#30.誰が為の王子争奪大戦争


ざわざわ、人が群がってゆく。

何が始まるんだと楽しそうにする人、がんばれと応援する人、様々だ。

会場の右側にはレイジョーさんが、左側にはユウナギが向き合っている。

そして、その中央にあたる場所にいるのはー


「さあ! 始まりました!! 第うんちゃら回、ユサさんの婚約者は私だ! 舞踏会ダンス選手けぇん。司会は私、リンが担当しまーーす!!」


無論、私である。


「はいっ、てなわけでくじとって〜同じ色の人がペアなんだって」


「……ちょっと、何よこれ」


「え、今言ったじゃん。ダンス選手権って」


「んなこときいてないわよ! なんであたしが、くっだらないことに付き合わなきゃいけないのよ!」


マヒルが、怒ったように言う。

まあ、そうなるのも無理はないよなぁなんて思いながらも、まあまあとなだめた。


「……人が席を外してることをいいことに……どうしてうちらまで、参加しなきゃいけないの?」


「しょうがないでしょ〜レイジョーって人が、女子はみんな参加ってきかないんだから。文句ならあの人に言ってよ〜」


「それにしても、なぜダンスなのでしょうか? 婚約者を決めるにしては、少々強引な気がしますが」


そう、今から行われるのは、何を隠そうダンスで競うことである。


女性は好きな人に一直線になる、それ故私のものと独占する人が多い。

女性人気が高いユサさんなら、なおのこと。

どこぞの誰かわからない人が婚約者に選ばれるくらいなら、自分の方がユサさんにふさわしい。


と、いうわけで。この際だから白黒つけさせようと思って私なりに行動した結果、レイジョーさんが発案したのである。

まさか、婚約者を決める対決がダンスになるなんてなぁ。

さすが舞踏会!!


「さて、子猫ちゃん達。くじは行き渡ったかな? 二人一組で踊ってもらおう。審判はこの僕、スキバユサが努めよう。ぜひ僕の前で、美しい舞をみせてくれ!!」


ユサさんの声と、心地よいリズムが会場に鳴り響く。

周りの女子達は皆、二人一組となって、思い思いのダンスを繰り広げる。


ちなみに私たちの組み合わせは、レイジョーさんは、ユウナギ。

そして私とアサカに、サヨとマヒルである。

ユサさんが選んだカイマツって人は、シードらしくて最後の最後に勝った人が踊るらしいけど……


……ん? どこかの圧力を感じる?

いやいやそんなことはないって! あくまで、運ですから!


「とはいえ、私踊ったことないんだよねぇ。アサ、わかる?」


「一般教養並にはありますが、私はこの勝負に勝つ気がありません。お嬢様は、何をお望みですか?」


「私? 私はとりあえず、ユウナギに勝ってもらえればどうでも……」


「成程。では、私にお任せください」


ん?? お任せください??

すると彼女は、私の手を強引にとる。

何を思ったのか、彼女はとにかく私をぐるぐる回しだして……

ああああ、め、目が回るぅ……


「嗚呼!! アサ君、なんて華麗なダンスだ……実に独創的だね。素敵だよ」


「お褒めに預かり、光栄です」


「しかし、リードとはいえ、ペアの子を存外に扱うのは感心しないな。ダンスとは相手のことも考えてやるものだ、それを忘れないでほしい……それと、リン君は相手にされるがままだったが……ダンスは初めてかい?」


「あ、あははは、バレましたー?」


「成り行きとはいえ、僕の人生を決める大切な催しだ。真剣に選ばせてもらうよ」


私の真意が伝わっているのかいないのか、彼女はまっすぐ私を見つめている。

彼女の表情や言葉は、真剣そのものだ。 

それなのに落選した人に向け、傷つかないようにと全員に優しい言葉をかけているのがなんとも彼女らしいし……

さてさて、一方あの二人はっと……


「まず足を揃えて、揃えた足と逆の足を必ず出す。で、右足を、相手の足の間にステップ」


「え? こ、こう? あだっ! ちょっと! 足ふんだんですけど!!」


「自分で自分の足を踏んでどうするの。ほんとこれだから脳筋は……」


あれまぁ、まぁた喧嘩してるよこの二人。

踊りがうまかったサヨはともかく、マヒルは戦闘しかやってなさそうだしなぁ。ありゃ、多分私がなんかしなくても落ち……


「なんて猛烈なダンスだ……まるで、ダンスを通じて語り合っているように聞こえたよ。実に素晴らしいダンスだったが……どうやら君たちには、僕よりも相応しい相手がいるようだね」


「はぁ!!!? そんな相手いないわよ!」


「同感。こんな音も聞かない人、相手してくれる人がいるなら会ってみ……っ!」


途端、彼女の発言が途切れる。

サヨの足が、もつれてしまったのだ。

たった一瞬の出来事だったのに、マヒルは即座に反応する。

間一髪のところで、サヨの背中を支えたのだ!!


