第7話
次の日学校に行くと目の前で武藤が派手に転けた。
「大丈夫ですか」
バラバラになった紙を拾い集める。
「ありがとう」
そう言った声は酷く元気がない。別の理由で大丈夫じゃなさそう。その理由もあらかた見当はつくけど。
「あ、君は良太くんのクラスメイトだよね」
「はい」
やっぱり、と思いながら答えた。
「良太くんはどんな様子?」
「ずっと机に突っ伏してます。何を言っても反応はないです」
正直良太の精神状態はかなりまずい。
三日間学年全員から無視され、冷たい目を向けられるなんて想像もできない苦しみだろう。
なんで良太は学校に来るんだろう。
「そうか。僕は、彼を停学にしたかったんだけどね」
武藤が意外なことを口にした。
「今のは教師失格だね。ごめん忘れて」
どういう意味なんだろう。
才乃は休み時間になると本を取り出した。
森谷のリュックサックに入っていたあのオカルト本だ。
「秀ちゃんも読む?」
ただ面白い本を紹介するみたいに勧めてきたが、教科書やノートはペラペラと見る程度だったのに、この本をわざわざ買ったということはそれだけ重要な意味を持っているのではないか。
「読む」
予想以上に本格的だった。
オカルトという題材自体が子ども騙しではあるが、ちょっと信じれてしまうような詳細さだ。
内容は呪い。
人を呪う方法を知って、森谷は何をしたかったのか。
才乃から本を借り、放課後図書館でしばらく読んだ。
私の中で森谷という話したこともない存在が大きくなっていく。
勝手な親近感と同情。
図書館から出ると、コンピューター室から出てきた才乃と目が合った。
森谷、私は分かる。この感情でしょ。
「何してたの?」
「ゴミコンピューターを探してた」
理解できない。その度に自分が凡人であることを突き付けられる。
家に帰り、扉の前に立つ。鍵をひねると、開かなかった。どうやら鍵は開いていたらしい。ということは帰っているのか。
「ただいまー」
「おかえりー遅いじゃないの」
私が凡人であるのと同じく私の母も凡人だ。
「才ちゃんと同じところ受かったからってなまけちゃだめよ。勉強しなさい」
朗らかな笑顔。
「してるよ」
「あらそおー?あ、そうだ部活はやらないの?才ちゃんの陸上大会録画しちゃったわよ」
天才にあこがれる凡人だ。
「あの子は絵もうまいわよね、こないだおすそ分けしに行くときに見たわ」
それ以上喋らないでくれ。
「ピアノも綺麗ね、夕方たまに聞こえるとお母さん嬉しくなっちゃうの」
お願いだから。
「あなたピアノやめちゃったものね。受験終わったんだしもう一回始めたら?」
私が悪かったから。
「本当に才ちゃんは天才ね」
何かが切れた音がした。
「黙れよっっ!!!!」
階段を駆け上がった。後ろで何か言っているが聞こえない。空気の振動を扉で遮断した。
森谷は良太という天才を、崇め、憧れ、恨み、憎しんだ。
最初はただストレス発散のための呪いごっこだったんだろう。
それが殴られたことで爆発した。
監視カメラの映像をどうにかしてダウンロードし、アカウントを新しく作り、学年LINEから地道につないでくれる人を集めた。
私はこの真相を暴く気になれない。
もうワトソンはやめだ。
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