#33.四天王の魅力が止まらない件について。(今更)
「サヨ……わしゃあ、もう……だめじゃ……」
「あら、もう弱音? さっきまでの勢いはどこに行ったのかしら」
「だって……だって……全然うまくいかないんじゃぁぁぁぁぁぁ!」
叫びに近い私の声が、その場でこだまする。
なんだなんだと目線が集まっているのを肌に感じながら、咄嗟にすみませんと会釈した。
サヨに付き合ってほしい、そういわれ早数時間は経つ。
マヒルに贈り物をするため、私たちがいるのはどこかというと……
「やっぱ魔法使っていい!? 絶対終わる気しないんだけど!」
「手作りの方がいいってあなたが言ったんでしょ? 恋愛なら任せてとか言う割に、不器用なのね」
「わ、私の専門はあくまで話を聞くことで、こういうチマチマした作業は向いてないんですぅ! おばちゃぁん、新しいのちょ~だい!」
「はいはい、今替えのものを持ってくるから、ちょっと待っててねぇ」
私の叫びに、おばさんが店の奥の方へ取りに行ってくれる。
そう。私は今、ドワーフたちが営む商店街にある、ハンドメイドのお店にやってきている。
武道大会を控えるマヒルのために、お守りを作りたい。しかも魔法を借りず、一からの手作りで。
それならユウナギに……とならないのが、サヨの頭の切れるところである。
「作るなら、マヒルの好きなものを知って、それで作りたいの。でもあの子の家族相手じゃ、うちの種族柄警戒されかねない……何度か来たことある商店街の人なら話しやすいし、彼女のことも知ってる。一石二鳥でしょ?」
いやはや、目からうろことはこのことを言うんだろうか……
聞いたときはさすがの一言しか出なかったけど。
まさかそのお守りを私まで作ることになるなんて、誰が予想したろうか!
前世じゃ裁縫も家事もてんでだめだった私。転生したらワンチャン……? とか思ってたのに! なんて悲しい現実なのかしら!
「はいお待たせぇ。あらやだサヨちゃん、たくさん作ったねぇ。傷は大丈夫そうかい?」
「ええ、慣れたらたいしたことないわ。ごめんなさい。店の備品なのに、ほとんどうちが使っちゃって」
優しく声をかけてくれるおばさんへ、罰が悪そうにサヨは言う。
ユウナギが器用すぎるせいで気づかなかったが、サヨもなかなかの腕前のようで、あっという間にお守りを作り上げていた。
とはいえ手作りはハードルが高かったようで、張りたての絆創膏がいくつもある。
いつもスマートに物事をこなしてきたサヨを見てきたから、こう言う一面は新鮮だなぁ。
「いいのよ~たくさん余ってるんだし。それにしてもマヒルちゃんの好きなもの、なんでも教えて、なんて言われたときはびっくりしたねぇ。マヒルちゃんにいいお友達ができて、嬉しいよ」
店の中にある写真を眺め見ながら、おばさんがにこにこ笑う。
映っているのは小さなマヒルで、必ずといっていいほどピンクのものが身に着けられている。
まさかマヒルが、ああみえてピンクが好き、とはねえ〜思わぬ形でギャップ発掘しちゃったよ、ぐふふ。
「最後に、パワーストーンを入れて終わりね……本当にこんなもの、受け取ってくれるのかしら……」
なんて思っていたさなか、らしくない声がする。
恋をすると、人は不安になる。いくら四天王でも、同じだった。
正直、これを渡したところで、何か進展があるという保証はない。
けれど、私はー
「大丈夫だよサヨ。どんなに不格好でも、相手への気持ちさえこもっていれば十分。きっとマヒルは、喜んでくれるよ」
彼女の背中を、大丈夫だと押してあげるだけ!
だってこんなにも、サヨの気持ちがこもってるのだから!
「あーあーーマヒルはもったいねぇなぁ。こぉんなに好かれてるのに!! せめてサヨが好きなライバルとか出てきたら、ちょっとは変わったりしたりしねぇかなぁ。ユサさんみたいなさぁ」
「ライバル……それなら、うちに心当たりがあるわ」
なぬ???
「知り合いに、鬼族がいるの。うちが四天王になるきっかけを作ってくれたんだけど。その人、マヒルのことも知っているような話していたから……もしかしたら、って」
なるほど、つまり共通の知り合いってことですね!?
つまりその人と武道大会をうまく使えば!!
いける!! これはフラグが確立する予感!!
「じゃあ早速、その人にお願いしよう! マヒルをボッコボコにしてって!」
「誰をボコボコにするですって?」
ん??? この声は??
パっと顔を上げると、すぐそこにマヒルがいた。
大層ご立腹、とばかりに腕を組んで、両眉が吊り上がっている。
や、やっべえ! そういや私、探してくるって言ったままだった!!
「全然帰ってこないと思ったら、こぉんなところにいるなんて……どれだけ探したと思ってるのよ! 夕飯、もうとっくにできてるんだけど?」
「ご、ごめんマヒル! あとちょっと! もうちょっとで帰……」
「マヒル、これあげるわ」
私が言い終わる直前、サヨが無作為に持っていたものを投げる。
慌ててキャッチするそれは、言うまでもなくさっきまで作っていたピンク色のお守りで……
「ちょ、何よこれ。お守り?」
「武道大会用よ。中には、成功や勝利の意味を持つ、カーネリアンっていう石もいれてあるわ。必勝祈願、ってやつかしら」
「ひ、必勝祈願?? 急に何よ、あんたから物を渡されるなんて。闇魔法でもかけたんじゃ……」
「自分も持ってるのに、そんな物騒なことしないわよ」
そういう彼女の手には、同じ柄、同じ形の青色のお守りが握られていた。
いわば、お揃いというやつである。
訳のわからない様子ながらも、マヒルはずっとサヨのことを見ていてー
「そんなに疑うなら、捨ててくれて構わないけど?」
「だ、誰がいらないって言ったのよ。仕方ないからもらってあげるわ」
「素直じゃないのね。やっぱり今からでもかけようかしら」
「……ふーん? ちょっとはマシになったじゃない」
およ??
「あんたがずっとそんなんじゃ、張り合いがなくてつまんないのよね。何で悩んでるかしらないけど、早く解決させなさい! わかったらさっさと帰るわよ! みんな待ってるんだから!」
ぶっきらぼうに言いながら、マヒルは逃げるようにその場を一目散に去ろうとする。
気のせいか、みえた横顔が少し……ほんの少しだけ、笑っているように見えてー
「ね、大丈夫だったでしょ?」
隣にいるサヨに笑う。
彼女はどこか呆れたように見えつつも、満更でもなさそうな……そんな笑みを浮かべていたー
(つづく!!)
*次回分のみ13日(金)に更新します*
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