「ちょっ、危ないじゃない! あんたまた魔力ギリギリに使ってるんじゃないでしょうね!?」


「………うるさい、ほっといて」


「なっ!?」


「お二人とも、その辺に。どうやら、勝負はあの二人で決まりそうですね」


サヨとマヒルのいちゃいちゃに、ぐふぐふいいながら目線を変える。

そこには、すごく自然に、流れるようにワルツを踊る二人の姿があった。

着ているドレスの影響もあって、それは綺麗で。美しくてー


「まさかこんなところで会えるとは思いませんでしたわ。エルフの成れの果てといわれたあなたには、こぉんな舞踏会に縁もゆかりもないと思いますが」


「………そんな人知りません」


「あら、わたくしを騙せると思って? みせてあげますわ、ユサ様! ここにいる婚約者候補が、どれだけ醜いか!!」


そういうと、彼女の手から火の玉が浮き出てくる。

ユウナギがはっと気づいた時には、もう遅かった。

詠唱もなく放たれた火の玉は、さっと身を翻した彼女の着物の一部を焼き払っていて……


「やっぱり。落ちこぼれハーフエルフのくせに、魔王の四天王にもなって。随分と偉くなりましたのね、ユウナギさん?」


ユウナギのつけていた仮面が、よけた反動ではずれる。

同時に着物生地のドレスが、みるみるうちに焼けてしまった。

破けた背中からみえたのは、紛れもない傷痕だった。

しかも、一つではない。

鞭や刃物でやられたような引っかき傷が無数に、痕となってついている。


知らなかった。ユウナギは世話さえよくしてくれたけど、赤ん坊の頃でさえ、一緒にお風呂に入ろうとさえしなかったから。

そういえばレイジョーさん、エルフ族って言ってたっけ。

よく見たら耳も尖ってるし、ってことはユウナギとは同族ってこと……?


「見たところ、そちらの国では大層よくしてもらっているのですね。四天王になったって聞いた時は、それはそれは驚きましたわ。一体どんなコネを使いましたの?」


「……そちらも隣国でさぞ幸せに暮らしてるようで」


「その減らず口……昔とちっともかわってないんですのね。魔王様も見る目がないですわ! 魔物の声が聞こえるエルフなんて、四天王にしたところで、役に立たないでしょうに」


おほほほほ、と高らかに笑う。

踊っているダンスは綺麗なのに、どこか禍々しい空気が纏っているように見える。


私たちに聞こえるように話しているそれは、きっと彼女の過去だ。

同族であることをいいことに、彼女を「落ちこぼれ」だと批評する。


今の彼女がどれだけ苦労してるか、ここまで来るのにどれだけ努力したのか、私にはわからない。

でも四天王になったのは、少なからずコネではないことは確かでー


「なんなら、エルフ族の生き残りであるわたくしがかわりに四天王になって……」


「それ以上聞く必要はない、綺麗な耳が汚れてしまう」


彼女の言葉と同時に、ユウナギの耳が塞がれる。

振り返ると、そこにはユサさんがいた。

びっくりしたのは私だけでなく、あり得ないというようにレイジョーさんが怒って……


「せっかくのドレスが台無しになってしまったね。風邪をひいてはいけないから、僕の上着を着るといい」


「ゆ、ユサ様! なぜその女を庇うのですか!!」


「ここは仮面舞踏会だ。相手の身分や素性を明かすことは、許されない行為だよ」


「わ、わたくしはユサ様にその者はふさわしくないと思っただけで! そんな汚い女よりも、婚約者にふさわしいのはわたくしでしょう!?


「君の踊りは優雅だ。バレエのようにしなやかで、柔らかい。けど、それ以前の問題で言葉に品がない。言葉は刃物だ。時にそれは凶器となり、その人を縛る茨となる……残念だが、君のような子猫ちゃんは僕に相応しくない」


「なっ、何を言って……!」


「彼女は落ちこぼれなんかじゃない。人一倍努力家だし、他人に蔑まれ甘えることも許されなかった……孤独で寂しがりやな子猫ちゃんだ」


その言葉に、驚いたようにユウナギが目を見張る。

するとユサさんは、彼女の手をとり……


「僕の魔法が効かなかった時から、もしかしてとは思っていたんだ。背中の傷を見て、確信にかわったよ。まさか君が、あの時のお姫様だったとはね」


「……あんた、まさか……オレのこと、きづいて……」


「あの頃より顔つきがよくなったね。気がつかなくてすまなかった。随分と遅くなってしまったが……迎えにきたよ、ナギ。あの頃の約束を、ここではたそう」


ユサさんがユウナギの手のひらに、キスをする。

途端に真っ赤に染まる彼女の様子を、私は興奮して見守ることしかできなかった……


(つづく!!)


*次回分のみ26日(金)に更新します*

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