第6話

良太は停学になるだろう、と思っていたが一夜明けた今日も学校に来た。

髪を坊主にして。

坊主になることで停学を免れたのかという憶測が飛び交った。


「ハゲを隠したね」


才乃が呟いた。

ハゲ、ストレスによる脱毛症か。


一方森谷は学校に来ていない。

あの後リュックサックは綺麗に戻して職員室に持って行った。ちょうど北井は彼に電話をかけているらしかった。


「先生たちも全力でサポートするから学校来いよ。な?」


電話口に大声でそう言っていた。


気持ち悪いぐらいいつも通りに授業は進んだ。

五限の武藤だけがやっぱり焦っているというかくたびれていた。

新人だからだろうか。


「やっぱり先生たちはこの事件を大事にしたくないのかな」


生徒を不安にさせないように、というよりもこの考えが先に出てしまうのは捻くれすぎだろうか。


「県大会からはメディアの報道もあるからねー」


才乃はイチゴ牛乳のストローを咥えながら心ここにあらずという感じで答えた。


「全国大会ともなるとたくさんの人たちが見るんだなー」


その大会に無事に出す、高校の名を全国に知らしめるのが最優先ということか。

そのためなら被害者、森谷はどうでもいいのか。

それをこの天才、才乃はどういった形であれ崩すつもりだ。

しかしそれは良太が大会に出れないことを意味してはいないだろうか。良太はそれを望んでいないはず。

才乃は分かっているのだろうか。


放課後、私たちは陸上部の部室にいた。

ちなみに部員に何故入るのかを尋ねられても才乃は推理のためとしか言わなかった。私の必死の説得により10分だけの入室を許された。

動画は暗いし荒くてよく分からなかったけど、部室というには何もなさすぎる部屋だ。


「生徒はここで着替えないみたい」


埃の被ったロッカーを指でしゅっと撫でて言う様子はさながらホームズだ。

何も触るなと言われているけど。


「あれは何で撮られたものかな」


才乃は椅子を退けたり、机を動かしたり好き放題だ。


「スマホならもっと綺麗に撮れたはずだと思うんだ」


私は椅子を戻しながら感心した、のに才乃が机に乗ったことでそんな感情は吹き飛んだ。


「才乃、注意されたの聞いてなかったの!?」


才乃は机を使い、ロッカーの上に乗ると、まるで絵描きみたいに指で額縁を作った。


「あれ秀ちゃん椅子戻しちゃったの?現場を再現してたのに」


あの一回見ただけの動画を正確に記憶しての再現。

才乃ならやるか。


「まあいいや。うん。画角はやっぱりここ。カメラはここらへんに置かれてたはず」


才乃は天井と壁の境を指差した。


「生徒がここで着替えない理由は監視カメラがあったからじゃないかな」


誰かが回収して、映像を自分のスマホにダウンロードした。

そんな面倒なこと、何が映ってるのか知ってる人じゃないとやらない。


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