくのである。


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る