#32.突撃! 不器用人魚の恋愛相談
思えば、ここにくるのは、随分久しぶりな気がする。
一人でくるのは確か、私が大きくなってすぐ、彼女と仲を縮めた時以来だろうか。
もはや懐かしささえ感じつつ、わずかな記憶を頼りに、奥へ奥へ進んで行くー
「……最悪……何やってるのかしら、うちは……」
滝が流れるそばにある、岩場。
そこに、彼女はいた。
誰に言うわけでもなく、岩に突っ伏している彼女は、どこか愛らしく思えてしまう。
だって、さっきまでそうだったら良いなって勝手に思っていたものが、その様子が確信に変わったからー
「サ〜ヨ、やっぱりここにいた」
気がつくと、声をかけていた。
その声だけで、私だと気づいたのだろう。彼女は顔を上げることはなく、
「……なんであなたが、ここにくるのよ……」
と不満そうな声を上げた。
ふむふむこの反応……やっぱり間違いない。
とはいえ間違ってたら嫌だしぃ、ここはカマをかけてみますか。
「えぇ、ひどいなぁ? サヨが心配できたのにぃ。そぉんなに私じゃない人にきてほしかったのぉ?」
「……誰もこなくていい。一人にしてほしいの。子供じゃないんだから、それくらいわかるでしょ」
「嘘だね、それは建前。本当は誰かに、話を聞いて欲しいでしょ? 例えばぁ、ユウナギとかに」
「………どうしてそこで彼女が出て……」
「そんなの、ユウナギがユサさんと結ばれたからだよ。サヨさ、気になる人できたよね? しかもその相手は、もしかしてもしかしなくてもマヒル……だったりする?」
ずっとそうなったらいいなと、思って動いてきた。
私が知るマヒルとサヨは、いつもケンカばかり。
それでもお互い完全に悪くは思ってなくて、素直になれないツンデレ同士。
フラグがあったとしても恋愛への兆しがみえないから、もう無理かなぁなんて思ってたけど……
「は〜あ。まさか、ちょっとしかいないあなたに勘付かれるとはね」
はい、ありがとうございまーーーーーーす!!!
おめでとうございます! サヨマヒ、見事に恋愛フラグ確定しました!! やったね、めでたい!!
「だよねーー! そうなんじゃないかって思ったんだよ! だってあからさまにケンカ減ったし、最近びみょーーに距離あるってアサカ達も言ってたもん! さっき振り払ったのだって、照れ隠しの一種でしょ?」
「……そこまでわかるなんて、あなた何者?」
「ふっふっふ〜伊達に恋のキューピッドってあだ名つけられてませんから! で? で? いつから好きなの? マヒルのどのあたりが好き?」
「呆れた。他人の恋愛事情を楽しもうとするなんて、趣味悪いわね」
「まあまあ、話したら楽になるって思って!」
「そんなの、覚えてないわ。ガサツでうるさくて、口を開けば文句ばっかり……認めたくなかったのよ、誰があんな脳筋って」
あらやだ、これでもかとばかりに悪口ばかり出てくる……
「……その癖他人の変化には敏感で、いざという時は率先して手を差し伸べられる……ずっと嫌いだったのに、なんでこうなったのかしらね」
すると彼女は、ようやく観念したように顔を上げる。
言われてみれば、マヒルは周りをよく見ている。
あの性格のせいか、どーしても悪役っぽくみえちゃうのが難点だけど。
なんだかんだ言いながらも、かっこよく助けてくれる姿は、さながらヒーローだもんなぁ。
「……リン、参考程度に聞かせてほしいの。あなたから見て、あの子はどう思ってると思う? うちのことについて」
ほほう、そうきましたか!!
マヒルかぁ、マヒルはなぁ。
ああいう脳筋タイプは、恋愛なんか時間の無駄! とかいいそうなとこが難点だよなぁ。
実際、どう思っているのかなんて本人に聞かなきゃわかんないし。
でも……だからってここでわからないとか、曖昧な言葉をかけることはしない。
今、私が、サヨにできることはー
「そんなの、大事に思ってるに決まってるじゃん! そうじゃなきゃあんな風に怒ったり、心配だって私に言ってきたりしないよ」
そのままで大丈夫だと、サヨを安心させること!
「いっそのこと、告白しちゃいなよ〜マヒルって超がつくほど鈍感だから、こっちから何かしないと無理そうじゃない?」
「簡単に言ってくれるのね。告白したところで、ユウナギや魔王さんのようにはならないと思うけど?」
た、確かにユサさんだけならまだしも、お母さん達も四六時中イチャイチャしてるな……
百合が大好きな私としては、みんなああなって欲しいっていうか……
まあ、かといって簡単に告白できるほど、恋愛はうまくいかないんだよなぁ。
「それに、うちにはあのサキュバスのようなかっこよさもないし、女王のような可愛さもない……うちが何か言ったところで、あの子に響くかしら」
そう言う彼女は、さながら恋をする乙女で。とても可愛らしくて。
正直、サヨがこんな顔をするなんて思っても見なかった。
クールで、誰にも興味ないって感じのサヨが、ここまで誰かのことを想っている。
なんて……なんて萌える展開なのかしら!!!
「じゃあ、ちょっとでいいからアプローチしようよよ! なんか贈り物する〜とか!」
「贈り物、ね……そういえば、そろそろ武道大会がある、とか言ってたような……」
ん??? 武道大会、だとぅ???
「それだよ!!! サヨ!! マヒルに、何かあげるってのはどう!?」
「あげるって?」
「意中の人に意識させるにはね、プレゼントはかかせないんだよ!! 自分のために選んでくれるなんて、早々ないからね!」
説明しながら、自分の心がだんだんワクワクしてくるのがわかる。
意中の相手にプレゼントを渡す、恋愛では鉄板ネタだ。
マヒルのために、サヨが何かを作る。
当然プレゼントをもらったマヒルは、少なからず意識してくれるはず……
我ながらいいアイデアすぎない!?
「こっちの世界にもあるのかな? 私が前いた世界ではね、必勝祈願っていって、勝ってほしい~って想いを込めて、相手にプレゼントしたりすることがあるんだよ!」
「ふうん、どんなものがあるの?」
「身につけられるものが多いかな? お守りとか、ミサンガとか。市販でも全然ありだけど、手作りにするとかなり高評価だね!」
「……わかったわ」
ん???
「リン。少し、付き合ってくれる?」
遠慮がちだったものが、決意のような瞳に変わる。
目の奥から、彼女の真剣さが伝わってくる気がして、気がつくと私は二つ返事で了承していた……
(つづく!!)
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